哺乳類卵母細胞の体外発育(J. Reprod. Dev. 51: pp. 169-176, 2005)
宮野 隆
神戸大学農学部 応用動物学科
哺乳類の卵巣中には発達段階の異なる多数の卵胞が存在し、それぞれの卵胞内には小さな卵母細胞が存在している。発育を未だ開始していない卵母細胞(ウシやブタでは直径30μm)のごく一部が発育を開始し、最終の大きさである120μmへと発育し、成熟し、排卵される。卵巣内の小さな卵母細胞を体外で発育させることができれば、家畜生産のための成熟卵の供給が可能となる。体外発育培養によって原始卵胞内の未発達なマウス卵母細胞を最終の大きさへと発育させ、完全な発生能力を獲得させることができる。大動物では、体外で発育させた卵母細胞から産仔が得られているのは現在のところウシに限られている。しかし、ウシにおいて用いられた卵母細胞は未発達な卵母細胞ではなく、初期胞状卵胞内の発育の途上にある直径90〜99μmの卵母細胞である。より小さな卵母細胞の長期体外培養に替わる方法として、免疫不全のマウスへの異種移植法がある。特定の大きさの小さな卵母細胞を体外培養あるいは異種移植法を用いて発育させることによって、哺乳類の複雑な卵巣中で起こる卵子形成や卵胞形成を制御する機構が明らかになると考えられる。
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乳牛の排卵同期化・定時人工授精の実用化と応用に関する研究(J. Reprod. Dev. 51: pp. 177-186, 2005)
山田恭嗣
根室地区NOSAI 標津家畜診療所
酪農の規模拡大に伴う乳牛の飼育頭数の増加は、繁殖管理をより一層困難とし、発情の見逃しによる人工授精(AI)実施率の低下や不適期のAIによる受胎率低下などの問題が生じ、その対策が急務となっている。排卵同期化・定時AI法(OVS/TAI)は、このような問題を解決する方法として1995年に米国で開発され、世界中で応用されてきた。しかし、当時、わが国では本法を応用した報告はなく、その確立にあたっては、わが国で市販されている性腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体(酢酸フェリチレリン、
GnRH-A)とプロスタグランジンF2α(トロメタミンジノプロスト、PGF2α)を用いた場合の排卵同期化率と受胎率を明らかにする必要があった。また、本法による受胎率は、牛群や実施時期によりバラツキがあることが指摘されていることから、受胎率に影響を及ぼす要因を解明し、確実に高い受胎率が得られる条件の設定が可能となれば、その普及も進むものと思われる。本研究は、わが国における乳牛のOVS/TAIの実用化と、その普及を目的に遂行した。
先ず、GnRH-A 100μgとPGF2α25 mgを用いた排卵同期化処置に伴う卵巣の形態的変化を、超音波断層装置を用いて観察し、十分に高い排卵同期化率が得られることを確認した。そして、この方法を野外で87頭の乳牛に応用し、従来の黄体確認後PGF2αの投与を行う方法(139頭)による受胎率と比較して高い受胎率が得られたことから(59.1%
vs 20.9%、P<0.05)、わが国の乳牛に対する本法の実用性が高いことが実証された。次に、排卵同期化におけるGnRH-Aの投与量について検討を行い、投与量を50μgに減すことが可能であることを明らかにした。さらに、受胎率に影響を及ぼす要因を特定するため、6年間にわたってOVS/TAIを行った1,558頭について、排卵同期化開始時の卵巣の状態、分娩後日数、産次数、および季節の影響、分娩後の卵巣機能の回復時期の影響、および栄養と受胎率の関係について調査を行った。1,558頭の乳牛のOVS/TAIによる受胎率は51.5%であった。また、排卵同期化処置開始後定時AIまでの間に発情が発現し、排卵が同期化されない例があり、これらの発情発現時期は初回GnRH-A投与後6〜7日目に集中する(56頭、3.6%)ことが判明した。さらに、分娩後40〜60日、5産次以降、7〜8月の暑熱期、卵巣回復時期が分娩後56日以降の群では受胎率は低下すること、乾乳期にボディコンディションスコア(BCS)が3.75、排卵同期化開始時にBCSが3.0の群では、高い受胎率が得られることが明らかにされた。
