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日本繁殖生物学会若手奨励策検討委員会では、2000年10月2〜4日に神戸大学で開催された大会期間中に、企画もの第一弾として「第一回若手企画シンポジウム」を実施しました。本シンポジウムには多くの若手、自称若手の研究者のみなさんにご参加いただき、また予想を超える反響を頂きました。ここに、本企画の詳細とアンケート結果をご報告いたします。また、大学院生の皆さん(米澤さん(東京大)、木下さん(名古屋大)、村上さん(岡山大))からも本企画に対する感想・提言を頂きましたので、合わせて掲載させていただきます。本委員会へのご意見、ご希望等がありましたら、束村(htsukamu@agr.nagoya-u.ac.jp)までお寄せいただければ幸いです。
最後に、本企画を実施するにあたって全面的にご協力いただいた神戸大学の大会運営委員の皆さまと、本企画に参加頂いた会員の皆さまに心より感謝いたします。
若手奨励策検討委員会(束村博子、今川和彦、大蔵 聡、田中知己、野口純子、本道栄一)
野口純子(農水省・農業生物資源研究所)
去る10月3日、神戸大学で開催された第93回日本繁殖生物学会において、第一回若手企画シンポジウムを実施しました。JRDはもとより、学会ホームページやメーリングリストを通じて開催をお知らせしたものの、夜7時からの企画にどれだけの参加者があるのか、企画した側として正直なところかなり不安な思いでした。その不安は、しかし、開演が近づくにつれ参加者が会場に入りきれるかどうか、用意した飲み物や食べ物は皆さんに行き渡るだろうかという不安に変わっていきました。参加登録者数92 名(正会員60名、学生会員32名)という予想以上の参加があり、和やかな雰囲気の中にもシンポジストとの意見交換が活発に交わされました。初めての企画を成功の内に終えることができたのは、大会事務局の皆さんのご助力とシンポジストの先生方の熱のこもったご講演、そして何より参加してくださった会員の皆さんのおかげです。ここに深くお礼申し上げます。
今回講師をお願いしたのは、笹本修司先生(「学会の過去・現在,将来への期待」 )、今川和彦さん(「妊娠・着床に関する遺伝子発現プログラム」)そして、本道栄一さん(「ポストゲノムを生き残るために」)の3人の方々です。笹本先生には繁殖生物学会の発足の経緯に加え、研究者は権威でなくデータに忠実でなければならないこと等、明治の文学者であり軍医でもあった森鴎外の実例を交え示唆に富んだお話をしていただきました。今川さんは、着床に関与する遺伝子について最新の手法であるDNAマイクロアレイを用いた発現解析をすすめておられ、そのお仕事を紹介をしていただきました。各種ゲノムプロジェクトでゲノムの塩基配列解読が進むにつれ、その機能を解明するためには翻訳産物である蛋白の発現を解析すること(プロテオーム解析)が不可欠であることが再認識されています。本道さんは精子形成におけるプロテオーム解析をすすめておられ、そのお仕事を紹介していただきました。会場の瀧川記念会館は神戸大学農学部のキャンパスでもとりわけ海に臨む景色のすばらしい建物で、サンドイッチを片手に講師のお話に耳をかたむけつつふりむけば100万ドルの夜景をほしいままという、贅沢なシンポジウムとなりました。フロアからは、「その研究を行うにはどれくらいお金がかかるんですか」といった素朴なものから、実験計画についての’つっこんだ’質問もあり、通常のシンポジウムにない自由さがありました。夜景とアルコールの相乗効果もあったのでは。時間の関係上せっかく議論が白熱してきたところで終了せざるを得なかったことが残念でした。企画側の不手際をこの場を借りてお詫びします。
この初めての企画は、若手奨励策検討委員会(束村委員長、今川副委員長以下計6名)のなかで、最近、学生会員や若手会員は学会と自分との間に距離を感じているらしいことが問題となり、’それなら若手研究者が繁殖学会をより身近なものと感じ、活発に発言できる機会を作ってみよう’という発想で実施することになりました。多くの方が興味を覚えるであろう’ホット’な話題を提供していただき、それに関してざっくばらんに質問や意見を述べることができるシンポジウムを目指したのです。会場でお配りしたアンケートの回答によれば、参加者は概ねその内容に満足しており、 飲み物片手のシンポジウムの形式も好評でした。また、次は企画段階から参加してみたいと回答された方も多く、嬉しい限りです。次回はインターネットなどを利用してなるべく多くの方から意見をいただき、さらに満足のいくシンポジウムをひらきたいと考えています。こうした企画を通じて、繁殖生物学会がわれわれ若手会員にとって 単に研究成果を発表する場であるだけでなく、同じ研究分野に携わる多くの研究者と交流する刺激的な場となれば素晴らしいと思います。
