第2回若手企画シンポジウム報告

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第2回若手企画シンポジウム報告

　先日東京農工大学で開催された日本繁殖生物学会大会の初日の夜に、第2回若手企画シンポジウムを開催しました。昨年に引き続き、たくさんの方々に参加していただき、積極的な議論が展開されました。残念ながら参加出来なかった会員のみなさんにも若手企画シンポジウムの雰囲気を知っていただきたく、ここにご報告します。参加登録121名のうち学生会員が56名と約半数が学生の方でした。何名かの若手参加者の方から積極的な発言がありましたので、その中から3名の方に今回の若手企画シンポジウムに参加しての感想や提言を書いていただきました。若手研究者の生の声が大変参考になります。さて、アンケート結果から見ると第3回若手企画シンポジウムの開催も必至かと思います。次回は文字通り「若手」によって「企画」されたシンポジウムの開催を目指しております。企画に加わってくださる若手研究者の方を募集するとともに、取り上げるテーマについてのご意見も広く募集しております。ご意見・ご要望などがありましたら、若手奨励策検討委員会委員長・束村（htsukamu@agr.nagoya-u.ac.jp）までお寄せ下さい。

　最後に本シンポジウムの話題提供を快くお引き受けくださった、高橋迪雄前理事長（現味の素株式会社）と、シンポジウムの開催に際し全面的にバックアップしていただきました大会事務局の方々に厚く御礼申し上げます。

若手奨励策検討委員会（束村博子、今川和彦、大蔵　聡、田中知己、野口純子、本道栄一）

※第2回若手企画シンポジウム当日のスナップ写真はこちらです。

第2回若手企画シンポジウムを終えて

野口　純子（独法・農業生物資源研究所）

　この秋、東京農工大学で開催された第94回日本繁殖生物学会において、若手企画シンポジウムを実施いたしました。今回が2回目のこの企画は、通常のシンポジウムとは異なり、研究とは如何にあるべきかといった大きなテーマのもと、お招きした講師のお話を伺うとともに、日頃感じている疑問について講師を含む会場全員に投げかけ、意見を交換してもらおうというものです。昨年の第1回は大好評で、あの熱気をもう一度の思いで、学会初日夕べのプログラムとして開催しました。演題は「発見のための法則－雑誌SCIENCEのエッセイから－」。本学会の前理事長であり、長く学生の指導に携わってこられた高橋迪雄先生を講師にお招きし、豊富なご経験と広いご見識を披露していただきました。もちろん、腹が減っては・・の教えに従い、また、喉の乾きで舌がもつれないよう（？）発泡酒で潤しつつ談論風発の場に臨んだことは昨年と同様です。

　高橋迪雄先生は、大学を退官後企業の研究所に勤務されています。ですから、話題は研究する態度とは如何にあるべきかにとどまらず、営利を目的とする企業の研究とはどういうものかについても、わかりやすくお話しいただきました。若手研究者の多くは学生あるいは'ポスドク'など、日頃研究成果とお金の相関関係を考えることのない立場にありまから、'気になるけど想像するしかない世界'である企業研究をちょっと覗くことができた、と感じている人は少なくないのではないでしょうか。そして、今回の参加者に、「このポイントだけ標準偏差が大きいな。どうしよう。棄却検定にかけてしまおうかな・・・」なんて考える人はいないはずです。ばらつきこそが、発見の糸口。そして、ひとりよがりな研究者にならないため、'友人'が必要だと、熱く語っていただきました。'先生とは研究上の友人である'ことを、学生のみならず会場の先生方ご自身も改めて認識されたことでしょう。

　階段教室を埋め尽くす聴衆からの活発な発言は、企画を担当した者として嬉しい限りでした。終了後のアンケートには、'参加して満足した'、'とても示唆に富む内容だった'といった声が多く寄せられました（アンケートの集計結果をご覧下さい）。また、'来年も企画してほしい'という声が本当に多く、シンポジウム後の反省会（若手奨励策検討委員会）でも、早速、来年の企画について話し合いました。今回、学生会員である木下さんや米澤さんにも企画に参加していただき、そのフレッシュな意見とエネルギーに'ちょっと前まで若手'の私達委員は大いに活性化されました。次回はもっと多くの若手会員に企画段階から参加していただき、第3回をさらに身近で刺激的なシンポジウムにしたいと考えています。実験の合間に無理なく参加できる方法として、メーリングリストの立ち上げを準備中です。できたら皆さんにお知らせします。

　最後になりましたが、長時間に渡り熱く語っていただいた高橋迪雄先生ならびに会場準備と夜遅く片づけを担当していただいた大会事務局の皆さんに、紙面を借りて心から御礼申し上げます。