以上のように、OVS/TAIは、乳牛の繁殖管理に有効な方法であり、受胎率に影響する要因を考慮して実施すれば、安定的に高い受胎成績を上げることが可能であることが明らかとなった。
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卵細胞質注入法によるM期あるいはG1期に同期化した牛胎子繊維芽細胞由来再構築胚の核相の変化と初期発生(J. Reprod. Dev. 51:
pp. 187-194, 2005)
出田篤司1)・浦川真実1)・青柳敬人1)・佐伯和弘2)
1)全国農業協同組合連合会ETセンター
2)近畿大学生物理工学部遺伝子工学科
本研究では、M期あるいはG1期に同期化した牛胎子繊維芽細胞を除核した卵子細胞質に注入して作製した再構築胚の核相の経時的変化およびその後の初期発生について検討した。再構築胚の活性化処理はドナー細胞を注入後直ちに行った。M期の細胞による再構築胚では、注入後6時間目で48%の胚が極体様細胞を放出していた。15〜19時間目では、54%の胚が1個の前核様核を形成していた。G1期の細胞による再構築胚では、注入後30分以内に88%の胚で早期染色体凝集が観察された。これらの胚では、染色体が一箇所に凝集した状態が注入後3時間目まで観察された。15〜19時間目では、83%の胚で1個の前核様核が観察された。胚盤胞までの発生率は、M期(16%)よりもG1期細胞(31%)で有意に高かった(P<0.05)。G1期細胞由来の胚盤胞を5頭の受卵牛に移植したところ3頭で妊娠が確認され、1頭が分娩まで発生した。以上の結果から、卵子細胞質に直接体細胞を注入する方法では、牛M期細胞由来再構築胚は約半数しか極体様細胞を放出することができず、G1期細胞を用いた方が再構築後の発生率が高いことが示された。
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マウス初期胚の体外発生に及ぼす卵胞液と卵丘細胞の併用効果(J. Reprod. Dev. 51: pp. 195-199, 2005)
Abbasali Karimpour Malekshah・Amir Esmailnejad Moghaddam
Department of Anatomy and Embryology, Faculty of Medicine, Mazandaran University of Medical Sciences, Iran
哺乳類の着床前の胚の体外発生は未だ完全ではない。初期胚の質を改善する目的で、これまで卵胞液と卵丘細胞が別個に使用されてきた。本研究では、体外でのマウス初期胚の発生に及ぼす卵丘細胞とヒト卵胞液の併用効果を調べた。eCGとhCGによって過排卵を誘起したNMRIマウスより1細胞期胚を採取した。マウス未受精卵_卵丘複合体から卵丘細胞を得、パーコール密度勾配によって卵丘細胞を血球より分離した。IVF実施中の女性から卵母細胞採取時に卵胞液を採取した。卵丘細胞の単層を卵胞液(FC)およびHam's F10(HC)中に準備した。マウスの1細胞期胚をFC、HC、Ham's F10(HF)あるいは卵胞液(FF)中で120時間培養した。HF中では10.5%の胚が2-cell blockを越えて発生したにすぎなかった。しかし、FF、HCおよびFC中では、それぞれ23.1%、21.4%および68.5%の胚が2-cell blockを越えて発生し、これらの割合はいずれもHFに比べて有意に高く(P<0.05)、またFCの割合はFFおよびHCに比べて有意に高かった(P<0.001)。FC中では1細胞期胚の33.7%が胚盤胞へと発生したが、FFおよびHC中ではそれぞれ2.1%および1.9%が胚盤胞期へと発生したにすぎず、またHF中では胚盤胞への発生は認められなかった。FC中での胚盤胞への発生率は他の区に比べて有意に高かった(P<0.001)。以上の結果は、卵胞液と卵丘細胞の単層を併用すると初期胚の培養状態が改善されることを示している。
