Volume 51, Number 4(2005)


スイギュウの閉鎖卵胞におけるvon Willebrand factorおよびvascular endothelial growth factorの分布(J. Reprod. Dev. 51: pp. 419-426, 2005)
Jun Babaan Feranil1)・磯部直樹2)・中尾敏彦3)

1)広島大学大学院国際協力研究科
2)広島大学大学院生物圏科学研究所
3)山口大学農学部

スイギュウにおける閉鎖卵胞の血管の生理学的特徴を調べるためにvon Willebrand factor(vWF)およびVascular endothelial growth factor(VEGF)の発現を観察した。食肉処理場でフィリピン沼沢スイギュウ(SB)およびホルスタインウシ(HF)の卵巣を採取し、直ちにホルマリンで固定した後、パラフィン切片を作成した。正常および種々の段階の閉鎖卵胞の切片にvWFおよびVEGF抗体を用いて免疫染色を施した。SBでは卵胞閉鎖が進行するにつれてvWF陽性血管の頻度が増加したが、HFでは閉鎖中期卵胞までは頻度が増加し、閉鎖後期の卵胞で減少した。SBおよびHFのいずれにおいても、vWF陽性血管の断面積は卵胞閉鎖の進行に伴って増加した。VEGFの陽性反応はSBおよびHFの顆粒層で観察され、その分布頻度は正常から閉鎖中期卵胞に進行するにつれて減少する傾向が認められた。内卵胞膜では顆粒層に比べて弱いVEGFの陽性反応を示し、その陽性反応は正常卵胞から閉鎖後期卵胞に進行するにつれて減少した。以上の結果から、SBの卵胞閉鎖過程におけるvWFの発現はVEGFのそれと逆の変化を示すことが明らかとなった。また、vWFおよびVEGFは卵胞閉鎖に関与している可能性が示唆された。

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ハンガリー在来ブタ(Mangalica)とLandrace雌ブタの排卵期における卵胞・卵母細胞の発育・成熟と生殖ホルモン分泌の比較(J. Reprod. Dev. 51: pp. 427-432, 2005)
Jozsef Rátky1)・Klaus-Peter Brrüsow2)・Istvan Egerszegi1)・Helmut Torner2)・Falk Schneider2)・Laszlo Solti3)・Noboru Manabe4)

1)Research Institute for Animal Breeding and Nutrition, Hungary
2)FBN Research Institute for the Biology of Farm Animals, Germany
3)Department of Obstetrics and Reproductive Biology, Faculty of Veterinary Science, Szent Istvan University, Hungary
4)Research Unit of Animal Life Sciences, Animal Resource Center, The University of Tokyo, Japan

ハンガリー在来ブタ(Mangalica)は産仔数が少ない(平均5.7頭)が生殖生理学的な特性については不明な点が多い。今回排卵前の卵胞の発育とその中の卵母細胞の成熟、ならびに生殖ホルモン(エストラジオール、プロゲステロン、黄体化ホルモン)の分泌動態についてMangalica種とLandrace種を比較した。Mangalica種とLandrace種の排卵直前の卵胞数はそれぞれ6.8、19.6個であった。Mangalica種では卵丘細胞の拡大と卵母細胞の成熟率が低く、高い黄体化ホルモンとエストラジオールのピークのレベルとこれらの長いピークの間隔、および低い胎仔の生存率が特徴的であった。低い黄体数にもかかわらず、高いプロゲステロンレベルを認めた。このような異常が発育する卵胞数が少ないことを引き起こしていると考えられた。

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ヒト娩出胎盤絨毛における血管走行と関連したコラーゲンの三次元分布(J. Reprod. Dev. 51: pp. 433-443, 2005)
Enrico Vizza1, 2)・Silvia Correr2)・Fabrizio Barberini2)・Rosemarie Heyn2)・Serena Bianchi3)・Guido Macchiarelli3)

1)Gynaecologic Endoscopy and Minimally Invasive Surgery Unit, Division of Gynaecologic Oncology, National Cancer Institute Regina Elena, Rome, Italy
2)Laboratory of EM Pietro M. Motta, Department of Anatomy, Faculty of Medicine, University of Rome "La Sapienza", Rome, Italy
3)Department of Experimental Medicine, Faculty of Medicine, Chair of Anatomy, University of L'Aquila, L'Aquila, Italy

