成熟雌ゴールデンハムスター(Mesocricetus auratus)の卵巣における神経成長因子(NGF)およびリセプターtrkAとp75の局在 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 605-611, 2004)
史 占全1,2)・金 万洙1,2)・渡辺 元1,2)・鈴木 明3)・高橋慎司4)・田谷一善1,2)
1)岐阜大学大学院・連合獣医学研究科・基礎獣医学専攻
2)東京農工大学大学院・共生科学技術研究部・動物生命科学部門獣医生理学研究室
3)国立環境研究所・PM 2.5 DEP研究プロジェクト毒性評価研究チーム
4)国立環境研究所・環境ホルモン・ダイオキシンプロジェクトグループ
本研究では、成熟雌ゴールデンハムスターの卵巣における神経成長因子(NGF)とそのリセプター(trkAとp75 )の局在と発情周期に伴う変化について解析した。また、NGFとそのリセプター(trkAとp75
)の発現に対するLHサージの役割についても研究した。NGFとそのリセプター(trkAとp75)は、発情周期を通して各種ステージの卵胞中の卵と顆粒層細胞及び卵胞膜内膜細胞並びに間質細胞と黄体細胞に局在が認められた。間質細胞におけるNGFとそのリセプター(trkAとp75)は、day
1(排卵日)が他のステージに比べて多くの細胞に発現が認められた。Day 4 11時に黄体形成ホルモン放出ホルモンに対する抗血清(LHRH-As)を静脈注射すると翌日の排卵が完全に抑制され、間質細胞でのNGFとそのリセプター(trkAとp75)を発現する細胞数が低下した。LHRH-As投与後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモンを投与すると排卵抑制は解除され、間質細胞におけるNGFとそのリセプター(trkAとp75)を発現する細胞数が正常と同レベルに回復した。ゴールデンハムスターの卵巣におけるNGFとそのリセプター(trkAとp75)の広範囲な局在から、卵巣機能調節においてNGFが重要な生理的役割を有するものと推察された。さらに、LHサージは、卵巣間質細胞におけるNGFとそのリセプターの発現に重要な因子であろうと推察された。
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ウシ受精卵におけるclaudin-16遺伝子型判定および性判別 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 613-618, 2004)
平山博樹1)・陰山聡一1)・森安 悟1)・平野 貴2)・杉本喜憲2)・小林直彦3)・稲葉 睦4)・澤井 健1)・尾上貞雄1)・南橋 昭1)
1)北海道立畜産試験場
2)動物遺伝研究所
3)岐阜県畜産研究所
4)北海道大学大学院獣医学研究科・獣医学部・診断治療学講座
ウシ受精卵においてclaudin-16遺伝子型を判定するために、multiplex-PCRによるclaudin-16正常およびType-1欠損配列の検出を試みた。本方法により、5pgのヘテロ型ゲノムDNAから正常およびType-1欠損配列を同時に検出することができた。受精卵(E-L)およびその受精卵から採取した細胞(E-S)の遺伝子型判定を行った結果、E-Sにおける判定結果の97.2%がE-Lにおける結果と一致した。また、採取した細胞からclaudin-16遺伝子型および性別について検査した結果、それぞれ91.7%(11/12)および83.3%(10/12)を判定することができた。これらの胚を受精卵移植して得られた胎子1頭(100日齢)の白血球、肝臓および皮膚を同様の方法で検査した結果、claudin-16
Type-1欠損ホモ型の雄と判定され、受精卵における判定結果と一致した。以上の結果から、受精卵におけるclaudin-16遺伝子型判定は、受精卵移植と組み合わせることにより遺伝病の伝達を防ぐことができ、家畜改良の促進に有効な技術であることが示された。また、受精卵において複数の形質を遺伝子診断できることが示された。
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発情周期中およびプロスタグランジンF2α投与後のウシ黄体内でのアンジオポエチンと受容体TieのmRNA発現の変化:黄体退行開始機構への関与の可能性 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 619-626, 2004)
田中 純1)・Tomas J. Acosta1)#・Bajram Berisha2)・手塚雅文1)・松井基純3)・小林修一1)・Dieter Schams2)・宮本明夫1)
