Volume 52, Number 1(2006)


転写因子Prop-1遺伝子は下垂体由来のゴナドトロフ系譜の細胞株で発現している (J. Reprod. Dev. 52: pp. 195-201, 2006)

相川優子・佐藤崇信・小野哲男・加藤たか子・加藤幸雄

明治大学農学部生命科学科遺伝情報制御学

転写因子Prop-1は、下垂体発生の初期段階でGH、PRL、TSH産生細胞の発生を促す転写因子Pit-1遺伝子の発現を支配する上流遺伝子として働いている。また、Prop-1遺伝子の異常は低ゴナドトロピン症を示すことから、FSH/LH産生細胞(ゴナドトロフ)の機能にも係わっていると考えられている。最近、我々は、Prop-1がブタFSHβ鎖遺伝子の発現を直接制御していることを発見した。この事は、FSH/LH産生やProp-1遺伝子異常により生じる低ゴナドトロピン症におけるProp-1の機能解明に新展開をもたらすと期待される。こうした背景のもとに、本研究では、下垂体腫瘍由来の各種の株化細胞におけるProp-1遺伝子の発現を解析した。まず、Pit-1、αサブユニット(αGSU)、GnRH受容体、およびcyclophilin A遺伝子の転写物の半定量的解析をRT-PCRにより行った。その結果、αT1-1、αT3-1、LβT2、LβT4、TαT1、GH3細胞でαGSU遺伝子の発現が、αT1-1、TαT1、MtT/S、GH3、TtT/GFの各細胞でPit-1遺伝子の発現が、また、αT3-1、LβT2、LβT4、GH3細胞でGnRH受容体遺伝子の発現が、それぞれ確認された。これらの発現のプロファイルは、一部の例外を除いて、これまで確認されている細胞系譜が示す性質と合致していた。一方、リアルタイムPCR法を適用して、Prop-1およびFSHβ鎖遺伝子の発現をcyclophilin Aのそれに対する相対量として定量的に解析をした。その結果は、ゴナドトロフ系譜の細胞の中でもFSHβ鎖遺伝子を発現しているLβT4およびLβT2においてProp-1が発現していることを示していた。我々はProp-1が成熟したブタの下垂体ゴナドトロフに存在していることは以前に報告しているが、本実験結果も合わせると、Prop-1はホルモン産生ばかりでなくゴナドトロフの分化・発達にも関係していることが予想される。

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酸化ストレス時のビタミンE及びC投与がラットの精巣形態に及ぼす影響 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 203-209, 2006)

Maria Jedlinska-Krakowska1)・Grazyna Bomba2)・Karol Jakubowski1)・Tadeusz Rotkiewicz2)・Barbara Jana4)・Aleksander Penkowski3)

1)Division of Pathophysiology, Department of Pathology and Pharmacology, Faculty of Veterinary Medicine, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Poland
2)Division of Pathological Anatomy, Department of Pathology and Pharmacology, Faculty of Veterinary Medicine, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Poland
3)Department of Animal Anatomy, Faculty of Veterinary Medicine, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Poland
4)Division of Reproductive Endocrinology and Pathophysiology, Institute of Animal Reproduction and Food Research, Polish Academy of Sciences, Poland

