インヒビン中和法による幼若ラットの過排卵誘起(J. Reprod. Dev. 51: pp. 559-566, 2005)
石亀晴道1,2)・Mohamed S. Medan1,3)・川口真似子4)・福田淳志1)・渡辺 元1,5)・新井浩司2)・田谷一善1,5)
1)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室
2)東京農工大学農学部付属硬蛋白質利用研究施設
3)Department of Theriogenology, Faculty of Veterinary Medicine, Suez Canal
University, Ismailia, Egypt
4)武蔵野大学薬学部安全性学研究室
5)岐阜大学大学院連合獣医学研究科基礎獣医学連合講座
インヒビン抗血清投与による内因性インヒビン中和法が幼若ラットの排卵数に及ぼす影響について研究した。また、インヒビン中和法とウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG)投与法により排卵された卵の受精能について比較した。実験では、Wistar系幼若雌ラットを用い、インヒビン抗血清(100-200μl)単回投与群とヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)との併用投与群に分けた。26-30日齢のインヒビン抗血清(100-200 μl)単回投与群では、投与72時間後に全体の77.8%(28/36)に排卵が観察されたが、正常ヤギ血清(NGS)投与群では、排卵は認められなかった。28日齢において、インヒビン抗血清にhCGを併用投与することにより全例が排卵したが、排卵数はインヒビン抗血清単回投与群とインヒビン抗血清-hCG投与群に差は認められなかった。インヒビン抗血清-hCG投与群の排卵数は、NGS-hCG投与群に比べ有意に増加した。さらに、インヒビン抗血清-hCG投与群では、NGS投与群に比べて血中FSH濃度が有意な高値を示した。インヒビン抗血清(200μl)-hCG投与群は eCG-hCG投与群に比較して交配率の低下が認められたが、受精率に差は認められなかった。一方、インヒビン抗血清(200μl)-hCG投与群の受精卵数は、eCG-hCG投与群に比べ有意に増加した。以上の結果から、インヒビン中和法は、幼若ラットにおいて正常な受精能を有する卵を多数採集できる優れた方法であることが示唆された。
[英文要旨&PDF]
4倍体/2倍体キメラ胚におけるEGFP遺伝子導入4倍体細胞(J. Reprod. Dev. 51: pp. 567-572, 2005)
石黒直美1)・加納 聖2)・山本欣郎1)・谷口和之1)
1)岩手大学獣医解剖学研究室
2)東京大学大学院農学生命科学研究科応用遺伝学研究室
我々はEGFPトランスジェニックマウス胚を用いて4倍体(4n)←→2倍体(2n)キメラ胚を作製し、4n細胞の分布を蛍光顕微鏡下で経時的に解析することに成功した。そしてこのEGFPトランスジェニックマウス胚を用いる解析法が、着床を境として生じる4n胚の死滅や4←→2nキメラ胚での4n細胞の性質や分布の検討に有用であるかどうかを評価した。EGFP発現4n細胞の観察から4n←→2n胚盤胞における4n細胞は着床後のような偏った分布を示さないことが明らかになり、胚の発達段階における形態形成についても4n胚、2n胚、4n←→2nキメラ胚、2n←→2nキメラ胚で差は見られなかった。しかし、4n胚盤胞の細胞数が予想された2n胚盤胞の細胞数の半分に満たないことがわかり、4n細胞において分裂速度の低下もしくは細胞死が起こっている可能性が示唆され、着床後の4n胚の死滅、4n←→2n胚での4n細胞の偏った分布が引き起こされると考えられた。以上より、マウスキメラ胚において目的とする細胞集団の標識にEGFP発現細胞を利用する本研究手法は、非侵襲的に、連続的に、そして簡便に細胞の分布を解析することができる非常に有用な手法であることが明らかになった。