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ラットを用いた合成ピレスロイド系殺虫剤ペルメスリンのエストロゲン様および抗アンドロゲン様活性の評価(J. Reprod. Dev. 51:
pp. 201-210, 2005)
Soon-Sun Kim1)・Rhee-Da Lee1)・Kwon-Jo Lim1)・Seung-Jun Kwack1)・Gyu-Seek Rhee1)・Ji-Hyun
Seok1)・Hyo-Jung Yoon1)・Geun-Shik Lee2)・Beum-Soo An2)・Eui-Bae Jeung2)・Dae-Hyun
Cho1)・Kui-Lea Park1)
1)National Institute of Toxicological Research, Korea Food and Drug Administration,
Korea
2)Laboratory of Veterinary Biochemisry and Molecular Biology, College of Veterinary
Medicine, Chungbuk National University, Korea
全世界で広範に使用されている合成ピレスロイド系殺虫剤ペルメスリンにエストロゲン様および抗アンドロゲン様活性があることをラットを用いて明らかにしたので報告する。先に著者らはラット子宮においてカルシウム結合タンパクCalbindin-D9kの遺伝子が特異的に発現し、これがエストロゲン様および抗アンドロゲン様化合物によって亢進することを発見し、内分泌攪乱物質の高感度な活性検出系として確立してきた。この検出系に加え未熟な雌ラットを用いたuterotrophicアッセイと雄ラットを用いたHershbergerアッセイも用いてペルメスリンにはエストロゲン様および抗アンドロゲン様活性があることを見いだした。
cDNAマイクロアレイによるウシ栄養膜細胞株(BT-1)の遺伝子発現プロファイル(J. Reprod. Dev. 51: pp.
211-220, 2005)
牛澤浩一1)・高橋 透1)・金山佳奈子1)・徳永智之2)・角田幸雄3)・橋爪一善1,4)
1)(独) 農業生物資源研究所 発生分化研究グループ生殖再生研究チーム
2)(独) 農業生物資源研究所 発生分化研究グループ分化機構研究チーム
3)近畿大学農学部農学科 畜産学研究室
4)岩手大学農学部獣医学科 基礎獣医学講座
栄養膜細胞の分化は着床や胎盤形成に必須であるが、多数の要因が複雑に関与しており、その過程は不明な点が多い。我々はウシ栄養膜細胞の分化と機能を明らかにするためin vitroモデルであるウシ栄養膜細胞株(BT-1)についてcDNAマイクロアレイ、RT-PCRを用いて遺伝子発現プロファイルの解析を行った。BT-1は胚盤胞から分離した栄養膜細胞をフィーダー細胞を用いない培養系で確立した細胞株であり、現在200代を超える継代を経ている。アレイ解析の結果、BT-1では1773遺伝子中933遺伝子が生体の妊娠初期栄養膜および胎盤組織と比較して2倍以上の発現差を示した。これら933遺伝子についてk-means法によるクラスタリング解析を行い、各遺伝子を6クラスターに分配した。クラスター2は栄養膜細胞に特異的なPL、数種PAG遺伝子を含み、BT-1および妊娠初期栄養膜細胞並びに胎盤組織において同様の発現動態であった。マウスの未分化細胞で検出されるOct-4はBT-1および妊娠初期栄養膜細胞並びに胎盤組織で発現が確認された。BT-1と妊娠初期栄養膜および胎盤組織との遺伝子発現プロファイルの比較から、BT-1が妊娠初期栄養膜細胞で発現する特異遺伝子群を含むという特徴があることが明らかとなった。
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甲状腺機能低下が短日照明条件下で飼育した雄ゴールデンハムスターの精巣機能に及ぼす影響(J. Reprod. Dev. 51: pp.