本研究では、ビタミンE及びC投与が、オゾンの精巣に対する有害な影響を防ぐことができるか否かを検討した。実験では、5月齢ラットにオゾン(0.5 ppm)を50日間(5時間/日)曝露し、同時にビタミンEあるいはCを5日間の間隔で、種々の濃度(0.5, 1.5, 4.5, 15 mgのビタミンEのみ;0.5, 3, 9, 50 mgのビタミンCのみ;ビタミンE及びCの両方)で投与した。精巣切片にはPAS染色を施した。オゾン曝露のみの雄ラットでは、精細胞の減少が生じた。オゾン曝露+ビタミンE投与群では、精巣の形態は対照群と同様であった。但し、0.5 mg投与群では、血管周囲の線維化及び間質領域の硝子化が観察された。オゾン曝露+ビタミンC投与群では、間質領域の硝子化、精子発生の部分的な停止及び精上皮の剥離が、濃度に比例して認められた。さらに、50 mg投与群では、未熟な精子離脱が見られた。オゾン曝露+ビタミンE及びC投与群では、精子発生の部分的停止及び血管変性に加え、硝子化及び線維化が確認された。結論として、ビタミンEは、濃度に関わりなくオゾンのラット精巣に対する有害な影響を防ぐことが明らかとなった。こうした機能はビタミンCには認められず、Cの濃度が増すにしたがってオゾンに起因する精巣の損傷は増大した。

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ニワトリ卵管膣部におけるガリナシンmRNA発現におよぼす加齢,産卵機能およびサルモネラ菌接種の影響 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 211-218, 2006)

吉村幸則・大橋裕樹・Kalpana Subedi・西堀正英・磯部直樹

広島大学大学院生物圏科学研究科

Gallinacins(Gal)はニワトリの自然免疫に重要な役割を果たす抗菌ペプチドである。本実験はニワトリの卵管膣部におけるGal-1、-2および-3の発現が加齢と産卵機能の影響を受ける可能性とサルモネラ菌(SE)とリポ多糖類(LPS)に反応して変化する可能性を追究した。白色レグホン種産卵鶏を若齢区と高齢区、産卵区と給餌制限した休産区に分けた。また、産卵鶏の膣部細胞を培養してSEまたはLPSで刺激した。各区のニワトリの膣部粘膜および培養細胞におけるGal-1、-2および-3のmRNA発現をリアルタイムRT-PCR法で解析した。Gal-1、-2および-3のmRNA発現は若齢区より高齢区で有意に高かった。一方、産卵区に比べて休産区では卵管が退行しており、各GalのmRNA発現は有意に低下した。培養条件下でSEまたはLPSを膣部細胞に作用させると24時間後にはGal-1、-2および-3のmRNA発現は有意に増加した。これらの結果から、ニワトリの膣部におけるGal-1、-2および-3のmRNA発現は加齢によって増加すること、また産卵停止に伴う卵管の退行により発現が減少するものと考えられた。また、これらの抗菌ペプチドのmRNA発現はSEとLPSに反応して増加したので、SEの膣部への侵入を防ぐものと考えられた。

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成熟雄ラットにおける潜在精巣作出が精子運動能と精巣内分泌機能に及ぼす影響 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 219-228, 2006)

Longquan REN1,2,3)・Mohamed S. Medan2,4)・小津真理子2)・李 春梅1,2)・渡辺 元1,2)・田谷一善1,2)

1)岐阜大学大学院連合獣医学研究科基礎獣医学連合講座
2)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室
3)延大学農学院獣医学科獣医生理学研究室
4)Department of Theriogenology, Faculty of Veterinary Medicine, Suez Canal University, Ismailia, Egypt.

ラットにおける潜在精巣作出が精子運動能とLH、FSH、インヒビンおよびテストステロンの分泌に及ぼす影響を調べた。成熟雄ラットの両側精巣を手術により腹腔内に固定した。手術後1、3、5および7日後に、1群5匹のラットから断頭により採血した。運動する精子の割合(%)は、手術後1日から低下し、潜在精巣3日目から対照群と比べ著しく低下した。5つの精子運動のパラメ−タ−は、手術後5日目に対照群と比べ著しく低下した。血中LH、FSH、テストステロンとインヒビンB濃度は、潜在精巣1日目に有意に低下したが、血中LHおよびFSH濃度は潜在精巣7日目に対照群と比べ著しく増加した。しかしながら、精巣間質液中インヒビン濃度は、潜在精巣1日目から3日目まで対照群と比べ著しく増加し、10日目には逆に対照群と比べて著しく減少した。精巣間質液中テストステロン濃度には、有意な変化が認められなかった。潜在精巣のhCGに対する反応性を調べた結果、対照群に比べて著しい低下が認められた。これらの結果から、精巣への熱ストレスがセルトリ細胞だけでなくライディッヒ細胞機能をも抑制していることが明らかとなった。本研究の結果から、雄ラットの精巣に対する熱ストレス負荷は、3日以内に精子運動能が低下し、引き続いて精巣内分泌機能が低下することが判明した。