[英文要旨&PDF]
牛の過剰排卵誘起の前処置として卵胞発育波を誘起するためのGnRH投与とその投与量が採胚成績に及ぼす影響(J. Reprod. Dev. 51:
pp. 573-578, 2005)
佐藤太郎1)・中田 健2)・内山保彦1)・木村仁徳1)・藤原信子1)・佐藤義政1)・梅田雅夫1)・古川武士1)
1)新潟県農業総合研究所畜産研究センター繁殖工学科
2)酪農学園大学獣医学部生産動物医療学教室
性腺刺激ホルモン放出ホルモン製剤(GnRH)投与により卵胞発育波(FW)を調節することが過剰排卵処置の前処置として有効であるか、GnRHの投与量とともに検討した。発情後6日目にGnRH100、50および25μgをそれぞれ、4頭、5頭および5頭のホルスタイン種経産牛に筋肉内投与し、60時間後からpFSH 42 AUを5日間漸減投与し、4日目のpFSH投与時にPGF2αを投与し、過剰排卵を誘起した。GnRH投与により50μg投与の1頭を除いた全頭で排卵が確認され、その後、新たな発育卵胞の出現が観察された。発情時の総卵胞数は25 μg投与で少なかったが(P<0.05)、直径1 cm以上の卵胞数に差は見られなかった。採胚成績は正常胚数およびGrade 1 胚数ともに25 μg投与で他の投与量に比べ有意(P<0.01)に多かった。以上の結果から、発情後6日目の25 μgのGnRH投与が過剰排卵誘起の前処置として有効であることが示された。
[英文要旨&PDF]
乳清タンパク質(WAP)を全身性に過剰発現するトランスジェニックマウスにおける乳腺の発達異常とβ-カゼインの早期発見(J. Reprod. Dev.
51: pp. 579-592, 2005)
岩森督子1)・大澤恵美1)・生見尚子1)・加納 聖1)・須藤カツ子2)・内藤邦彦1)・東條英昭1)
1)東京大学大学院農学生命科学研究科応用遺伝学研究室
2)東京医科大学医学部動物実験センター
乳清酸性タンパク質(WAP)はプロテアーゼインヒビター様作用をもつことが予想されているが、その生物学的機能は十分に明らかにされていない。我々は、WAPを全身性に過剰発現するトランスジェニック(CAG/WAP-Tg)マウスについて、乳腺の発達を組織学的に解析し、また、他の乳汁タンパク質の発現を調べた。その結果、CAG/WAP-Tgマウスでは、乳腺胞の発達異常が認められた。すなわち、妊娠期および泌乳期の乳腺において、大小様々な大きさの異常な乳腺胞が多数観察された。一方、CAG/WAP-Tgマウスの乳腺において、正常マウスでは発現のみられない妊娠初期にβ-カゼインの発現が認められた。つぎに、CAG/WAP-Tgマウスの乳腺の発達に及ぼすWAPのパラクライン的作用を調べるために、未経産のCAG/EGFP-Tgマウスの乳腺を摘出して、CAG/WAP-Tg(レシピエント)マウスの脂肪組織に移植した後、交配により妊娠させた。レシピエントに移植した乳腺の発達を泌乳3日目に組織学的に観察した結果、移植した乳腺はCAG/WAP-Tgマウスの乳腺でみられたと同様に発達が抑制されていた。さらに、WAPを強制発現させたHC11細胞を用いたin vitroの実験から、WAPが乳腺上皮細胞の増殖を抑制することが判明した。以上の結果から、WAPは、乳腺の上皮細胞の増殖に対しパラクライン的に抑制作用を示し、一方、β-カゼインの早期発現を誘起することが判明した。
[英文要旨&PDF]
経胎盤的ビスフェノールA暴露がマウス胎仔におけるアリルヒドロカーボン受容体とその関連因子および生体異物代謝酵素の発現におよぼす影響(J. Reprod.