血管新生とコラーゲンの三次元分布との関連について明らかにする目的で、正常妊娠後に娩出されたヒト胎盤の絨毛膜絨毛をアルカリ浸軟処理後に走査型電子顕微鏡により観察した。また透過型電子顕微鏡によっても観察を行った。絨毛膜絨毛は連続したコラーゲン線維構造により構成されていた。コラーゲン線維は絨毛膜絨毛軸を基板に連結する構造を呈していたが、その配列は絨毛の分岐する位置により異なっていた。一次絨毛には大量のコラーゲン線維が存在していた。絨毛表面側の外線維は主として絨毛の長軸方向に沿って配列していたのに対し、絨毛中心部にある内線維は胎仔血管壁を取り囲むように同心円状に配列していた。外線維、内線維はいずれも重層の層板構造や小さな平行束構造を呈していた。一次絨毛中心部には毛細血管の走行を可能にする小孔が見られた。成熟した中間部および先端部の絨毛では、絨毛中心部に極めて少量のコラーゲンが存在し、それらは多数の拡張した毛細血管と類洞を取り囲むように薄い同心円状の層を形成していた。これらの観察結果から、ヒト絨毛膜絨毛における細胞外基質は高度に区分化されており、絨毛膜絨毛において絨毛の分岐する位置によって様々な三次元分布を呈することが明らかとなった。また、このような分布の違いが母胎間の物質交換にとって最も適した微小環境を提供すると同時に、発達中の絨毛膜胎仔血管および栄養膜層に対して調整的な支持を担っていることが考えられた。

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ウシ卵管上皮におけるヒアルロン酸受容体CD44の同定(J. Reprod. Dev. 51: pp. 445-453, 2005)
Ann-Sofi Bergvist1)・横尾正樹2)・Renée Båge1)・佐藤英明2)・Heriberto Rodríguez-Martínez1)

1)Division of Comparative Reproduction, Obstetrics and Udder Health, Faculty of Veterinary Medicine and Animal Science, Swedish University of Agricultural Sciences
2)東北大学大学院農学研究科動物生殖科学分野

ヒアルロン酸は雌生殖器における精子貯蔵、受精、および初期胚発生などの生殖現象に関わるが、その細胞表面受容体CD44を介して機能すると予想される。本研究はCD44分子のウシ卵管上皮における存在と局在について免疫組織学およびウエスタンブロット法により解析した。組織切・および上皮抽出物は発情期および黄体期のウシの子宮卵管接合部、狭部および膨大部から採取した。免疫組織の結果ではCD44は上皮細胞の核近傍および管腔側に発現することが観察された。子宮卵管接合部の上皮細胞では細胞質全体が陽性反応を示した。また、反応は発情期、黄体期で相違は見られなかった。ウエスタンブロット法では卵管上皮に200 kDaの単独のバンドとして同定された。なお、CD44は卵管全体に分布したが、精子貯蔵部位(子宮卵管接合部)で強く発現していた。今回の報告はウシ卵管にCD分子を同定した初めての報告であり、卵管におけるヒアルロン酸の作用機序を明らかにする一助となると考える。

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ヤギの発情周期中における卵胞発育と血中ホルモン濃度の変化(J. Reprod. Dev. 51: pp. 455-463, 2005)
Mohamed Medan1,2)・渡辺 元2,3)・佐々木一昭4)・Nigel P. Groome5)・Sayed Sharawy1)・田谷一善2,3)

1)Department of Theriogenology, Faculty of Veterinary Medicine, Suez Canal University, Egypt
2)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室
3)岐阜大学大学院連合獣医学研究科基礎獣医学連合講座
4)日立中央研究所
5)School of Biological and Molecular Science, Oxford Brookes University, UK

6頭のヤギにおいて、連続した3発情周期にわたって超音波画像診断装置により毎日卵巣を観察した。また、一日一回採血し、血中FSH、インヒビンAおよびエストラジオールー17β濃度を測定して、卵胞発育波とホルモン濃度との関係を調べた。発情周期中、卵胞の発育は、卵胞発育波様の変化を示し、2〜5回の発育波を示す個体が認められたが、3回の発育波と4回の発育波を示す個体が主体であった。各卵胞発育波において、主席卵胞群の直径には、差が認められなかった。3回の発育波を示すヤギでは、直径3 mmの卵胞数は、発情周期0、7および11日、4回の発育波を示すヤギでは-1、5、11および15日にピークを示した。血中FSH濃度は、卵胞発育波の開始時点で高く、卵胞の発育とともに低下した。血中FSH濃度は、排卵に至る卵胞発育波においては、低値で経過したが、排卵に至らない卵胞発育波では、主席卵胞群の退行時に再び上昇した。インヒビンAはエストラジオール-17βと正の相関を示し、かつFSHとの間で負の相関を示したことから、インヒビンAは、発育中の正常卵胞から分泌されFSH分泌抑制に関与するものと推察された。以上の結果から、ヤギでは、卵胞発育波が存在するが卵胞の優位性は明らかではなかった。また、ヤギでは、インヒビンAは、FSH分泌量を調節することにより、卵胞発育波の出現を調節する重要なホルモンであろうと推察された。