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ヨークシャーブタQTL解析のためのマイクロサテライトマーカーの利用 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 229-237, 2006)

Chul Wook Kim1)・Yeon Hee Hong2)・Sung-Il Yun3)・Sang-Rae Lee3)・Young Hyun Kim3)・Myeong-Su Kim3)・Ki Hwa Chung1)・Won Youg Jung1)・Eun Jung Kwon1)・Sun Sook Hwang1)・Da Hye Park1)・Kwang Keun Cho1)・Jung Gyu Lee4)・Byeong Woo Kim4)・Jae Woo Kim5)・Yang Su Kang6)・Jung Sou Yeo7)・Kyu-Tae Chang3)

1)Department of Animal Resources Technology, Jinju National University, Korea
2)Department of Food Production Science, Faculty of Agriculture, Shinshu University, Japan
3)National Primate Research Center, Korea Research Institute of Bioscience and Biotechnology, Korea
4)Division of Applied Life Science, Gyeong Sang National University, Korea
5)Institute of Biotechnology, Yeungnam University, Korea
6)Gyeongsangnam-do Agricultural Research and Extension Servies, Korea
7)Institute of Biotechnology, Yeungnam University, Korea

ブタの経済形質を予測するマーカー遺伝子を同定する目的で、157個のマイクロサテライトマーカーを用いてヨークシャーブタにおける連鎖解析を行った。一日あたりの増体量(ADG)や背部皮下脂肪厚(BFT)が平均値よりも1.5標準偏差(SD)以上離れている38頭の雌ヨークシャーブタをまず選抜した。次に、ADGやBFTが平均値+1.5 SDより大きな個体3頭、平均値-1.5 SDより小さな個体3頭を選び、雄デュロックブタと交配させた。生まれた200頭のF2世代についてADGやBFTと相関する遺伝子座を見つけるため、連鎖解析を行った。これにより得られたマーカーの候補については、さらに228頭の純系のブタを用いてADGやBFTとの相関があるかどうかを確認した。25個のマーカーがADGもしくはBFTと有意な相関を示し、そのうち17個はADG、BFT両者と相関していた。また、ADGと最も高い相関を示したマーカーはBFTとも相関を示した。以上の研究により、今回同定されたマーカーがブタの経済形質を予測する上で有用であることが示された。また、今回同定されたマーカーの位置は過去に報告されているADGやBFTの量的形質遺伝子座(QTL)内に存在することが確認された。しかし、より正確に経済形質を予測できるようなQTLを同定するためには、さらに距離の短いマイクロサテライトマーカーを用いることが必要である。

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マウス卵丘細胞除去IVMの改良と一次精母細胞を用いた顕微授精法への応用 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 239-248, 2006)

三木洋美1,2,3)・越後貫成美1)・井上貴美子1)・馬場 忠2)・小倉淳郎1)