Dev. 51: pp. 593-605, 2005)
西澤華子1)・今西 哲2)・眞鍋 昇1)
1)東京大学大学院農学生命科学研究科高等動物研究センター
2)京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻
胎齢14.5および18.5日のマウス胎仔におけるアリルヒドロカーボン受容体(AhR)とその関連因子(AhRR、Arnt)および生体異物代謝酵素(CYP1A1とGST)のmRNA量を定量的real-time RT-PCR法で、タンパク量をウエスタンブロット法で測定し、経胎盤的に曝露したビスフェノールA(BPA)がこれらにおよぼす影響を調べた。BPA暴露によってAhR mRNAの発現が亢進し、興味深いことに極低用量のBPA暴露(0.02 μg/kg/day:環境曝露量の1/100)によってもこの発現が著しく亢進した。AhR関連因子も同様に亢進した。胎仔の肝における生体異物代謝酵素のタンパク量は胎齢18.5日においてはBPA暴露量に依存して増加した。薬物代謝機能の低い胎仔においては、極低用量のBPA曝露でもAhR受容体系の発現を撹乱することが分かった。このことが催奇形性の発現と深く関連していると考えられる。
[英文要旨&PDF]
下垂体糖タンパク質ホルモン共通のα鎖と、FSHおよびLHβ鎖の、エルクにおけるcDNAのクローニング(J. Reprod. Dev. 51:
pp. 607-616, 2005)
Rena J. Clark1)・Michael A. Furlan2)・P. Jorge Chedrese2)
1)Department of Veterinary Biomedical Sciences, University of Saskatchewan,
Canada
2)Department of Obstetrics, Gynecology and Reproductive Sciences, University
of Saskatchewan, Canada
本研究では、エルク(Cervus elaphus)の下垂体糖タンパク質ホルモンに共通するα鎖と、FSHβ鎖およびLHβ鎖について、cDNAの配列と予想されるアミノ酸配列とを解析した。これらの配列は、下垂体のポリA-RNAを用いたRT-PCRで得られたcDNAを用いて決定した。また、エルクFSHb鎖のゲノムDNAの一部を増幅し、配列を決定した。これらの配列はシカおよびヒツジ、ウシ、ブタ、ウマなどの家畜と高い相同性を示した。今回報告したcDNAを用いてプローブを作製し、エルクとヒツジから得た下垂体および筋試料のノーザンブロット解析を行った。下垂体前葉ではα鎖、FSHβ鎖、およびLHβ鎖のそれぞれ約700,1700,550塩基の成熟したmRNA転写産物が発現していたが、筋では発現していなかった。この結果は近縁種での結果と一致していた。FSHβ鎖のゲノムDNAフラグメントの解析の結果、エルクではイントロンに6個の反復CT配列のマイクロサテライトが存在することが明らかとなり、ヒツジでの19個の反復CT配列と異なっていることが明らかとなった。エルクFSHβ鎖の反復CT配列の個数の違いはエルクの親子判定に使用可能であろう。また、今回のエルクのDNA配列の情報は、種々の脊椎動物における下垂体ホルモンの進化および系統発生の研究に貢献するであろう。さらに、本研究の結果得られた知見とcDNAは、エルクの性腺刺激ホルモン遺伝子発現の季節変化の研究に役立つことが期待される。
[英文要旨&PDF]
ブタ卵成熟過程におけるMAPキナーゼ活性の抑制は卵を活性化するがCyclin Bの蓄積は増加する(J. Reprod. Dev. 51:
pp. 617-626, 2005)
高倉育子1)・内藤邦彦1)・岩森巨樹2)・山下正兼3)・久米佐知1)・東條英昭1)
1)東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻応用遺伝学教室
2)東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター高次機能研究分野
3)北海道大学大学院理学研究科生物科学専攻生体情報分子学講座