1)帯広畜産大学・畜産科学科・生殖科学研究室
2)ミュンヘン工科大学・生理学研究所
3)帯広畜産大学・獣医学科・家畜臨床繁殖学研究室
#現所属:岡山大学大学院・自然科学研究科・生殖内分泌学研究室
黄体における血管の新生と退縮が,黄体機能に関与することが知られている。 近年、アンジオポエチン(ANPT)とそのレセプターであるTieが血管再構築を制御することが報告されている。本研究では、1)半定量的RT-PCR法により、発情周期中およびプロスタグランジンF2α(PGF2α)投与により誘起した黄体退行中のウシ黄体におけるANPT-1、ANPT-2、Tie1およびTie2のmRNA発現の変化、および2)In
vitro microdialysisシステム(MDS)を用いて、ANPT-2が後期黄体からのプロジェステロン(P4)の分泌に及ぼす影響について調べた。黄体は発情周期に基づき、4つのステージ(初期:Day
2-5、中期:Day 8-12、後期:Day 15-17、退行期:Day>18)に分類した。ANPT-1のmRNA発現は、初期および退行期の黄体で、中期あるいは後期の黄体に比べ低かったが、ANPT-2の発現は発情周期による差異はなかった。PGF2αにより誘起した退行中の黄体では、PGF2α投与後2時間目にANPT-2が急速かつ一過性に増加した。ANPT-1
は、PGF2α投与後4時間目から減少し、その後低値を維持した。MDSを用いた実験では、ANPT-2(100 ng/ml)の灌流は、後期黄体からのP4分泌を急激に抑制した。以上の結果から、ウシ黄体におけるANPT-1および-2の発現は、発情周期中の黄体のステージにより異なること、また、PGF2α投与による黄体退行過程において変化することが明らかになった。特に、黄体退行時におけるANPT-1のmRNA発現の減少が、黄体の血管を不安定な状態に導き、その後の血管の退縮に関係すると考えられた。さらに、ANPT-2が、黄体退行過程におけるP4分泌の制御因子として働いている可能性が示された。
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24時間室温保存したマウス卵母細胞子からの産仔の作出 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 627-637, 2004)
若山清香1,2)・Ngyuan Van Thuan2)・岸上哲士2)・大田 浩2)・引地貴亮2)・水谷英二2,3)・三宅正史1)・若山照彦2)
1)神戸大学大学院・自然科学研究科
2)理化学研究所・発生・再生科学総合研究センター
3)東北大学大学院
マウス未受精卵はガラス化保存などで超低温保存されているが、液体窒素などを利用するため、簡単な輸送であっても極低温を維持しなければならない。そこで我々はマウス卵母細胞の4
C以上の温度下での保存の可能性を検討した。未受精卵を数種類の培地で4 C、27 Cおよび37 Cで24時間保存し、保存後の形態を光学および共焦点顕微鏡で観察した。4
Cでは約70%の卵が細胞質中に水泡を形成し、単為発生刺激を与えると5%程度が胚盤胞まで発生した。27 Cでは比較的正常だったが紡錘体のa-チューブリンはほとんどの卵で異常を示した。単為発生刺激後、30%程度が胚盤胞まで発生した。37
Cでは形態は正常なものが多かったが細胞質の色が濃くなり、単為発生刺激を与えても胚盤胞へはまったく発生しなかった。培地による違いは見られなかったが、THYが比較的よかったため、THYで室温保存した卵にIVFあるいはICSIをしたところ、染色体の不等分離が数多く観察されたものの、わずかながら産仔を得ることができた。成績を改善するために、保存卵の紡錘体を新鮮卵の紡錘体と置換してみたが、紡錘体異常は改善されなかった。本研究により少なくともマウス未受精卵の一部を室温で24時間保存できることが明らかになった。また、発生率の低下は細胞質だけでなく核にも原因があることが示された。
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老齢カニクイザルに対するPueraria mirifica(植物エストロゲン)の長期投与が血中上皮小体ホルモンおよびカルシウムレベルに及ぼす影響 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 639-645, 2004)
Hataitip Trisomboon1,2)・Suchinda Malaivijitnond2)・鈴木樹里3)・濱田 穣3)・渡辺 元4,5)・田谷一善4,5)