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成雄ウシ由来線維芽細胞と成雌ウシ由来卵胞顆粒層細胞を用いた体細胞核移植におけるHandmade-Cloning法の有用性(J. Reprod. Dev. 51: pp. 465-475, 2005)
Sanjay Bhojwani1)・Gabor Vajta2)・Henrik Callesen2)・Knut Roschlau3)・Andreas Kuwer3)・Frank Becker1)・Hannelore Alm1)・Helmut Torner1)・Wilhelm Kanitz1)・Ralf Poehland1)

1)ドイツ国立家畜生物学研究所生殖生物学部門
2)デンマーク国立農学研究所動物育種繁殖学部門生殖生物学研究室
3)ドイツ種畜試験場

体細胞核移植におけるHandmade-Cloning法(HMC:透明帯を除去した卵母細胞に自動装置を用いて核を移植する手法)の有用性を成雄ウシ由来線維芽細胞と成雌ウシ由来卵胞顆粒層細胞を用いて調べた。7代および11代継代線維芽細胞と顆粒層細胞(各々グループ1、2および3)の核を6,874個の卵母細胞に移植した。全体として27個が胚盤胞まで発生し、そのうちの22個を子宮内に移植して結果2頭の受胎を確認した。1頭は4週後に死亡し、残り1頭は雄性新生仔として出産にまでいたった。HMC法で雄仔ウシが出産にまでいたったのは初めてのケースであり、本法で生存新生仔を得られることが確認できた。

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雄アライグマにおける精巣機能への季節の影響(J. Reprod. Dev. 51: pp. 477-482, 2005)
金子一幸1)・秋谷有美1)・佐藤はる乃1)・田中絢子1)・青木 創2)・三好正一2)・虻川孝秀2)・望月 誠2)・川上静夫1)

1)麻布大学・臨床繁殖学研究室
2)南空知農業共済組合

季節や生息地域が雄アライグマの繁殖能力におよぼす影響を明らかにするために、神奈川県と北海道で害獣として捕獲されたアライグマの精巣を組織学的に検査した。さらに、血中のテストステロン濃度を測定した。神奈川県で捕獲された個体では、血清中テストステロン濃度は秋季に上昇し、精細管の直径と精子形成スコアーは夏期に著しく減少した。しかし、北海道で捕獲された個体では夏季に精細管の直径に変化はみられず、精子形成スコアーの減少も神奈川県で捕獲された個体より軽度であった。以上の結果より、日本における雄アライグマには繁殖季節が存在することが示唆された。また、夏季における精巣機能の低下は、神奈川県で捕獲された個体のほうが北海道で捕獲された個体よりも重度であることが示された。

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ウシにおいて排卵前の卵胞内でコルチゾールの局所産生が増加する生体内での証拠(J. Reprod. Dev. 51: pp. 483-489, 2005)
Tomas J. ACOSTA1,4)・手塚雅文2)・松井基純1,5)・清水 隆1)・Bajram BERISHA3)・Dieter SCHAMS3)・宮本明夫1)

1)帯広畜産大学大学院畜産衛生学独立専攻
2)帯広畜産大学畜産科学科
3)ミュンヘン工科大学生理学研究所
4)現所属:岡山大学大学院自然科学研究科生殖内分泌学研究室
5)現所属:帯広畜産大学獣医学科臨床獣医学講座