ブタ卵成熟過程にMAPキナーゼ活性を抑制すると、MPF活性は低く、卵は第2減数分裂中期で停止せず単為活性化を起す。本実験では、ブタ成熟過程のMAPキナーゼ活性を阻害した時に見られるMPF活性抑制のメカニズムを調べるため、MAPキナーゼキナーゼキナーゼであるc-mosのアンチセンスRNA、またはMAPキナーゼキナーゼであるMEKの構成的不活性型変異体(SASA-MEK)のmRNAをブタ未成熟卵の細胞質に注入した。c-mosアンチセンスRNAまたはSASA-MEK mRNAの注入は、ブタ卵のMAPキナーゼ活性をそれぞれ完全または部分的に抑制し、MPF活性をそれぞれ有意または僅かに抑制し、対照卵では存在しなかった単為活性化をそれぞれ96.6%または17.1%の成熟卵に起こした。MAPキナーゼを抑制した卵ではcyclin Bが有意に多く蓄積しており、MPFは過リン酸化により不活性化されたpre-MPFへ変換されていた。以上より、ブタ卵においてはMPKキナーゼの抑制はcyclin Bの蓄積を減少させるのではなく、逆にcyclin Bの蓄積は増加すること、MAPキナーゼはMPFがpre-MPFへ変換されるのを抑制することによってMPF活性を高めていることが示唆された。
[英文要旨&PDF]
ブタ卵胞閉鎖にともなうコネキシン43の発現と局在の推移(J. Reprod. Dev. 51: pp. 627-637, 2005)
程 園 1,2)・井上直子 3)・松田-峯畑二子1)・後藤康文1,2)・前田晃央1)・眞鍋 昇1)
1)東京大学農学生命科学研究科高等動物教育研究センター
2)京都大学農学研究科応用生物科学専攻生体機構学
3)名古屋大学生命農学研究科動物形態情報学
排卵にいたる過程で99%以上が選択的に死滅してしまう卵胞閉鎖の分子制御機構を完全性周期動物であるブタの卵巣を材料として調べている。卵胞ではギャップジャンクションを形成するコネキシン(Cx)のうちCx43が主に発現しているが、卵胞閉鎖にともなうCx43のmRNAとタンパクの発現と局在の推移を調べた。Cx43は原始卵胞と一次卵胞では発現しておらず、卵胞上皮細胞(顆粒層細胞)が重層して層状構造を構築しはじめる二次卵胞以降のステージで発現していた。三次卵胞においてはmRNAもタンパクも顆粒層細胞に発現しており、閉鎖にともなって減少した。Cx43は顆粒層細胞の生存因子として働いているものと考えられた。
[英文要旨&PDF]
エストロゲンはマウス子宮におけるインターロイキン-18 mRNA発現を阻害する(J. Reprod. Dev. 51: pp. 639-647,
2005)
村上要介・大月真理子・楠本憲司・竹内 栄・高橋純夫
岡山大学理学部生物学科
炎症性サイトカインとして知られるインターロイキン-18(IL-18)は、ヒトや齧歯類の生殖器官において発現していることが知られている。しかし、子宮におけるIL-18の生理作用や、その遺伝子発現調節機構は未だ明らかではない。本研究では、エストラジオール17β(E2)やプロゲステロン(P4)が子宮のIL-18 mRNA発現に及ぼす影響について検討した。発情期の成獣雌マウスの子宮は発情間期と比較して有意に高いIL-18 mRNA量を示した。卵巣を摘出した成獣雌マウスへのE2投与(0,5,25,250 or 500 ng/mouse)により、濃度依存的なIL-18 mRNA発現の減少が見られた。E2投与後IL-18 mRNA量は速やかに減少し、12時間後に最も低い値を示した。P4(1 mg/mouse)投与も同様に投与12時間後にIL-18 mRNAの有意な減少を誘導した。培養子宮内膜上皮細胞と間質細胞においてIL-18及びIL-18受容体mRNAが検出された。これらの結果は、IL-18の発現が性ステロイドホルモンにより抑制され、また、IL-18が子宮において自己分泌、傍分泌的にはたらいていることを示唆する。
[英文要旨&PDF]
乳清酸性タンパク質(WAP)はマウスおよびヒトの乳癌細胞(MMT, MCF-7)の増殖を抑制する(J. Reprod. Dev. 51:
pp. 649-656, 2005)
生見尚子・岩森督子・内藤邦彦・東條英昭
東京大学大学院農学生命科学研究科応用遺伝学研究室