1)理化学研究所・バイオリソースセンター
2)筑波大学大学院・生命環境科学研究科
3)日本学術振興会

未成熟卵を用いた顕微操作の研究では、卵丘細胞を除去した(cumulus-free)卵を用いることになるため、その後の卵細胞質成熟は不完全であることが多い。本研究では、マウスIVM培地を改変することで、卵丘細胞除去IVMを改善できるかどうかを検討した。卵丘細胞除去GV(germinal vesicle)期卵子をαMEM・TYHまたはこれらの1:1に混合液(TaM)によるIVMに用いた。TYH区(181/196,92.3%)は、αMEM区(184/257,71.6%)よりも良好な成熟率を示していた。これとは対照的に、αMEMは、TYHよりも単為発生胚(82.4% vs. 60.4%)または体外受精胚(93.3% vs. 76.5%)を桑実胚/胚盤胞期まで良好に発生させた。MII卵において、ミトコンドリアの局在は、αMEM由来卵では散在、TYH由来卵では凝集しており、また、MPF活性は、αMEM区よりもTYH区の方が有意に(P<0.05)高かった。TaM由来卵は、αMEM区とTYH区の中間型の特徴を持ち、in vivo成熟卵子と類似していた。その傾向は、ミトコンドリアの分布パターンに最も典型的であった。TaMを用いたIVM卵子由来IVF胚は、移植後GV卵子当たり最も高率(23.8%)に満期の産仔へと発生した。また、このIVM系を一次精母細胞授精MI卵子へ応用したところ、MII核置換なしで初の産仔が得られた。この結果から、マウス卵IVM培地の最適化によりcumulus-free IVM卵の質が大幅に改善できることが示された。

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ブタ卵管の精子貯留部からの精子放出に卵子-卵丘細胞複合体が影響する (J. Reprod. Dev. 52: pp. 249-257, 2006)

Klaus-Peter Brüssow1)・Helmut Torner1)・Jozsef Rátky2)・眞鍋 昇3)・Armin Tuchscherer1)

1)FBN Research Institute for the Biology of Farm Animals, Germany
2)Research Institute for Animal Breeding and Nutrition, Hungary
3)東京大学農学生命科学研究科高等動物教育研究センター

ブタにおいては卵管における貯留精子の放出と排卵との関連には不明な点が多い。あらかじめ子宮角頭部に少量の精子を注入した卵子除去メスブタの卵管内に卵子-卵丘細胞複合体を注入した後、卵管を摘出して膨大部、頭部と尾部の精子数、初期胚数と発生ステージなどを調べた。卵子-卵丘細胞複合体を注入しない場合と比較して膨大部と頭部の精子数が増加した。この効果はnon-sulfated glycosaminoglycan hyaluronan(HA)とともに卵子-卵丘細胞複合体を注入した場合に顕著であり、受精して胚盤胞まで発生が進む初期胚の割合も高くなった。これらから、ブタでは卵管の精子貯留部からの精子放出に卵子-卵丘細胞複合体が影響し、HAがその効果を高めることがわかった。

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クローン牛胎児の組織、およびドナー細胞のDNAメチル化プロフィール (J. Reprod. Dev. 52: pp. 259-266, 2006)

Kremenskoy Maksym1)・Kremenska Yuliya1)・鈴木雅子1)・今井 敬2)・高橋清也3)・橋爪一善4)・八木慎太郎1)・塩田邦郎1)

1)東京大学大学院農学生命科学科・細胞生化学
2)(独)家畜改良センター
3)(独)畜産草地研究所
4)岩手大学農学部・獣医生理学

CpGアイランドはハウスキーピング遺伝子、および多くの組織特異的遺伝子の転写開始領域にあり、CpGアイランドに起こるDNAのメチル化は、正常な胎仔の発生、細胞分化に重要な機能を果たしている。体細胞の核移植により、多くの哺乳類種において成体を得ることが出来るようになったが、最終段階まで発生する成功率はいまだ数パーセントと低い。高率に観察される妊娠初期の流産、周産期の死には、ドナー核の核移植後に起こるCpGアイランドの異常なエピジェネティック変化が関与しているものと考えられるが、それについて十分な解析の報告が無い。そこで我々は、Restriction Landmark Genomic Scanning(RLGS)法を用いて、培養卵丘細胞から得た核移植ドナーの核、およびクローン胎仔の組織のゲノム全域のDNAメチル化プロフィールを初めて調べた。RLGSプロフィールに現れる約2600箇所のメチル化されていないNotIサイトのうち、35箇所でメチル化の違いが観察された。この解析により、人工授精によって作出された胎仔および核移植で得られた胎仔の胎盤、胎仔組織には、組織特異的なDNAメチル化を受けるCpGアイランドがあることが明らかとなった、さらにクローン動物の脳、胎盤で、DNAメチル化の異常と思われる複数の部位を見いだした。