1)Biological Science Ph.D. Program, Faculty of Science, Chulalongkom University, Thailand
2)Primate Research Unit, Department of Biology, Faculty of Science Chulalongkom University, Thailand
3)京都大学霊長類研究所
4)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室
5)岐阜大学大学院連合獣医学研究科基礎獣医学連合講座
骨代謝に及ぼすPueraria mirifica(PM)の影響を検討する目的で1群3頭合計9頭の老齢カニクイザルを用いてPMの10、100および1000
mgの長期間投与実験を行った。実験は、投与前期間(30日)、投与期間(90日)および投与終了後期間(60日)の3期に分け、全期間を通して5日ごとに採血し、上皮小体ホルモン(PTH)、エストラジオールとカルシウムを測定した。PM1000
mg投与群では、投与期間中の血中PTHとカルシウムレベルが投与前に比べて低値を示した。また、PM1000 mg投与群では、投与終了後も15日間にわたり血中PTHレベルが低値を示した。PM10
mg投与群では、投与後80日に血中PTHレベル、投与後75日に血中カルシウムレベルが投与前に比べて有意な低値を示した。PM100 mg投与群では、血中PTHおよびカルシウムレベルに有意な変化は認められなかった。PM10、100および1000
mg投与群において、投与期間中に血中エストラジオールレベルの低下が認められた。
本研究において、植物エストロジェンを含有するPMの1000 mgを長期間連日投与することにより、老齢カニクイザルの血中PTHおよびカルシウムレベルが低下する事実が明らかとなった。これらの結果から、PMは、エストロジェン欠乏による骨密度低下の改善に有効であると考えられる。
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卵子を用いた抗ミクロチューブ薬剤のスクリーニングシステム (J. Reprod. Dev. 50: pp. 647-652, 2004)
Shin DY・Choi TS
Department of Microbiology, College of Medicine, Dankook University, Anseo, Chonan 330-714, GenCross Biotech Institute, Chonan 330-714, Korea
タキソルやビンブラスチンは細胞の抗ミクロチューブ薬剤として癌の化学療法に広く用いられてきた。その一方で、細胞毒性が少ない、あるいは薬剤耐性をもたらさないような効果を持つ新規の抗ミクロチューブ薬剤の開発に努力が積み重ねられている。抗ミクロチューブ効果を判定する一般的な方法は、精製したものを用いたin
vitroでのミクロチューブ重合化法である。しかし、ミクロチューブに直接効果を持つ以外の薬剤は検出できないことがこの方法の限界とされる。ミクロチューブ周辺に効果を及ぼすものや、未知分子を介してミクロチューブに影響を及ぼすような新規の薬剤は、この方法では効果が判定できない。そこで、最近では形態的変化に基づく新規のスクリーニング法の開発が試みられている。本研究では、卵子を用いた抗ミクロチューブ薬剤のスクリーニング法の開発を行った。排卵した卵子をタキソルやビンブラスチンといったミクロチューブの安定化に影響を及ぼす薬剤で処理すると、ミクロチューブにおいて顕著な形態的変化が観察された。検体を5時間卵子と培養して免疫染色した卵子を蛍光顕微鏡で分析すると、ミクロチューブ重合化に及ぼすタキソルの有効量(ED50)は5
μM程度で、ミクロチューブ脱重合化に及ぼすビンブラスチンのED50は2.5 μM程度である。さらに、この方法を用いれば、タキソル効果およびビンブラスチン効果を持つ物質を1回のアッセイにより同時に評価することも可能である。
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合成培養液でのスナネズミ胚の発生:浸透圧,グルコースとリン酸の影響 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 653-659, 2004)
辻井弘忠1)・谷口直子1)・濱野光市2)
1)信州大学農学部応用生命科学科
2)信州大学農学部AFC