221-228, 2005)
齋田栄里奈1,2)・藤平篤志3)・金 万洙1,2)・高橋慎司4)・鈴木 明5)・渡辺 元1,2)・田谷一善1,2)
1)岐阜大学大学院連合獣医学研究科 基礎獣医学連合講座
2)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室
3)独協医科大学 実験動物センター
4)生態影響研究チーム 国立環境研究所
5)PM2.5/DEP Research Project 国立環境研究所
季節繁殖動物において、甲状腺が繁殖期の移行に重要な役割を担っていることが知られている。しかし、その詳細なメカニズムは明らかではない。本研究では、甲状腺機能を低下させた雄のゴールデンハムスターを用いて、甲状腺機能と性腺機能の関連を明らかにすることを目的とした。初めに、甲状腺機能抑制剤であるチオウラシルが精巣に直接影響を与えるか否かを検討する目的で、長日条件(14h明:10h暗;LD)で4週間チオウラシルを飲水投与した。しかし、精巣への影響は認められなかった。次に、日照条件と甲状腺機能の関連を明らかにする目的で、短日条件(8h明:16h暗;SD)で15週間飼育した雄ゴールデンハムスターの甲状腺ホルモンを測定した。15週間のSD飼育により、甲状腺機能が低下することが明らかとなった。次に、チオウラシル投与により甲状腺機能を低下させたゴールデンハムスターをSD条件下で10週間飼育した。その結果、チオウラシル投与群は、チオウラシル非投与群に比べて、テストステロン(T)が早期に低下したが、黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)には差が認められなかった。そこで、この変化が視床下部あるいは下垂体に作用した結果であるか否かを検討する目的で、精巣を摘出し、テストステロンをインプラントしたゴールデンハムスターにチオウラシルを飲水投与し、SD条件下で10週間飼育した。チオウラシル投与群では、チオウラシル非投与群に比べて早期にLHの低下が認められた。一方で、精巣を摘出し、チオウラシルを飲水投与したゴールデンハムスターをSD条件下で2週間飼育し、GnRHを投与した結果、血中LH濃度は、チオウラシル投与群と非投与群との間で差が認められなかった。以上の結果から、雄のゴールデンハムスターにおいては、甲状腺ホルモンは視床下部に作用し、GnRHの分泌に影響を与えているものと推察された。
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ウシ卵管上皮細胞が分泌する可溶型N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ I:LH, VEGFおよびTNFαによる分泌刺激効果(J.
Reprod. Dev. 51: pp. 229-234, 2005)
野崎浩文1, 2)・Missaka P.B. Wijayagunawardane3)・Suranga P. Kodituwakku3)・吉田 孝4)・中村 正1)・荒井・吉1)・浦島 匡5)・宮本明夫5)
1)帯広畜産大学畜産学部
2)岩手大学大学院連合農学研究科
3)Department of Animal Science, University of Peradeniya, Sri Lanka
4)弘前大学農学生命科学部
5)帯広畜産大学大学院畜産学研究科
生殖の維持には細胞-細胞間および細胞-基質間相互作用が不可欠であり、それらの認識機構には細胞表面に存在する糖タンパク質のN型糖鎖が重要な役割を果たしている。本実験では、卵胞期に採取したウシ卵管上皮細胞を培養し、その培養液から糖タンパク質N-型糖鎖のオリゴマンノースタイプからコンプレックスタイプおよびハイブリットタイプへの変換の第一段階を触媒するN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ I(GnT I)活性を検出した。このGnT I活性は、卵管上皮細胞をluteinizing hormone(LH; 10 ng/ml)で24 時間刺激すると僅かに上昇したが、LH+17β-estradiol(E2; 1 ng/ml)で刺激するとさらに大きく上昇した。同様に、tumor necrosis factor(TNF)αあるいはvascular endothelial growth factor(VEGF)で刺激した場合にも活性が大きく上昇した。以上の結果から、ウシ卵管上皮細胞は培養条件下でGnT Iを分泌することが初めて示された。さらに、卵胞期から排卵期に活発になる内分泌因子(LH、E2)や卵管内局所因子(TNFα、VEGF)が培養卵管上皮細胞からのGnT Iの分泌を刺激することから、生体内でのウシ卵管液中のGnT I活性は排卵前後に著しく上昇するものと考えられた。すなわち排卵期に上昇したウシ卵管液中のGnT I活性が、細胞外グリコシル化を促進し、このことが受精や初期胚の発生に適した卵管内微環境を整えるのに寄与していることが推察された。