乳清酸性タンパク質(WAP)は、げっ歯類、ブタ、有袋類などの乳汁に含まれる主要な乳清タンパク質の一種である。我々はこれまでに、WAPが正常乳腺上皮細胞(HC11およびEpH4/K6)の増殖に対し抑制作用を示すことを報告した。今回マウスWAPがマウス乳癌細胞株(MMT)およびヒト乳癌細胞株(MCF-7)に対しても細胞増殖抑制作用を示すことを報告する。先ず、WAP遺伝子を安定して発現するWAP-MMTとWAP-MCF-7を樹立し、これらの乳癌細胞に対するWAPの作用を調べた。細胞培養後経時的に生細胞数を計測したところ、培養48時間以後、両WAP発現細胞株の増殖が野生株に比較して有意に抑制された。つぎに、FACScanを用いて細胞周期を解析したところ、野生株に比べWAP発現株でG0/G1期の細胞集団の多いことが認められた。さらに、G1期サイクリンであるサイクリンD群(D1, D2, D3)およびサイクリンEの発現を半定量的RT-PCRにより調べた結果、WAP発現株において、サイクリンD1の発現が有意に抑制されていた。以上の結果から、WAPはサイクリンD1の発現制御を介して乳癌細胞の増殖を抑制することが明らかになった。
[英文要旨&PDF]
ラットにおけるMMS投与による精巣毒性および精子形態異常の発現について(J. Reprod. Dev. 51: pp. 657-667,
2005)
栗山和也1)・北村 毅1)・横井亮平1)・林 守道1)・小林一男1)・黒田淳二1)・辻井弘忠2)
1)キッセイ薬品工業株式会社安全性研究所
2)信州大学農学部
強力なアルキル化剤で精巣毒性物質として知られるメチルメタンスルホネート(MMS)の40 mg/kg用量を5日間ラットに経口投与した。5週間までの回復期間中、精巣毒性と精子形態異常の発現に関する検査を実施した。5週間の回復期間は以下のように表示した:Day 1(最終投与日の翌日)、Week 1, Week 2, Week 3, Week 4およびWeek 5(各々、最終投与日の1, 2, 3, 4および5週間後)。精子形態異常はWeek 3から増加し、Week 4 にピークを示し、Week 5に回復した。精巣の病理組織学的検査では、ステップ19精子細胞のセルトリ細胞への滞留がDay 1からWeek 3まで認められた。精細管のステージングによる観察では、Day 1において後期パキテン期精母細胞と初期精子細胞の減少が認められた。TUNEL染色では、Week 1で減数分裂時にアポトーシスを誘発した精母細胞数の有意な増加が認められた。本試験では、MMSの投与によって幅広い生殖細胞に対して遺伝的な損傷とこれに起因する精子形成に対する影響が及んだ。減数分裂時に誘発されたアポトーシスは、これら遺伝的な損傷を受けた生殖細胞の淘汰過程に関与していると考えられた。このことが精子細胞の滞留や形態異常精子の回復過程に重要な役割を演じていると考えられた。
[英文要旨&PDF]
未経産牛における黄体初期からのプロジェステロン腟内徐放剤(PRID)処置による発情同期化と受胎成績(J. Reprod. Dev. 51:
pp. 669-673, 2005)
黒岩武信1)・石橋 愛1)・福田昌治2)・金 昇準1)・田中知己1)・加茂前秀夫1)
1)東京農工大学獣医臨床繁殖学研究室
2)埼玉県秩父高原牧場
本研究では、未経産牛における排卵後2日から12日間のPRID処置による発情同期化効果と受胎成績についてPRID®を処置した群(P+EB; n=6)とPRID®から安息香酸エストラジオール(EB)カプセルを除去したものを処置した群(P-EB; n=5)について検討した。その結果、PRID抜去後3日以内に発情が発現して発情が同期化されたものはP+EB群で83.3%(6頭中5頭)、P-EB群で80.0%(5頭中4頭)であった。また、同期化された発情時の受胎率はP+EB群で80.0%(5頭中4頭)、P-EB群で100%(全4頭)であった。これらの結果より、黄体初期である排卵後2日から12日間のPRID処置は、EBの有無に関わらず未経産牛において発情同期化効果があり、同期化された発情時の受胎成績も良好であることが示唆された。
[英文要旨&PDF]
スイギュウ卵胞の閉鎖過程におけるConnexin43の発現分布(J. Reprod. Dev. 51: pp. 675-681, 2005)