※アンケートの集計結果はこちらです。

「若手企画シンポジウム」に参加して

須田　義人（東京大・院・農学生命・農学研究員）

　実質、研究者を目指してそう遠くはないが、モチベーションに変動が生じる度に我々はどうあるべきかという自問自答を繰り返している気がする。特に、若手と呼ばれる大学院出たての頃は、院生の頃の盲目的な研究姿勢と対比させながら、自分で意識的に選択した、いや運命的に選択したとも言える自分の進路の正当性を何とか確固たるものにしたいという思いで満たされている。研究者は、自営業のようなものであり、いわば自分のアイディアや業績を商品としている自分という会社の社長に近いのではないか。すなわち暖簾分けしてもらいたての小会社である。とはいえ、この会社が将来、どう成長し衰退するかは免許皆伝である若手研究者にかかっている。ただ、通常の企業と異なる点は、その目的意識の中に直接的に利潤の追求だけではないところにあるのではないか。それは、研究者たる所以というか、醍醐味というか、喜びというか、単純に「そこにある真実を見つける」ことといって過言ではない。この喜びは他ではなかなか味わえず、かなり純粋なものである。一方で、立身などのための動機の一つとしてとらえている場合もあるかもしれない。とはいえ、真実を突き詰め、その新規性、正確性および応用性を提示する以上、結果的にそういう性質の労力を発揮せざるを得ない。今回の高橋迪雄先生のシンポジウムに伺い、その場に集った若手研究者に向けた先生の思いはまさにそういったもののように思えた。長きに渡って第一線で手腕を振るってこられた大将は、生きのいい戦士である若手研究者に向かって「真実を追って進め、そして楽しめ」と激を飛ばしたように聞こえた。利潤追求の民間研究機関と公的研究機関を対比させながら、具体的にお話しくださったことで、これから独り立ちしようとする研究者はもちろん、多くの若手研究者にとって、様々な意味で参考になったに違いない。

　自分も含め、若手研究者は何を欲しているのであろうか。結果、評価、賛美賞賛、尊敬、一体何であるのか。さらには、今日の教育システムにあっては、それを楽しむのも難しいし、その感情はバラツキが大きい。先生の講演で、はっきりしたのは、研究者がすることはただ一つ、目的意識をもって純粋に真実を追うことであって、それがこの道を選択した者の勤めであると。それを続けることで付随してくるものは、直ぐでは不可視なものではあるが、多くの環境にさらされることできっと優位なものとして扱われるであろうと。野心家には気の長い、遠い道のりになる考え方かもしれないが、このことは、研究生活が有限なものであり研究に割く時間軸が異なる以上、結果的に追い求めるものが1つ、2つあるいはそれ以上であっても真実を追究しようとする姿勢は崩さず、純粋に、かつ無くしてはいけない信念のように思えた。

　先生の多くのご指摘中でも、「データの扱いを大事にすべき」とされたことは、真実を追うという意味で信念の持ち方とは別に、かなり具体的なテクニックに近いものであった。この点は、恐らく我々若手研究者にとって理解している様で、なかなか疎かにしがちなことではないだろうか。データを大事にすることは、誠意に取ったデータは決して嘘はつかず、彼ら（データ）が我々に訴え、提示している真実を見逃すべきではないということであろう。彼らがどのような性質や構造を持ち、取ったデータがいかなる分布をしていて、歪んで偏っているのか等、それらを見つけるのは我々研究者の役割であり責任である。将に、これは真実を追求するための核心的なテクニックであり、きっと研究を楽しむ第1歩であろう。物理的な研究技術の発達と共に、測定・検出技術が自動化され、その高度さと、複雑さから、まるでそれを繰り返し行い、流暢にできることが研究の全てであるかのような今日の研究教育システムにおいて、こういったデータを大事にするということは軽視されているように思う。そのデータと語り合う教育カリキュラムも不充分であるように感じる。将に、百戦錬磨の先生の講演の中で、ある種アナログ的な「データを大事にする」という提言は、我々若手研究にとって覚醒させられた一言であった。

　バイオ産業への期待とその応用性の高さから、特にバイオ研究に携わっていこうとする我々は今まで以上に過酷な環境下におかれ、勝負していかなければならないが、今も昔も決して忘れてはならないものはあり、度々自問自答していくことは先生のご講演の中の多くに見られたし、感じられた。いずれにしても、研究は是非とも「楽しみたい」ものである。

　最後に、先生におかれましては、いつまでも第一線にあって我々若手研究者に激を飛ばしていただきたく、今回の講演に対しまして心から御礼を申し上げたいと思います。そして、若手奨励策検討委員会の皆様に、このような会を催してくださったことに感謝申し上げたいと思います。今後、ますますの発展と若手研究者奨励を推進してくださいますことを期待致しております。