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マウスの卵子および発育段階の異なる胚における5種類の耐凍剤に対する透過性(J. Reprod. Dev. 51: pp. 235-246,
2005)
Prudencio B. Pedro・横山栄治・朱 士恩・吉田直子・Delgado M. Valdez Jr.・田中光信・枝重圭祐・葛西孫三郎
高知大学農学部
マウスの卵子および胚の耐凍剤透過性をしらべるために、MII期の卵子および1細胞期から拡大胚盤胞期の種々の発育段階にある胚を、25Cの5種類の耐凍剤液に浸した。25分間の卵子・胚の断面積を測定することによって、相対的体積変化を調べて透過性を比較した。卵子においては、Propylene glycol(PG)液中で最も収縮が小さく回復は速く、透過が速かった。続いて、DMSO、Acetamide(AA)、Ethylene glycol(EG)がやや遅れて透過した。これに対して、Glycerol(Gly)液中の卵子は大きく収縮したのち回復はわずかで、透過速度は極めて遅かった。1細胞期胚と2細胞期胚の体積変化は、卵子の体積変化と類似しており、受精前後で透過性の変化はみられなかった。しかし、8細胞期胚においては、PG以外の耐凍剤、特にGlyとAAの透過速度は増加した。さらに桑実胚では、GlyとEGの透過速度は、大きく増加した。特にEG液中では、収縮はごく僅かで、体積の回復は速く、極めて透過が速かった。このように、透過性は全体的に発育段階が進むと増加する傾向がみられたが、PG液中では、卵子や胚の体積変化は、いずれの発育段階でも変わらなかった。本実験の結果は、卵子・胚のステージごとに適する耐凍剤と適する処理方法を設定するための有用な情報となるであろう。
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シバヤギの黄体および胎盤におけるステロイドホルモン合成酵素の局在(J. Reprod. Dev. 51: pp. 247-252,
2005)
翁 強1,2)・Mohamed S. Medan2,3)・LongQuan REN2,4)・渡辺 元2,4), 坪田敏男4,5), 田谷一善2,4)
1)北京林業大学生物科学 技術学院動物生理学教研室
2)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室
3)Department of Theriogenology, Faculty of Veterinary Medicine, Suez Canal
University, Ismailia, Egypt
4)岐阜大学大学院連合獣医学研究科
5)岐阜大学応用生物科学部獣医学講座野生動物医学研究室
免疫組織化学法によりシバヤギ黄体および胎盤における、cholesterol side-chain cleavage cytochrome P450 (P450scc)、3β-hydroxysteroid dehydrogenase (3βHSD)、17α-hydroxylase cytochrome P450(P450c17)およびaromatase cytochrome P450(P450arom)の局在を調べた。黄体期(10日, n=2)および妊娠期(妊娠90日と120日)に、それぞれ1頭のシバヤギから黄体を含む卵巣と1頭の妊娠期中の胎盤(妊娠120日)を採取した。黄体期および妊娠期中の黄体細胞すべてに上記4つの酵素の陽性反応が認められた。P450scc、3βHSD、P450c17およびP450aromの分布は、黄体期と妊娠中の黄体細胞とで差異が認められなかった。P450c17とP450aromは、シバヤギ胎盤の栄養膜合胞体層に陽性反応が認められた。以上の結果から、シバヤギでは、黄体期および妊娠期の黄体はプロゲステロンに加え、アンドロジェンとエストロゲン合成能を有すること、胎盤はアンドロジェンとエストロゲン合成能を有することが判明した。
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様々なフタレート類におけるin vitroとin vivoの評価モデル間でみられるエストロゲン様活性の矛盾はCalbindin-D9kの発現と関連した現象として理解できる(J.