米澤智洋(東京大・農・獣医生理)
今回、筆者こと東京大学農学部獣医生理の米澤智洋は、この投稿文において、若手企画シンポジウムをよりよいものにするために、以下のことを進言したくおもいます。
1:演者をさらに若手(20代)にする
2:演題は「もし私にアメリカ国防費並の研究費が与えられたら」、あるいは招待講演やシンポ並の大きなテーマで
3:演者の発表時間と同じくらいの質疑応答時間をとる
4:机とイスのあるところで、できれば円卓
5:ビールは缶ビール
先だって開催された第93回本学会での若手企画シンポジウムは非常にエキサイティングで、時間がほんとに短く感じられました。笹本先生の繁殖研究の歴史では、現在の大御所たちも、私と同じように、失敗の連続で試行錯誤を繰り返すちんけな若造であったという事実に、大きな驚嘆とくじけぬ勇気をいただきました。今川先生の、不妊治療への第一歩となる着床時のマイクロアレイ探索では、体外胎児培養という壮大な夢を与えられました。またその主な研究成果は筆者の同期の友人によるものであり、友人への強い尊敬と焦燥の念にかられました。本道先生の、減数分裂のメカニズムにせまるプロテオーム解析では、今後はそのターゲットを脳へひろげようという、繁殖の分野にとどまらない発想の柔軟性に感銘を受けました。しかし何よりも、館先生をはじめとする、豪放で挑戦的な質疑応答が、体中の血が沸騰するかと思うくらい、もう最高に楽しかったです。あえて偏った命題を提示して演者の真意を引き出そうとするディスカッションスタイルは、粗野で高慢で無知ではあるが、誇りと自信と勇気に満ちた血気盛んな「若手」の精神ならではだと思います。
さて、筆者は、そんな本シンポをよりよくするために、冒頭に示した事項を進言させていただきます。
そもそも本シンポの開会意義は、繁殖学というものを若手に再考させ、繁殖学の未来のためにはどういった研究をすべきか討論し、若手の研究意識を奮起させることにあると筆者は考えます。そうしますと、若手自信に演者をやらせる方が望ましいと思います(進言1)。それも演者の研究成果を発表させるのではただの口頭発表なので、演題はできるだけ大きな題目(例:「クローン」、「不妊治療」、「食糧問題」など)で、演者には総説でも書くくらいのかんじで準備してもらいます。ここで大事なのは、現在の知見を述べるのはそこそこにして、現状打破のためにどういった研究をすすめていくべきなのかを、演者自身の私見を全面に押し出した格好で発表してもらうことです(進言2)。自分たちと同年代の演者がこうした講演を行うことで、若手に繁殖の未来は自分たちにかかっているんだということを強く自覚させることができるでしょう。
もう一つ重要なのは、討論の時間を長くとることです。とりとめのない、青臭くて、科学的とは言い難い、若手の甘い考察による講演を聞かされて、絶対に聞き手は反論したくなります。ここで若手にかぎらず、ベテランも交えた活発な議論をしていただきたい。聞き手は皆、繁殖の未来について真剣に思いを巡らせ、自分自信の考えを持つでしょう。このシンポはどちらかというとここがキモです。演者の発表はこのための前ふりといっても過言ではありません(進言3)。活発な議論のためにも演者には挑戦的で独りよがりな発表をしていただきたいと思います。
あとはセッティングですが、討論を円滑に行うためには、みんなの顔を見渡せる円卓が望ましいでしょう。食べ物や飲み物をとりながら、ということなら、机があった方がありがたいです(進言4)。それから、「差しつ差されつ」は仲良くなるのには好都合ですが、話を聞く妨げになるので、瓶ビールよりは缶ビールがよいと思われます(進言5)。
こんな型破りなシンポジウムはよその学会で聞いたことありません。この企画が軌道に乗ればきっと本学会の名物シンポとなり、ひいては本学会の活性化にもつながること請け合いと筆者は確信しています。
最後に、今回の企画の運営をなされ、また非会員である筆者にこのような場を与えてくださった束村先生をはじめ、諸先生方、神戸大学の皆様に感謝の意を表して、この文章を締めくくりたいと思います。ありがとうございました。
木下美香(名古屋大・院・動物生殖制御)
「若手企画シンポジウム」に参加して一番強く感じたのは、会場全体の一体感でした。気軽に言いたいことをいえる自由な雰囲気にあふれていたように感じます。今まで数回出席した学会のシンポジウムにはないものだと思います。
学会では、演者との距離を感じ、発言しづらいものを感じていました。もちろんどのような場所であれ、そのような壁を乗り越えて疑問や意見は率直に口に出してはっきりいうべきでしょう。しかし、私は頭ではわかってはいても、なかなか実行できずにいます。学会で学生の発言が少ないことは、学生でそのように思っている人がたくさんいるのではないでしょうか?