本研究は、ウシ生体モデルを用いて排卵直前の卵胞膜内のコルチゾール産生を卵巣静脈および頸静脈中のコルチゾール濃度の変化と同時にリアルタイムで観察することを目的として行った。7頭の経産牛を定法の半分量のFSHと通常量のPGF2αを投与して過剰排卵処置を行った。PGF2α投与18-22時間後に成熟卵胞の卵胞膜外層に微透析膜キャピラリーを外科的に挿入した。同時に、成熟卵胞側の卵巣静脈および頸静脈にカテーテルを装着した。実験牛のうち5頭は期待される時間帯に排卵したが、残る2頭は排卵しなかった。卵巣静脈と頸静脈血中のコルチゾール濃度に差異はなかった。排卵した5頭の血中コルチゾール濃度は手術後12-24時間で基礎値に戻ったが、排卵しなかった2頭の血中コルチゾール濃度は手術後42 時間まで基礎値に戻らなかった。一方、排卵した卵胞膜内のコルチゾール濃度はLHサージのピークの4時間前から12時間後まで基礎値に比べ上昇した。2頭の排卵しなかったウシでは卵胞膜内のコルチゾール濃度に変化は認められなかった。以上の結果から、排卵直前の卵胞膜内には、局所のコルチゾール産生・変換の調節機構が存在することが生体レベルで初めて強く示唆された。この調節機構は、局所のグルココルチコイド濃度を一時的に増加させることで、排卵に関連する炎症反応を緩和する働きがあると考えられた。

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韓国の乳牛の繁殖成績における卵巣嚢腫の発症関連因子と経済的影響(J. Reprod. Dev. 51: pp. 491-498, 2005)
Ki-Doek Kim1)・Kwang-Sook Ki2)・Hyun-Gu Kang1)・Ill-Hwa Kim1)

1)College of Veterinary Medicine, Chungbuk National University, Korea
2)National Livestock Research Institute, RDA, Korea

本研究の目的は、個々のウシにおける複数の繁殖関連要因について解析することで、分娩後に発症する卵巣嚢腫の発症関連因子を同定することと、韓国における乳牛の分娩後の繁殖成績に及ぼす卵巣嚢腫の経済的影響を調べることである。産次、産褥期の異常、子宮内膜炎、ボディコンディションスコア(BCS)および繁殖成績について、9つの農場から634頭分の成績を集めた。これらの要因が卵巣嚢腫に及ぼす影響について、ロジスティック回帰分析により評価した。危険率5%となる最適モデルを得るために、ステップワイズ法を用いた結果、産次が、分娩後8週間以内での最も重要な卵巣嚢腫の発症関連因子であった。一方、子宮内膜炎の発症および乾乳期と比べBCSが1以上低下することが、分娩後8週間以降での最も重要な卵巣嚢腫の発症関連因子であった。分娩後8週間以降での卵巣嚢腫発症は、分娩から初回授精(27日)および受胎(77日)までの期間を有意に延長し(P<0.01)、さらに淘汰率(7.8%)を増加させた(P<0.05)。一方、分娩後8週間以内での卵巣嚢腫の発症は、分娩後の初回授精および受胎までの期間、さらに淘汰率へ影響を与えなかった。卵巣嚢腫の発症による経済的損失は、空胎期間延長に伴って、飼料コストの増加、期待される産子の平均成長による収益分の損失および労働力の増加、さらに、治療費用および淘汰により、約823,996ウォン(687ドル)と試算された。これらの結果から、産次数が分娩後8週以内の卵巣嚢腫の発症と関連し、子宮内膜炎および乾乳期から分娩後8週までにBCSが1以上低下することが分娩後8週以降の卵巣嚢腫の発症と関連することが明らかとなり、それらが分娩後の繁殖成績を低下させ、韓国の乳牛において経済的損失を与えていることが示された。

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妊娠後期の母体に投与したBisphenol Aは母体および出産後の仔ラットの子宮におけるCalbindin-D9kのmRNAとタンパクの発現を増加させる(J. Reprod. Dev. 51: pp. 499-508, 2005)
Eui-Ju Hong1)・Kyung-Chul Choi2)・Eui-Bae Jeung1)

1)Laboratory of Veterinary Biochemistry and Molecular Biology, College of Veterinary Medicine, Chungbuk National University, Republic of Korea
2)Department of Obstetrics and Gynecology, British Columbia Children's and Women's Hospital, British Columbia Research Institute for Children's and Women's Health, University of British Columbia, Canada