Reprod. Dev. 51: pp. 253-263, 2005)
Eui-Ju HONG1)・Youn-Kyu Ji1)・Kyung-Chul Choi2)・眞鍋 昇3)・Eui-Bae Jeung1)
1)韓国国立忠北大学校獣医学大学獣医生化学 分子生物学教室
2)カナダブリテッシュコロンビア大学医学部付属病院産婦人科
3)東京大学農学生命科学研究科高等動物教育研究センター
フタレート類はエストロゲン様の活性をもつ内分泌攪乱物質であると考えられているが、内分泌攪乱作用を評価するための様々なin vitroとin vivoの評価モデル間で矛盾した結果が得られている。今回この矛盾の原因を突き止めるために、様々なin vitroとin vivoの評価モデルを用いて、性周期中の雌性生殖器におけるエストロゲン依存性の遺伝子発現に必要なestrogen response element (ERE)の発現に支配的に関与しているCalbindin-D9k遺伝子の発現におよぼす17β-Estradiol、17α-Estradiol、N-butyl benzyl phthalate、dicyclohexyl phthalate、2-ethylhexyl phthalate、di-n-butyl phthalateおよびdiethyl phthalate の影響を精査した。その結果、化合物がCalbindin-D9k遺伝子の発現を亢進する評価系において化合物がエストロゲン様の作用を示すことが分かった。
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ヤギ胎盤における20α-水酸化ステロイド脱水素酵素の発現とその役割(J. Reprod. Dev. 51: pp. 265-272,
2005)
Walimuni Samantha Nilanthi Jayasekara・米澤智洋・石田真帆・山内啓太郎・西原真杉
東京大学大学院農学生命科学研究科
20α-水酸化ステロイド脱水素酵素(20α-HSD)は、プロゲステロンを生物学的に不活性な20α-ジヒドロプロゲステロン(20α-OHP)に代謝する酵素で、ラットやマウスでは主として黄体や胎盤に発現している。本研究においてはシバヤギの胎盤における本酵素の役割を明らかにすることを目的に、20α-HSD遺伝子の発現、および母体血液、胎子血液、羊水中のプロゲステロン、20α-OHP濃度の経時的変化を解析した。まず、妊娠40日、90日、130日、145日のシバヤギの胎盤における20α-HSD遺伝子の発現を調べた結果、妊娠40日では20a-HSD mRNAはほとんど検出できなかったが、90日で大きく上昇し、以降妊娠末期まで高いレベルが維持された。In situ hybridizationによる解析の結果、20α-HSD mRNAは胎盤の母体側の子宮内膜上皮に発現していることが示された。胎盤以外の子宮組織においても、妊娠90日で20α-HSD mRNAの弱い発現が、130日、145日で強い発現が見られた。また、妊娠130日の胎盤、子宮のサイトゾールを用いて調べたところ、20α-HSD活性が検出された。母体の血清中プロゲステロン、20a-OHP濃度はともに妊娠40日よりも90日、130日で高く、分娩直前の145日には低下するという変化を示した。一方、胎子血清中20α-OHP濃度も90日、130日では高く145日には低下するという消長を示したが、すべての時期で母体の血清中濃度よりも高かった。しかし、胎子血清中プロゲステロン濃度、および羊水中のプロゲステロンと20α-OHP濃度は妊娠期間中、きわめて低値に維持されていた。以上の結果は、胎盤の20α-HSDはプロゲステロンを異化し、胎子を低プロゲステロン環境下におくことによりその毒性から保護しているという仮説を支持するものである。
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乳牛の第1卵胞波における卵胞への血流の変化(J. Reprod. Dev. 51: pp. 273-280, 2005)
Tomas J. Acosta1)#・林 憲悟1)・松井基純2)・宮本明夫1)
1)帯広畜産大学畜産科学科 生殖科学研究室
2)帯広畜産大学獣医学科 臨床獣医学講座
#現所属:岡山大学大学院自然科学研究科 生殖内分泌学研究室
卵胞発育における個々の卵胞への血液供給および血管新生は、卵胞の発育と閉鎖に密接に関与している。本研究では、カラードップラー超音波画像診断装置(アロカ SSD-5500)を用いて、ウシ発情周期中の第1卵胞発育波において、卵胞壁内の血流の有無を経時的に観察することにより、卵胞選抜前後の個々の卵胞への血液供給の変化を調べた。ホルスタイン種経産牛(n=5)は、黄体期中期にプロスタグランジンF2αにひき続いてGnRHを投与して、排卵と新しい卵胞発育波を誘起した。GnRH投与日から1日1回、7日目まで個々の卵胞の超音波画像と血流の有無を観察した。各卵胞は観察終了時の直径に基づき、1)主席卵胞、2)次席卵胞および3)小卵胞(主席および次席卵胞を除く全ての卵胞)の3群に分けた。卵胞選抜前において血流の観察された卵胞数の割合は主席卵胞と次席卵胞の間で差は無かった。しかし、卵胞選抜後は、血流の観察された主席卵胞の割合は次席および小卵胞と比較して高かった。また、血流の観察された小卵胞の直径は、血流の観察されなかった小卵胞の直径と比べて大きかった。以上の結果から、個々の卵胞における血管新生と血液供給の有無が卵胞発育に強く関与していることが示唆された。