二回目の若手企画シンポジウムに参加して

林　加奈子　（帯広畜産大・増殖）

　昨年に引き続き、今年もこの若手企画シンポジウムに参加させていただき私自身とても楽しい時間を過ごさせていただいたように思います。特に今年は話の内容も学会という一見固いイメージから離れて、大先輩からの経験をふまえた研究に対する取り組み方のような話をきかせていただいて大変興味深く思われました。はじめは大教室で先生と生徒のような形で行われることに、また一方的な内容になるのかな（すいません。去年すくなくとも私はあまりよかったという感想は持っていません）と思っていましたが、去年と違って私たち若手に共通する、それも研究を進めるに当たって必ず知っておいた方がいい内容だったために、多くの参加者が自分の研究の進め方に照らし合わせたり、今後の参考にと意識を持ってきいていたように思います。また、高橋迪雄先生の話し方も柔らかな物腰で、私自身高橋先生のイメージがかなり変わりました。

　一方で形式があのような講義形式だったためにどうしても意見を述べにくく大部分の参加者は受け身的な立場にならざるをえなかったような気がします。特にまだまだ大勢の人前で自分自身の意見を述べることに慣れていない私たち若手はどうしてもおとなしくなりがちだったような気もします。そのことは日本人的でよくないことなのかもしれませんが、その点は真摯に受け止め、逆にもう少し形式を変えるだけで意見を述べる練習の場に変えていけるのではないかと思いました。去年、東大の米澤さんが若手シンポジウムの進言として書いておられましたが、私自身も今後は演者は若手で内容は自分たちの研究発表にとどまらず、どういった研究を進めていくべきなのかという個人の考えを全面に出してもらい、（もちろん研究者としてのあり方、もしくは研究の場の選択の仕方のような内容もおもしろいと思います。）聞き手も研究意識を高くもてるような方向になればと思います。そのためには講義形式の部屋ではどうしても一方的に進んでしまうと思われるので、やはり参加者の顔が見えるような机といすを配置し、最初は思い切って人数も5-8人単位のグループに分け、もちろんメンバーも大学ごとにかたまらずばらばらにし、先生もばらばらに入っていただき、その中でどんどん意見を述べることが可能な場に変えてみてはどうでしょうか？その後全体として討論ということで演者に直接その場で出てきた意見をぶつけてみるような形はどうでしょうか？ビールとつまみ片手に発表よりもその後の討論時間を多くとり、参加者が自分自身のこととして考える場を設けることが今後の発展につながるのではないのかなと思います。かなり勝手なことを書いているかもしれませんがご了承ください。

　最後になりましたが、このような企画を運営されて実行されている若手の先生方にこのような場を与えてくださったことを感謝し、さらに自分自身今後の発展に努力していきたいと思います。ありがとうございました。

若手企画シンポジウムの感想

川口　真以子（独法・国立環境研究所・環境ホルモン�ダイオキシン研究プロジェクト・NIESポスドクフェロー）

　日本繁殖生物学会に参加させていただいたのは実は今回が初めてです。繁殖学会には以前から学術的魅力を感じていたのですが、ホームページで報告されていた若手企画シンポジウムが楽しそう、という理由も参加を後押しした動機のひとつでした。この文を今私が書いているのは不思議な気がします。

　今回の若手企画シンポジウムの魅力は、演題にありました。抄録に掲載された SCIENCEのエッセイ「発見のための法則」の翻訳は、大学院を卒業したばかりの私が新しい環境で研究を推進するにあたり悩んでいたことを数多く内包していたからです。演者は生殖生理学をリードしていらした高橋先生ということで、その充実した研究人生を通じての研究に対する考えや姿勢が伺えるのはとても貴重な機会だと思いました。

　印象的なお話として、高橋先生の理想とする学生との関係があげられます。先生の学生への要求には、指導教官や既存の学説に抗うような激しさと、先生との情緒的な一体感という内容が含まれており、はじめは矛盾しているように思えました。しかし、強い信頼関係にある師弟でなければ、指導者に対して反論することや、指導者が反論を受け入れることが難しい、ということを鑑みると、一見相反する二つの要求は一貫していることに後になって気づきました。本質的には研究上の判断には情緒が介入する余地はないのでしょうが、人の心を生かすことがよりよい研究に結びつくのだと考えさせられました。

　このシンポジウムで最も注目していたテーマがあります。「スマートな友人を見つける」という項目5です。私はこの4月から新しく研究を立ち上げるにあたり、ほかの所属の方にどの程度相談してよいものか悩んでおりました。ライバルの存在が研究を推進する場合も多く、すべてをさらけ出しあうことが必ずしもいいこととは限りません。また、高橋先生のおっしゃったように、内分泌という研究分野はすでに顔見知りだけが集まる村社会ではないわけです。そのうえで未発表データについても活気ある討議をするための暗黙の掟、のようなものがあるのなら、いつか教えていただきたいな、と思っております。

　高橋先生、束村先生および諸先生方、この若手企画シンポジウムではいい刺激をいただき、また私のような新参者に感想を申し上げる機会を与えてくださいましてありがとうございました。今後ともこのような会が続きますことをご期待申し上げます。

問い合わせ先

日本繁殖生物学会
若手奨励策検討委員会委員長
束村博子（名古屋大・院・生命農学研究科）
E-mail: htsukamu@nuagr1.agr.nagoya-u.ac.jp

URL: http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsar/
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