Calbindin-D9k (CaBP-9k)は、哺乳類子宮のエストロゲン受容体(ER)αを介して誘導されるので、環境中のエストロゲン様化合物の評価に適したマーカーである。今回妊娠後期の母体に投与したBisphenol A(BPA; 600 mg/kg/day)が母体および出産後の仔ラットの子宮におけるCaBP-9kのmRNAとタンパクの発現におよぼす影響を同様に投与した17β-estradiol(E2; 40 μg/kg/day)を対照として調べた。BPA投与によってCaBP-9k mRNAは母体子宮で3倍 (E2投与で2倍)、出産後仔ラット子宮で4倍に増加した。CaBP-9kタンパクも同様にBPA投与によって増加し、この時ERαmRNAも増加していた。母体および出産後の仔ラットの子宮におけるCaBP-9kのmRNAとタンパクの発現は、環境中にあって容易に吸収されて分散するエストロゲン様化合物の評価に優れたマーカーであることが分かった。

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性ステロイド補充療法後、性周期中および妊娠初期の未経産雌ブタにおける子宮内膜のFibroblast Growth Factor 7(FGF-7)とその受容体(FGFR2IIIb)の発現制御について(J. Reprod. Dev. 51: pp. 509-519, 2005)
Karin Wollenhaupt1)・Harald Welter2)・Klaus-Peter Brüssow1)・Ralf Einspanier3)

1)Research Institute for the Biology of Farm Animals, Germany
2)Institute of Physiology, Technical University of Munich, Germany
3)Institute of Veterinary Biochemistry, Free University of Berlin, Germany

未経産雌ブタの子宮内膜のFGF-7とFGFR2IIIb mRNAレベルは性周期12日のほうが20日より高かった。性周期10日時に卵巣を除去した未経産雌ブタの子宮内膜にもFGF-7とFGFR2IIIb mRNAとタンパクが発現していた。これにestradiol benzoate(EB)を投与するとFGF-7 mRNAの発現が亢進したが、プロゲステロン(P4)あるいはP4+EB投与はこれに影響しなかった。EBあるいはP4+EB投与によってFGFR2IIIb mRNAの発現は低下したが、P4はこれに影響しなかった。FGF-7タンパクは、子宮内膜上皮、血管平滑筋、血管内皮細胞に発現していた。EBあるいはP4+EB投与によってFGF-7タンパクの発現が亢進した。本研究から、FGF-7 mRNAの発現はP4存在下にエストラジオール(E2)によって亢進され、逆にFGFR2IIIb mRNAの発現はE2によって抑制されることが分かった。これらの卵巣ステロイドホルモンが子宮内膜のFGF-7とFGFR2IIIbの発現を適切に調節することでブタの受床の最適化が行われると考えられる。

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シバヤギの胎子、新生子および成獣の精巣におけるインヒビンサブユニットの局在(J. Reprod. Dev. 51: pp. 521-526, 2005)
翁 強1,2)・Mohamed S. Medan2,3)・LongQuan REN4,5)・渡辺 元2,4)・新井浩司6)・田谷一善2,4)

1)北京林業大学生物科学・技術学院動物生理学教研室
2)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室
3)Department of Theriogenology, Faculty of Veterinary Medicine, Suez Canal University, Ismailia, Egypt
4)岐阜大学大学院連合獣医学研究科
5)Laboratory of Veterinary Physiology, Agricultural College of Yanbian University
6)東京農工大学農学部附属硬蛋白質利用研究施設

本研究では、免疫組織化学を用いて、シバヤギの胎子、新生子および成獣の精巣内インヒビンα鎖、βA鎖およびβB鎖の局在を調べた。精巣は、シバヤギの胎子(90日齢)、新生子(15日齢)と成獣(3歳)から採取した。ABC法により、それぞれの精巣におけるインヒビンα鎖、βA鎖およびβB鎖の免疫局在を調べた。インヒビンα鎖、βA鎖およびβB鎖は、胎子のいくつかのライディヒ細胞で弱い陽性反応を示し、新生子中のライディヒ細胞では陽性反応を示す細胞数が増加した。胎子、新生子ともにセルトリ細胞には、インヒビンα鎖、βA鎖およびβB鎖の局在は認められなかった。成獣では、ライディヒ細胞とセルトリ細胞でインヒビンα鎖、βA鎖およびβB鎖の局在が認められた。以上の結果から、シバヤギの90日齢の胎子と新生子では、精巣のライディヒ細胞がインヒビン合成能力を有していること、さらに出生後は、発育に伴ってセルトリ細胞もインヒビン分泌能を獲得するものと推察された。

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2カ月例以下の非ホルモン刺激若齢仔ウシから得られた産仔:試行の結果(J. Reprod. Dev. 51: pp. 527-532, 2005)
Johannes Kauffold1)・Hussein A. H. Amer1)・Uwe Bergfeld3)・Frank Müller4)・Wolfgang Weber2)・Axel Sobiraj1)