スナネズミ2細胞期胚を修正M16培養液で培養した。グルコース5.0 mM l-1を含む培養液においてNaClの量を変え浸透圧を280、290、300、310 mMにした場合、2細胞期から8および16細胞期への発生がみられた。1細胞から16細胞期の胚を生体から採取直後と培養後の胚の14C-メチオニンの取り込みと酸化を比較検討した。その結果、採卵直後の卵子の14C-メチオニンの取り込みと酸化は8細胞期以降急増した。一方、採卵後1時間培養をした卵子はhCG投与後115時間の16細胞期において胚発生過程でみられる胚側の複写活性の指標となるタンパク合成量が最も低くなった。培養液のリン酸とグルコースの影響を調べた結果、リン酸を含まない培養液では、グルコースは2細胞期から8細胞への発生を促進し、低濃度のグルコースはスナネズミ2細胞期から8細胞への発生に必要であった。これらの結果から、着床前のスナネズミ胚は低濃度のグルコースを含む既知培養液で培養出来る可能性が見出された。
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体細胞核移植山羊胚の発生:体細胞核および受核卵子の細胞周期調節の効果 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 661-666, 2004)
Li-Sheng ZHANG1)・Man-Xi JIANG1)・Zi-Li LEI1)・Rui-Chang LI2)・Dan SANG2)・Qing-Yuan SUN1)・Da-Yuan CHEN1)
1)State Key Laboratory of Reproductive Biology, Institute of Zoology, Chinese Academy of Sciences, China
2)Laboratory of Embryo Engineering, Shengneng Group, City of Linyi, China
体細胞核移植山羊胚の発生能、ならびに、導入核および微小管のダイナミックスに及ぼす体細胞核および受核卵子の細胞周期調節の効果について調べた。導入体細胞およびレシピエントの体外成熟除核卵子の細胞周期を調整して3グループの核移植を行った。すなわち、G0/G1
(100% コンフルーエントの線維芽細胞)およびG2/M(ノコタゾール処理の線維芽細胞)を第二減数分裂中期(MII)の除核卵子と融合(それぞれ、G0/G1→MIIおよびG2/M→MII
グループ)し、さらに、G0/G1期の線維芽細胞を、前もって活性化させたS期にある除核卵子(G0/G1→Pre グループ)と融合させた。その結果、G0/G1→MII
およびG0/G1→Pre グループにおいては、体細胞核と除核卵子の融合率およびその後の発生率に差がなかった。しかし、G0/G1→MIIグループは、G2/M→MII
グループと比較して有意に高い発生率を示した。MII期の除核卵子を用いたG0/G1→MIIおよびG2/M→MII グループでは、ほとんどの移植した体細胞核がPremature
chromosome condensation (PCC)を示した。しかし、G0/G1→MIIグループにおいてのみ正常な紡錘糸が観察された。一方、G0/G1→Pre
グループではPCCが殆ど観察されなかったが、膨化した核構造が観察された。これらの結果より、体外成熟山羊卵子は、線維芽細胞核移植後のクローン胚を発生させる能力を有することが判明した。また、G0/G1期の体細胞をMII期およびS期の除核卵子に導入するとクローン胚の発生が改善され、G2/M期の体細胞をMII期の除核卵子に導入すると異常な染色体を有するクローン胚が増加することが示唆された。
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セラミドはカルシウムとカルシウムイオノホアA23187により誘起されたブタ射出精子の先体反応を増強する (J. Reprod. Dev. 50: pp. 667-674, 2004)
村瀬哲磨1,3)・今枝紀明4)・近藤菜穂1)・坪田敏男2,3)
1)岐阜大学応用生物科学部獣医臨床繁殖学研究室
2)岐阜大学応用生物科学部野生動物医学研究室
3)岐阜大学大学院連合獣医学研究科
4)岐阜県畜産研究所養豚研究部
哺乳動物精子は受精において卵子に侵入する前に先体反応を誘起されなければならないが、この調節機構は不明な点が多い。本研究はブタ射出精子の先体反応におけるセラミドの関与を検討した。手圧法により採取したブタ射出精子をBeltsville