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春機発動前の雌ブタにおけるヒト絨毛性性腺刺激ホルモン投与からの経過時間と回収胚の発生ステージとの関連 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 267-275, 2006)

藤野幸宏1)・中村嘉之1)・小林博史1)・菊地和弘2)

1)埼玉県農林総合研究センター畜産研究所
2)(独)農業生物資源研究所

ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)の投与から回収までの経過時間と回収したブタ胚の発育ステージとの関連について検討した。生後7から8ヶ月齢の春機発動前豚に ウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG)1,500 IUを投与し、その72時間後にhCGを500 IUを投与した。ホルモン処置をおこなった豚に、Day 1およびDay 2(Day 0=hCG投与日)に人工授精した。胚は、Day 6 (hCG投与後140時間, 144時間 と147時間後)とDay 7(hCG投与後164時間, 168時間 と171時間後)に外科的に回収し、回収胚の発生ステージを調べた。ホルモン処置した春機発動前豚の75.2%(276/367)から胚が回収され、1頭あたり平均20.7個の形態的に正常な胚が回収された。hCG投与後140時間では桑実胚(54.4%)が、144時間では桑実胚および早期胚盤胞(それぞれ、57.7%および28.9%)が回収された。147時間では胚盤胞から拡張胚盤胞の割合が増加した(10.0%)。164から171時間では、直径200 µm以上の拡張期胚盤胞および拡張胚盤胞が回収され、脱出胚盤胞の割合は3.2%(164時間)から41.0%(171時間)へと増加した。これらの結果から、排卵数は個体により差が認められるが、hCGの投与から胚を回収するまでの経過時間を調整することにより、効率的に適切な発生ステージのブタ胚が回収されることが明らかとなった。

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クローンウシ胎仔におけるLeptin遺伝子、POU5F1遺伝子CpGアイランドのエピジェネティック状況の解析 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 277-285, 2006)

Kremenskoy Maksym1)・Kremenska Yuliya1)・鈴木雅子1)・今井 敬2)・高橋清也3)・橋爪一善4)・八木慎太郎1)・塩田邦郎1)

1)東京大学大学院農学生命科学科・細胞生化学
2)(独)家畜改良センター
3)(独)畜産草地研究所
4)岩手大学農学部・獣医生理学

着床後における数多くの発生異常や胎仔の死亡は、核移植クローン動物の作出における問題点である。ゲノムDNAメチル化状態の異常は、クローン動物の低生存率の原因の一つである。哺乳類のゲノムDNAのハウスキーピング遺伝子の転写開始点近傍、および多くの組織特異的遺伝子領域にはCpGアイランドが位置する。CpGアイランドのDNAメチル化状態が正しく連続して起こる機構が、細胞・組織・器官の特徴を決める細胞種特異的な遺伝子発現に必須である。本研究で我々は、人工授精と核移植によって作出された妊娠48日および59日目のウシ胎仔とその胎盤におけるLeptin遺伝子、POU5F1遺伝子のCpGアイランドのDNAメチル化状態を解析した。DNAメチル化は、クローンの胎仔、胎盤、子宮内膜組織において異なっていることを、バイサルファイトシークエンス法およびパイロシークエンス法によって確認した。ウシのLeptin遺伝子、POU5F1遺伝子に見いだしたこれらの組織特異的DNAメチル化可変領域において、核移植により作出された胎仔では、人工授精により作出された胎仔に比べDNAメチル化状態の変化が大きかった。