学会の目的の一つは、自分の考えを主張し、それを皮切りに多くの議論を重ね、多くの人の批判を含めた意見の交換をしあうことだと思います。もちろん学生もその議論に参加した方が学生自身のためでもあり、好ましいと思われます。学生も自由に意見がいえる学会にしてしまおう、というのは、勝手な思惑であって、どんなことでも発言できるよう努力しろといわれそうですが、この今回の若手企画シンポジウムを足場にして、私自身を含め、学会全体で学生がたくさん意見がいえるようになればいいな、と期待しています。
若手企画シンポジウムは、発言の練習に最高の場所だと思います。学会を変えるまでもなく、若手企画シンポジウムを持続していけば、自由で活発な若手企画シンポジウムの雰囲気を学会のほうにも、持ち込むことが可能であるような気がします。ということで、この企画は継続していただけたら最高に嬉しいというのが私の率直な意見です。
また、学会発足から現在に至る歴史を実際その目でご覧になってきた笹本先生から直に話が聞けたことも非常に嬉しく思いました。あの企画は若手のための企画として最高だと思いました。笹本先生の「あの発言があればもっと議論は面白くなっていたのに」という話がとても印象的で、発言することに関して、また、深く考えさせられました。笹本先生ありがたいお話ありがとうございました。
村上周子(岡山大・院・家畜繁殖)
この度の「若手企画シンポジウム」は、軽食を取りながらの気楽な雰囲気でした。シンポジウムと言えば、演者の多い講演会のようになってしまうことがよくありますが、今回はディスカッションが盛り上がり、とても活気のある楽しい時間を過ごさせていただきました。私もその雰囲気に乗せられて発言をしました。
また、笹本先生からなかなか聞く機会の少ない、昔のことを伺うことができたのは貴重な経験でした。ホットな話題を話し合うことがメインであるとしても、温故知新と言われるように、過去を知ることがまた新たな発展につながることもあると思います。
会場を使用する時間の都合上、とにかく部屋を出なければいけないという状況で教官も学生も主催側も参加側もなく、全員で片付けたのもまた楽しい出来事でした。ただ、とても活発に意見交換がされていたのに切り上げて会を終わらざるを得なかったことには、物足りなさを感じています。次回からは、討議や歓談の時間を多く取るような構成にすれば、ゆとりも出て、さらに盛会になると思います。
残念なことに若手の参加がまだ少なかったのですが、それは若手側の意識と若手の定義を明確にすることの双方が足りないからではないでしょうか。私自身、「若手研究者」という響きに学位取得者あるいは研究で何らかの業績を挙げているようなイメージを抱いたので、当初は参加することに不安もありました。関係ない、参加してもわからないだろうと敬遠した学生もいるはずです。ここでの若手は、学部生や院生が中心であるという認識はまだ薄いと感じます。しかし、これから先、このような企画が繰り返されることにより、学生の意識は定着して行くことと思います。さらに今後は、企業で研究員として活躍されている方々にも多く参加していただき、意見交換、情報交換をする中で互いに学ぶ機会がもてるようになることも期待しています。
日本繁殖生物学会
若手奨励策検討委員会委員長
束村博子(名古屋大・院・生命農学研究科)
E-mail: htsukamu@nuagr1.agr.nagoya-u.ac.jp
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