TS 希釈液で希釈後 72 時間まで 17 Cにて保存した。洗浄後、内因性セラミドのアナログである C2-セラミド、C2-セラミドの陰性対照であるC2-ジヒドロ-セラミド(C2-DH-セラミド)あるいはアルカリセラミダーゼの阻害剤である
(1S, 2R)-d-erythro-2-(N-myristoylamino)-1-phenyl-1-propanol
(D-erythro-MAPP) の存在下で精子を 10 分間前培養の後 3 mM Ca2+
と 0.3 μM A23187 (Ca2+/A23187)で刺激した。種々の時間後先体反応誘起率を調べた結果、Ca2+/A23187
による刺激開始後5分では明らかな変化は見られなかったが、10 分で急激に上昇し 15 分以上の培養でほぼ最高値に達した。C2-セラミドあるいはD-erythro-MAPP
の存在下で前培養した結果、Ca2+/A23187 により誘起された先体反応は濃度依存的に増強されたが、C2-DH-セラミドは影響を及ぼさなかった。以上のことから、先体反応を調節する機構にセラミドが関与する可能性が示唆された。
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成熟後に精巣重量の増加と不妊を伴う先天性甲状腺機能低下症rdwラットの発達期のホルモン相について (J. Reprod. Dev. 50: pp. 675-684, 2004)
梅津元昭1,2)・利部 聰3)・江 金益4)・新村末雄5)・佐藤英明6)
1)宇都宮大学農学部・動物生産学講座・動物内分泌学研究室
2)東京農工大学連合農学研究科生物生産学専攻
3)山口大学農学部獣医学科
4)Hormones, Growth and Development (Mos, TsangUs Lab), Ottawa Health Research Institute
5)新潟大学農学部
6)東北大学大学院農学研究科
先天的甲状腺機能低下症ミュータントの雄のrdwラットは成熟後に不妊と小人症を伴った肥大した精巣をもつ。rdwラットが成熟後肥大した精巣をもつ機構を知るために、我々は成長段階で 1)血中ホルモンとしてチロキシン(T4)、FSH、LH、テストステロンの値 2)3週齢(w)から成熟後のT4処理(rdw+T4)による妊孕性の回復の有無 3)rdw+T4のホルモン相への影響を同週齢の正常な(N)ラットと比較した。
rdwラットの精巣重量は、発達段階では低かったが、19wでNラットのものより有意に大きいことが確認され、1)rdwラットの血清T4値は、Nラットのそれより著しく低いものの、19wまで着実に増加を続けた。rdwラットの血清FSH値はすべての週齢でNラットのそれらより低く、血清LHもT値も各週齢で差がなかった。2)rdw+T4ラットの精巣重量は成長の回復を伴い、13wでNラットのものより有意に高く、19wではrdwラットの肥大した精巣より大きかった。これらを16w後に発情前期の雌と交配したとき、全ての雌が妊娠し正常な数の産子を分娩した。3)rdw+T4ラットの血中T4とFSH値は、成熟rdwラットより有意に高かったが、Nラットのそれらと同様であった。
これらの結果から、rdwラットでは低レベルの循環甲状腺ホルモン(TH)でさえそれらの精巣、おそらくセルトリ細胞の発達を刺激し、その結果、成熟後の不妊を伴った肥大した精巣をもたらすこと、そして、未成熟期からの十分な循環THレベルは、おそらく、成熟後に向けて増加するFSHに仲介された作用を通じて、交尾能を回復するのに重要な役割を果たしていることが示唆された。
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ガラス化保存後の牛体外成熟卵子の高生存率 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 685-696, 2004)
R.C. Chian1,4)・桑山正成2)・L. H. L. Tan1)・J. H. J. Tan1)・加藤 修2)・永井 卓3)・SL Tan1)
1)Division of Reproductive Biology, Department of Obstetrics and Gynecology, McGill University, Montreal, Canada
2)加藤レディスクリニック
3)(独)農業・生物系特定産業技術研究機構・畜産草地研究所
4)Women's Pavilion F3-46, Royal Victoria Hospital