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eCG/hCG処理した未成熟雌マウスの卵巣におけるPin1(ペプチジルプロピルイソメラーゼ)の発現 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 287-291, 2006)

清水 隆1,2)・秋山弘匡3)・阿部靖之2)・佐々田比呂志2)・佐藤英明2)・宮本明夫1)・内田隆史3)

1)帯広畜産大学大学院畜産衛生学専攻
2)東北大学大学院農学研究科動物生殖科学分野
3)東北大学学際科学国際高等研究センター

プロリン(Ser/Thr-Pro)の前に位置する特定のセリンまたはトレオニン残基のタンパク質リン酸化は、多様な細胞プロセスにおけるシグナル伝達メカニズムの中心である。Pin1は、特定のタンパク質に結合するリン酸化されたSer/Thr-Proだけをisomerizesする酵素であり、タンパク質の構造的な変化を誘発する。多くのタンパク質が卵巣でリン酸化されるが、卵巣におけるPin1の役割はまだ知られていない。そこで本研究は、マウス卵巣におけるPin1タンパク質およびmRNA発現に関して性腺刺激ホルモンの影響を検討した。定量的PCR分析によって、Pin1 mRNA発現が無処理の卵巣に比べ妊馬血清性性腺刺激ホルモン(eCG)処理した卵巣で有意に増加することが示された。しかし、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)は、eCGで増加したPin1 mRNA発現を減少させた。Pin1のタンパク質発現は、mRNAの発現と同じ傾向を示した。一方、Pin1発現を制御するE2F転写制御因子のmRNA発現はeCG処理した卵巣で減少した。このことは、性腺刺激ホルモンによるPin1発現がE2F転写因子を介さないかもしれないことを示唆している。本研究結果は、Pin1が卵胞発育過程におけるタンパク質情報伝達のための重要な要因であるかもしれないことを示唆している。

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イヌ卵巣のガラス化保存の試み (J. Reprod. Dev. 52: pp. 293-299, 2006)

石嶋隆子1)・古林与志安1)・李 東朱1)・植田(柳本)佳子1)・松井基純1)・李 晶淵1)・諏訪義典2)・宮原和郎1)・鈴木宏志1,3)

1)帯広畜産大学
2)北海道盲導犬協会
3)東京大学大学院医学系研究科

代表的な使役犬のひとつである盲導犬では、雌雄ともに避妊・去勢手術を受けた後に訓練を開始するため、例え、その盲導犬が優秀であっても、次世代を残すことができない。そこで、盲導犬から次世代を得る方法の・とつとして、イヌ卵巣の凍結保存法の開発を試みた。イヌ卵巣組織を数mm角に細切し、DAP 213 (2 M DMSO、1 Mアセトアミド、3 Mプロピレングリコール)を用いてガラス化保存した。融解は、室温に1分間曝露後に0.25 Mシュクロース溶液を添加することによって行った。凍結融解した卵巣を組織学的に検索し、一部についてはNOD-SCIDマウスへの異種移植を行った。凍結融解後の卵巣は組織学的に正常な形態を示していた。また、移植後4週目の観察では、23例中全例のマウスにイヌ卵巣の生着が認められ、凍結融解後のイヌ卵巣が生存しており、その機能を発揮する可能性があることが示唆された。

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TNF-αによって誘導される培養ブタ黄体細胞のアポトーシス (J. Reprod. Dev. 52: pp. 301-306, 2006)