1)Large Animal Clinic for Theriogenology and Ambulatory Services, Faculty of Veterinary Medicine, Germany
2)Department of Obstetrics and Gynecology, University of Leipzig, Germany
3)Saxon State Institute for Agriculture, Germany
4)Saxonian Cattle Breeders Association, Germany

2から3月齢のホルモン処理をしていない若齢仔ウシの卵胞から得た卵母細胞をin vitro成熟させて産仔を得られるか検討した。49、56あるいは80日齢の仔ウシ卵巣から直径4から8ミリあるいは8ミリ以上の卵胞を腹腔鏡を用いて取り出し、形態学的に正常な卵子・卵丘複合体を得た。これらを体外成熟培養後体外受精したら52.4%が細胞分裂を開始し、28.6%が桑実胚あるいは胚盤胞にまで発生した。これらの初期胚を移植したら3頭の産仔(4から8ミリの卵胞由来の卵母細胞から2頭、8ミリ以上から1頭)を得た。若齢雌ウシから産仔を得られることを実証でき、その成功率は卵胞のサイズに依らないことが分かった。

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顕微授精後のブタ体外培養胚におけるWell of the Well(WOW)システムの影響(J. Reprod. Dev. 51: pp. 533-537, 2005)
高 美貴子・岩山 広・福井 豊

帯広畜産大学 家畜増殖学研究室

体外におけるブタ胚の発生能を向上するためには、体内と類似した培養環境を創り出すことが重要である。体内では、胚自身や卵管内で生産された胚発生促進因子がオートクリン・パラクリン作用によって効果的に働き、微小環境におかれた胚の発生能が促進される。そこで本研究では、異なる4種の体外胚培養法(ドロップ、ウェル、直径 500 μm WOW、直径 1,000 μm WOW)が顕微授精後のブタ胚の発生能に及ぼす影響を検討した。分割率 (Day 2)および胚盤胞の平均細胞数(Day 6)は、4区の培養法において有意差は見られなかった。しかし、直径 1,000 μm WOWによる胚盤胞発生率(24.6%)は、他の3区に比べて有意に(P<0.05)高い値を示した(各々、12.9, 14.8および7.1%)。以上の結果から、本研究は、体外成熟由来のブタ胚の体外培養にWOWが有効であること、さらに使用するWOWの直径によりその効果が影響されることを初めて示した。

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ヒト血清アルブミンとEGFPを発現する形質転換ブタの開発(J. Reprod. Dev. 51: pp. 539-546, 2005)
成瀬勝俊1)・石川 博3)・河野博臣2)・上田英人2)・黒目麻由子2)・宮崎幸司4)・遠藤麻衣子5)・沢崎 徹5)・長嶋比呂志2)・幕内雅敏1)

1)東京大学医学部人工臓器移植外科
2)明治大学農学部発生工学研究室
3)株式会社SRL
4)ニプロ株式会社
5)東京大学動物生圏資源科学研究室

形質転換技術を用いてヒト有用タンパクを合成する研究が世界的に行われている。これは、代謝能と合成能の両方を備えた人工肝臓を開発するためにも重要な課題であり、特に、ヒト有用タンパクを産生する肝臓を持つ形質転換ブタを作出する必要がある。そこで、我々は、ヒト血清アルブミン遺伝子を導入した形質転換ブタの作出を試みた。導入用遺伝子は、全身発現性プロモーター、ヒトアルブミン遺伝子のcDNA、さらに、オワンクラゲの発光遺伝子EGFPのcDNAを接続し、pCX-hAlb-EGFPを得た。まず、過排卵処理して得たマウス受精卵に対して、上記遺伝子を前核顕微注入法により導入したところ、尾にGFPの発光を認める形質転換マウスを得、系統を樹立した。ブタへの遺伝子導入に当たっては、精子ベクター法を採用した。その結果、死産ではあったが、産仔蛍光により皮膚と蹄がGFPによる明瞭な発光を示す雌の形質転換ブタが産まれた。このブタの全身臓器からサンプルを採取して、PCR、および、RT-PCRを行ったところ、各臓器において、EGFP遺伝子とヒトアルブミン遺伝子の導入および発現が確認された。形質転換家畜血液からヒト血清アルブミンを精製する場合、現在用いられてるヒト血漿分画製剤のアルブミンや、酵母などによるリコンビナントのものと経済的または医療資源的コストの比較が問題になろう。

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