凍結保存卵子を用いることによって、ヒトの体外受精(卵細胞質内精子注入法を含む)による受胎率を高めることは重要な課題である。ところが、定法の緩慢凍結では卵子の融解後の生存率は極めて低い。そこで、我々は細胞内に氷の結晶を生じないガラス化凍結により、ヒト卵子の実験モデルとして、牛卵子の凍結を行い卵子の融解後の生存率を高めることを目視した。 卵丘細胞が付着、または卵丘細胞を取り除いた体外成熟牛卵子を、15.0%(v/v)エチレングリコール(EG)+
15%(v/v)ジメチルサルフォオキサイド(DMSO)+ 0.5 M ショ糖(DMSO区)、あるいは、EG + 15%(v/v)1,2 プロパンディオール(PROH)+0.5
Mショ糖(PORH区)からなる耐凍剤、および、卵子を入れる容器としてCryotop あるいはThin plastic Stickerを用いてガラス化凍結した。ガラス化後の卵子を暖めた後に体外受精を行い、その後の胚盤胞期胚への発生率を調べた。また、融解後の卵子の前培養が体外受精卵子の発生に及ぼす影響についても調べた。その結果、胚盤胞期胚への発生率は、PORH区においてDMSO区と比べて有意に高い値が得られた(7.4%
± 4.1 vs. 1.7% ± 3.0)。また、ガラス化時に卵丘細胞が付着していない卵子の方が、卵丘細胞付着卵子と比べてガラス化後の生存率が高く、かつ、高い胚盤胞期胚への発生率を示した。さらに、融解後の卵子の前培養により、体外受精卵子の発生率が低くなった。これらの結果により、牛体外成熟卵子は、耐糖剤EGおよびPROHを混合した溶液を用いてガラス化凍結した場合、高い発生能を維持すること、ガラス化時の卵丘細胞は融解後の生存率に関与しないこと、融解後の卵子の前培養は受精後の発生に必要がないことが明らかになった。
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シバヤギにおける絶食および再給餌期間中のGnRHパルスジェネレーター活動と血中代謝基質およびインスリン濃度変化との対応関係 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 697-704, 2004)
松山秀一1,2)・大蔵 聡1)・市丸 徹3)・櫻井勝康4)・束村博子2)・前多敬一郎2)・岡村裕昭1)
1)(独)農業生物資源研究所・生体機能研究グループ・神経内分泌研究チーム
2)名古屋大学大学院・生命農学研究科・動物生殖制御学研究室
3)東京大学大学院・農学生命科学研究科・獣医動物行動学研究室
4)東北大学大学院・農学研究科・動物生理科学研究室
反芻動物における栄養による性腺刺激ホルモン分泌の制御メカニズムを解明するため、シバヤギを用いて絶食および再給餌期間中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)パルスジェネレーター活動と血中代謝基質およびインスリン濃度変化との対応関係を検討した。卵巣除去(OVX)および卵巣除去後エストラジオールを代償投与した(OVX+E2)シバヤギに4日間の絶食を負荷し、その後給餌を再開した。視床下部弓状核/正中隆起部に留置した電極を通じて多ニューロン発火活動(MUA)を連続的に記録し、一過性のMUA上昇(MUAボレー)間隔をGnRHパルスジェネレーター活動の指標とした。OVX+E2群では、絶食期間の進行に伴いMUAボレー間隔が延長した。また、絶食期間中に血中非エステル化脂肪酸(NEFA)およびケトン体濃度は上昇し、酢酸およびインスリン濃度は低下した。給餌再開後、MUAボレー間隔、代謝基質およびインスリンの血中濃度は絶食前の値に回復した。一方OVX群では、代謝基質およびインスリンの血中濃度変化はOVX+E2群におけるそれらの濃度変化と同様であったが、MUAボレー間隔は実験期間を通じて変化しなかった。これらの結果から、栄養状態の変化に伴うNEFA、ケトン体、酢酸、インスリンの血中濃度の情報は、エストロジェン依存的にGnRHパルスジェネレーター活動の調節に関与している可能性が示唆された。
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インヒビン受動免疫法によるミニシバヤギの排卵数増加 (J. Reprod. Dev. 50: pp. 705-710, 2004)
Mohamed S. Medan1,2)・名倉義夫3)・金澤浩子3)・藤田 優3)・渡辺 元1,4)・田谷一善1,4)
1)東京農工大学大学院共生科学技術研究部動物生命科学部門
2)Department of Theriogenology, Faculty of Veterinary Medicine, Suez Canal University, Ismailia, Egypt
3)家畜改良センタ‐長野牧場
4)岐阜大学大学院連合獣医学研究科基礎獣医学連合講座