岡野 彰1)・岸 久司1)#・高橋ひとみ1)・高橋昌志1)##

1)(独)畜産草地研究所・家畜育種繁殖部
#現所属:独協医科大学衛生学研究室
##現所属:(独)九州沖縄農業研究センター・畜産飼料作研究部

TNF-αは黄体においてアポトーシスを起こさせることから、TNF-αは発情周期の黄体機能にとって重要な因子であると考えられている。そこで、発情周期の10〜14日目の交雑種の成熟雌ブタより採取した卵巣より、黄体細胞を分散し、その培養黄体細胞を用いてTNF-αとアポトーシスの関係を検討した。即ち黄体細胞の培養系へTNF-α (1、10、100、1000 ng/ml)を添加し、TNF-αによってアポトーシスが誘導されるか否かを明らかにしようとした。培養黄体細胞におけるアポトーシスに起因するDNAの断片化が、フローサイトメトリーおよび細胞電気泳動(コメットアッセイー)によって検出し得た。このことから、TNF-αは、黄体細胞でのアポトーシスの誘導における重要な因子であることが推察された。

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ウシ成熟卵胞内におけるGnRH投与による排卵時期のFibroblast Growth Factor 1 (FGF1)およびFGF7遺伝子発現の変化 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 307-313, 2006)

Bajram Berisha1)・Harald Welter1)#・清水 隆2)・宮本明夫2)・Heinrich HD Meyer1)・Dieter Schams1)

1)ミュンヘン工科大学生理学研究所
2)帯広畜産大学大学院畜産衛生学専攻
#現所属:ホーエンハイム大学家畜管理・調節生理学研究所

本研究は、ウシ成熟卵胞と初期黄体をGnRH投与後の明確な時間帯に卵巣除去によって採取し、fibroblast growth factor 1 (FGF1)とFGF7、そしてこれらに共通のレセプターであり、特にFGF7が特異的に結合するサブタイプであるFGFR2IIIbのmRNA発現の排卵前後の変動を調べることを目的とした。雌ウシに定法のFSH, PGFおよびGnRHを投与によって過剰排卵処置を施した。GnRH投与の直前、3-5 h後、10 h後、20 h後、25 h後(排卵時期)の卵胞、そして初期黄体(Days 2-3)を経膣法で採取し、各組織中のmRNAをリアルタイムPCRによって定量した。FGF1 mRNA発現は、卵胞組織中では変化せず、初期黄体中で増加した。一方、FGF7 mRNA発現はGnRH投与直後の3-5 hで一時的に増加し、再び初期黄体内で増加した。これに対してFGFR2IIIb mRNA発現は変化せず一定であった。これらの結果から、ウシ卵巣においてFGF1とFGF7は血管新生に強く依存した卵胞成熟と黄体形成過程に、それぞれ異なった時期に関わりを持っていることが考えられた。

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変異ヒト乳清酸性タンパク質(WAP)遺伝子のプロモーター解析 (J. Reprod. Dev. 52: pp. 315-320, 2006)

生見尚子1)・関 真美1)・岩森督子1)・矢田哲士2)・内藤邦彦1)・東條英昭1)

1)東京大学・大学院農学生命科学研究科・応用遺伝学研究室
2)東京大学・医科学研究所・ヒトゲノム解析センター

乳清酸性タンパク質(WAP)は、幾つかの動物種の乳汁中に同定されているが、ヒトでは、ORF内の塩基変異によりWAPが乳汁に分泌されていないことが予測されている。そこで、我々はヒトWAP遺伝子のプロモーター領域について、コンピューター解析により既知のWAP遺伝子のそれらと比較検討した。その結果、主要な転写制御因子の結合領域が良く保存されていた。そこで、プロモーター活性をヒト乳癌細胞MCF-7細胞を用いて調べた。ヒトWAP遺伝子プロモーター領域 (2.6 kb)をヒト成長ホルモン遺伝子に連結した融合遺伝子をMCF-7細胞にトランスフェククションした実験から、ヒトWAPプロモーターは、ラクトジェニックホルモンに応答し、その活性はマウスWAP遺伝子のプロモーター (2.4 kb)よりも高かった。以上、本研究の結果はWAPの機能ならびに乳汁タンパク質遺伝子の分子進化に関し重要な情報を提供するものである。

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