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暑熱ストレスがマウス卵管酸化還元状態および初期胚発生に及ぼす影響(J. Reprod. Dev. 51: pp. 281-287,
2005)
松塚好也1) ・小沢 学2)・中村綾子1)・牛谷敦子1)・平林美穂1)・金井幸雄1)
1)筑波大学大学院生命環境科学研究科
2)(独)農業生物資源研究所 遺伝資源研究グループ
暑熱ストレスに起因する初期胚死滅は様々な哺乳動物で生じることが知られているが、その発症機序の詳細は未だ明らかではない。本研究では、マウス卵管の酸化還元状態と暑熱ストレスに起因する初期胚死滅の関連を検証した。実験1では、非妊娠の雌マウスに12、24または36時間の暑熱ストレス処理(35C、相対湿度60%)を施し、卵管における活性酸素種(ROS)の産生量とフリーラジカル除去活性(FRSA)および肝臓中のグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)活性と過酸化脂質量の変動を調べた。実験2では、交配1日目のマウスに12時間の暑熱ストレス処理を施した後、回収した胚の体外発生能および2細胞期におけるDNA損傷について検証した。その結果、卵管のFRSAに対する暑熱ストレスの影響はみられなかったものの、ROSは暑熱ストレス時間に依存した有意な増加を示し、肝臓中のGSH-Px活性と過酸化脂質量も有意に増加した。また、暑熱ストレスを受けたマウス胚は、桑実胚および胚盤胞への発生率が有意に減少した。さらに2細胞期におけるDNA損傷の有意な増加が観察された。以上の結果から、暑熱ストレスに伴う母体組織の酸化ストレス亢進と暑熱ストレスに起因する初期胚死滅との関連が示唆された。
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単離されたマウス卵核胞の凍結保存(J. Reprod. Dev. 51: pp. 289-292, 2005)
Radomir Kren1)・Josef Fulka2)・Helena Fulka3)
1)Institute of Animal Production, Czech Republic
2)Institute of Animal Physiology and Genetics, Czech Academy of Sciences,
Czech Republic
3)Institute of Experimental Medicine, Czech Academy of Sciences, Czech Republic
未受精卵子の保存は、未成熟、成熟途上および成熟卵母細胞のいずれにおいても、満足できるものではない。そこで、この研究では、未成熟卵母細胞の卵核胞を少量の卵細胞質を含んだカリオプラスの状態で、空の透明帯に入れ、OPS(長く引き延ばされたストロー)を用いてガラス化保存を行った。その結果、非常に高い融解後の生存率が得られた。さらに、新鮮な未成熟卵母細胞と融合させた後に成熟培養を行ったところ、第二減数分裂中期に成熟することが判明した。
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原子間力顕微鏡によるウシ正常および先体反応精子の微細構造の検討(J. Reprod. Dev. 51: pp. 293-298, 2005)
佐伯和弘1,2)・住友範生2)・永田由紀2)・加藤暢宏3)・細井美彦1,2)・松本和也1,2)・入谷 明1,2)
1)近畿大学先端技術総合研究所
2)近畿大学生物理工学部遺伝子工学科
3)近畿大学生物理工学部知能システム工学科
本研究では、原子間力顕微鏡(AFM)を用いたウシ凍結・融解および先体反応精子の頭部の表面形状を検討した。また、精子頭部の正中断面積の数値的解析についても検討を加えた。ウシ凍結・融解精子を洗浄し、heparinによる受精能獲得およびlysophosphatidylcholine(LPC)による先体反応誘起を行い、カバーガラスに塗抹、風乾後、dynamic force(tapping)modeによるAFM観察を行った。洗浄精子をAFMで観察したところ、先体、赤道節、先体後域および頚部の明瞭な表面形状が観察できた。受精能獲得した精子においても先体の形状に変化はみられなかった。LPCで処理したほとんどの精子において、naphthol yellow S および erythrosin Bで染色後の光学顕微鏡による観察と同様に、AFM観察においても先体がみられなかった。先体反応精子の先体域の正中断面積(2679± 616 pixels)は、正常精子(4535± 174 pixels)より約40%小さかった(P<0.05)。以上より、AFMを用いることでウシ精子頭部の表面の微細構造を観察できるとともに、その数値化も可能であることが示された。
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