インヒビン中和法がミニシバヤギの血中ホルモン濃度と排卵数に及ぼす影響について検討した。実験には、10頭の成熟雌ミニシバヤギを用い、5頭にはインヒビン抗血清(10
ml)、他の5頭には対照群として、正常ヤギ血清を静脈注射し、血中ホルモン濃度を測定する目的で経時的に採血した。卵巣の変化は、開腹手術により肉眼で確認した。インヒビン抗血清投与群では、対照群に比べて有意な血中FSH濃度の増加が認められ、黄体退行後、血中エストラジオール‐17β濃度が対照群の2倍にまで上昇した。排卵数は、インヒビン抗血清投与群で、14.4
± 2.2個、対照群で2.2 ± 0.6個、直径4 mm以上の卵胞数は、インヒビン抗血清投与群で10.0 ± 0.8個、対照群で2.4 ± 0.3個といずれもインヒビン抗血清投与群で有意な増加を示した。
本研究において、プロスタグランジンF2α投与の72時間前にインヒビン抗血清を投与することにより、FSH分泌量が増加し、卵巣では、卵胞発育が促進され、排卵数が増加するものと解釈された。以上の結果から、インヒビン中和法は、ヤギにおいて外因性性腺刺激ホルモン投与法による過排卵誘起法として有用であることが確認された。
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カタラーゼを添加したバッファー中でDNAを顕微注入すると胚の発育能力の低下を軽減できる (J. Reprod. Dev. 50: pp. 711-715, 2004)
橋本 周#)・倉持隆志・青柳一樹・高橋利一・上田正次
(株)YS研究所
#現所属:IVFなんばクリニック
トランスジェニック動物の作製効率を向上させるために、活性酸素を除去する薬剤を添加したバッファー中でマウス胚にDNAを注入し、その後の発育能力を調べた。0¥UTF{FF5E}1,000
units/ml catalaseを添加したバッファー中でDNAの顕微注入を行ったところ、100 units/ml catalaseを添加したバッファー中でDNAの顕微注入を行った胚の胚盤胞期胚への発育率(81%)は0または1,000
units/ml catalaseを添加したバッファー中でDNAの顕微注入を行った場合(それぞれ56%と65%)に比べ優位に高かった(P<0.05)。さらに100
units/ml catalaseを添加したバッファー中でDNAの顕微注入を行った胚の胎子への発育率(29%)はcatalaseを添加せずにDNAの顕微注入を行った場合
(19%)に比べ、優位に高かった(P<0.05)。また、それぞれの場合において得られたTg数は17匹と14匹であった。
本試験の結果より、体外で胚の顕微操作を行う場合に活性酸素を除去することにより顕微操作胚の発育能が高まることが示唆された。
[英文要旨&PDF]
組換えタンパク質および合成ペプチドを抗原とした抗ウシレプチン抗体の作製とその特性について (J. Reprod. Dev. 50: pp. 717-724, 2004)
高橋 透1)・今井 敬2)・橋爪一善3)
1)農業生物資源研究所
2)家畜改良センター
3)岩手大学農学部
特異性と力価の高い抗ウシレプチン抗体をウサギで作製することを目的として、組換えタンパク質およびペプチドを抗原とした抗体を作製した。組換えレプチンは293細胞で発現させて精製し、家兎に免疫した。抗ペプチド抗体を作製するために、ウシレプチンのアミノ酸配列21-40および91-110に相当するペプチドを合成し、スカシガイ由来ヘモシアニンと結合させて家兎に免疫した。作製された抗血清の特性を酵素免疫法による力価検定、イムノブロット法およびサンドイッチアッセイ法で検討した。本研究で作製した抗ペプチド抗体2種類および抗組換えタンパク質抗体1種類は、いずれもウシレプチンに反応したが、組換えタンパク質を免疫した抗体は、他のペプチド抗体2種よりも酵素免疫法による力価が高かった。また、3種類の抗体はマウスおよびヒトレプチンに対して交叉反応することをイムノブロット法で確認した。更に抗組換えレプチン抗体が抗ペプチド抗体の抗原のいずれによっても中和されなかったことから、作製した3種類の抗体の抗原認識はそれぞれ異なることが示唆され、この特性を応用してサンドイッチアッセイを組み立てた。サンドイッチアッセイの標準曲線は良好な用量依存性が認められた。これらの抗体はイムノブロット法ではヒトおよびマウスのレプチンに交叉したにもかかわらず、サンドイッチアッセイでは交叉性は認められなかった。
本研究から、ウシレプチン分子の異なる抗原領域を認識する3種類の抗体が作製され、レプチン研究の免疫学的プローブとして利用できることが示唆された。
[英文要旨&PDF]