Jun Babaan Feranil1)・磯部直樹2)・中尾敏彦3)
1)広島大学大学院国際協力研究科
2)広島大学大学院生物圏科学研究科
3)山口大学農学部
スイギュウ卵胞のギャップ結合構成タンパクであるConnexin43(Cx43)の閉鎖過程における変化を観察し、ウシのそれと比較検討した。食肉処理場でフィリピン沼沢スイギュウ(SB)、およびホルスタインウシ(HF)の卵巣を採取し、直ちに緩衝ホルマリンで固定した後、パラフィン切・を作成した。正常および種々の段階の閉鎖卵胞の切・を抗Cx43抗体で免疫染色した。SBおよびHFにおいて、Cx43は正常卵胞および閉鎖初期、中期卵胞の顆粒層に点状に分布していたが、内卵胞膜には観察されなかった。また、その分布頻度は閉鎖過程が進行するにつれて減少した。HFの閉鎖中期卵胞において、卵子を取り囲む卵丘細胞およびそれに隣接する顆粒層には高頻度でCx43の分布が認められたが卵子から離れた顆粒層ではその分布は希薄であった。以上の結果から、ウシと同様に、スイギュウ卵胞の閉鎖過程で、顆粒層におけるギャップ結合構成タンパクの発現が減少することが明らかにされた。
[英文要旨&PDF]
産卵鶏の子宮膣移行部における抗原提示細胞とT細胞の人工授精に伴う分布の変化(J. Reprod. Dev. 51: pp. 683-687,
2005)
Shubash Chandra Das1)・長坂直比路2)・吉村幸則1)
1)広島大学大学院生物圏科学研究科
2)高知県畜産試験場
この研究では人工授精の繰り返しにより受精率が低下したロードアイランドレッド種産卵鶏において子宮膣移行部(UVJ)の抗原提示細胞(Ia+ 細胞)とT細胞サブセット(CD4+ and CD8+ T 細胞)の分布が変化するかどうかを調べた。供試鶏は、土佐地鶏精液を用いて人工授精を3ヶ月間毎週行った人工授精区(R-AI)と処女区(R-V)の2群に分けた。Ia+ 抗原提示細胞、CD4+およびCD8+ T細胞は、R-AIとR-Vの両区のUVJの粘膜上皮と固有層に認められた。粘膜固有層におけるこれらの細胞の分布はR-V区より R-AI区で有意に多かった。Ia+ 細胞が有意に多いことからR-AI区ではCD4+ T細胞への抗原提示能が潜在的に高いものと推定された。またCD8+ と CD4+ T細胞が多いことから、R-AI区ではT細胞のホーミングが形成され、これによる免疫応答が精子の卵管内生存性と受精率に影響を及ぼす可能性が考えられた。
[英文要旨&PDF]
ウシ卵巣サイズと卵巣中卵胞数の関係(J. Reprod. Dev. 51: pp. 689-693, 2005)
村澤摩耶1)・高橋 強1)・西本博美1)・山本沙和2)・浜野晴三2)・手塚雅文1)
1)帯広畜産大学畜産科学科畜産生命科学講座
2)家畜改良事業団バイテクセンター
ウシの卵巣サイズは個体間で大きく異なる。このサイズの違いは卵巣の卵胞生産能に影響を与えるかも知れない。本実験では卵巣重量と卵巣表面の卵胞数との間の関係を調べる事でこの仮説を検証した。ホルスタイン種x黒毛和種F1未経産牛から卵巣を対で採取し、実験に用いた。卵胞を3つのサイズ(1-<5.0 mm: 小卵胞, 5.0-<8.5 mm: 中卵胞、≥8.5 mm: 大卵胞)に分類し、各々の数を記録した。卵巣重量、各サイズの卵胞数で個体間に大きなバラツキがみられた。反黄体側卵巣ですべてのサイズの卵胞、黄体側卵巣で小卵胞数と卵巣重量の間に正の相関(r>0.4,P<0.001)が認められた。黄体、卵胞液、および中卵胞以上の卵胞壁重量を差引いた卵巣重量と中および小卵胞数の間に両卵巣で正の相関(r≥0.4,P<0.0001)が認められた事から、これらの相関関係が単に胞状卵胞の出現に伴う卵巣重量の増加によってもたらされたものではない事が示唆された。黄体側、反黄体側卵巣は供にほぼ同数の中小卵胞を含み、両卵巣間に正の相関(r>0.6,P< 0.0001)が認められた。反黄体側卵巣重量と両卵巣に存在する中小卵胞数の関係を調べたところ、両者間に正の相関(r>0.4,P<0.0001)が認められた。これらの結果からウシで、卵巣の大きさが卵胞生産能に反映する事、および反黄体側卵巣重量から中小卵胞数のおおまかな予測ができる事が示唆された。
[英文要旨&PDF]