Volume 50, Number 1(2004)


日本繁殖生物学会賞・学術賞

反芻動物の卵巣における黄体形成ホルモンレセプターの発現調節ならびに卵胞嚢腫の発生機構に関する研究(J. Reprod. Dev. 50: 1-8, 2004)

川手憲俊

大阪府立大学大学院農学生命科学研究科・獣医繁殖学研究室

 反芻家畜の卵巣における黄体形成ホルモン(LH)レセプターの発現の変化と調節について一連の研究を実施した。さらに、ストレスなどに起因する反芻家畜の卵胞嚢腫の発生機構について内分泌学的に検討した。それらの研究成果から以下のような結論が挙げられる。(1)ウシの胞状卵胞のLHレセプター量は卵胞発育の後半に急激に増加する。(2)ウシおよびヤギのLHレセプターとmRNAの量はその発育過程で増加する。ヤギの黄体発育過程におけるLHレセプター量の増加は、LHによって調節されており、それはmRNA量の増加を介して行われている。(3)ウシの黄体組織のLHレセプターには少なくとも3種類のスプライスバリアントがあり、その構造によって細胞内の異なる部位に発現している。(4)LHレセプターの細胞内領域の連続する2個のシステイン残基はパルミチン酸により修飾されており、それによってレセプターの細胞内移行を抑制している。(5)ストレスによるウシ卵胞嚢腫の発生機構として、副腎からのプロジェステロンとコルチゾールの増加は、それぞれ、視床下部と卵胞に抑制的に作用して、その結果、LHおよびFSHサージが抑制され、最終的に排卵が阻止されて卵胞が嚢腫化する可能性が示唆された。

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日本繁殖生物学会賞・学術賞

甲状腺・副腎・性腺の機能的関連性に関する内分泌学的研究(J. Reprod. Dev. 50: 9-20, 2004)

藤平篤志

獨協医科大学・実験動物センター

 本研究では、甲状腺・副腎・性腺の機能的関連性を明らかにすることを目的として、チオウラシル投与により実験的に甲状腺機能低下症を作出し、甲状腺機能低下時における視床下部・下垂体・副腎軸および視床下部・下垂体・性腺軸の機能について詳細な検討を行った。 1.甲状腺と副腎の機能的関連性:甲状腺機能が低下した成熟雄ラットでは、副腎重量が有意に低下し、コルチコステロン分泌反応も対照群に比べて低下したが、ACTH、CRHおよびAVP分泌の亢進が認められ、甲状腺機能が低下した成熟雄ラットでは、副腎皮質機能が原発的に低下し、視床下部ではCRHおよびAVPの分泌が亢進する可能性が示唆された。 2. 甲状腺と性腺の機能的関連性:甲状腺機能が低下した成熟雄ラットでは、下垂体のLH分泌反応および交尾行動の低下が認められたが、精巣機能には影響は認められなかった。以上の結果から、甲状腺機能が低下した際に認められた性腺機能の抑制は、視床下部レベルの障害に帰因するものと推察された。また、成熟雌ラットではチオウラシル投与により、エストラジオール分泌の低下、プロラクチン(PRL)およびプロジェステロン分泌の亢進が認められた。甲状腺機能の低下によりドパミン合成系に影響は認められなかったが、血管作動性腸管ペプチド(VIP)の下垂体中含有量が有意に上昇した。これらの結果は、甲状腺機能が低下した成熟雌ラットでは、下垂体中のVIP含有量が上昇し、このVIPがラクトトロフに作用してPRL分泌を上昇させるものと推察された。甲状腺機能の低下した雌ラットで認められる生殖機能障害の一部は高PRL血症によるものであり、下垂体中VIP含有量の上昇がPRL分泌を上昇させることが示唆された。

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日本繁殖生物学会賞・学術賞

ブタ胚の体外生産、とくに胚盤胞の発生能に関する研究(J. Reprod. Dev. 50: 21-28, 2004)

菊地和弘

独立行政法人農業生物資源研究所・遺伝資源研究グループ

 ブタにおける体外胚生産(IVP)技術の確立は、体内由来胚と同等の品質を有する発生可能な胚の供給を可能とする。この技術は、繁殖生理学ならびに農業の発展のみならず、クローン豚あるいは遺伝子改変豚の作出といったバイオテクノロジーに貢献する。ブタでは、約10年前に初めて、体外成熟・受精卵子を培養し2ないし4細胞期で移植して子豚が生まれたとの報告がなされた。しかし、体外生産された胚盤胞を移植して子豚が生まれたと報告されたのは、ごく最近である。体外成熟・受精後の、胚盤胞期までの体外発生培養を改良することが、すぐれたIVP技術の確立に重要である。本総説では、私どもが確立したIVP技術によって作出された胚盤胞の発生能について考察するとともに、この技術の新たなバイオテクノロジーへの適用の可能性について述べる。

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日本繁殖生物学会賞・技術賞

ウシ生体回収胚及び体外受精由来胚の凍結保存及び性別判定に関する研究(J. Reprod. Dev. 50: 29-38, 2004)

富永敬一郎

兵庫県立農林水産技術総合センター・生物工学

 胚に対するグリセリンの浸透圧ショックを緩和するために希釈時に用いられるスクロースの細胞毒性を緩和することを目的として、ストロー内でスクロースによるグリセリン希釈を行った後、さらに、胚に影響しない濃度まで培養液で希釈するストロー内2段階希釈直接移植法を開発した。野外での体内回収胚移植で、この方法はエチレングリコールを用いたダイレクト法と同等の受胎率であった。16細胞期胚の緩慢凍結法において、最適耐凍剤を選定するとともに、リノール酸アルブミン(LAA)の培養液への添加や、遠心処理で細胞内脂肪を局在化させることによる胚細胞外への除去を試みた。その結果、エチレングリコール区がプロパンディオール区やDMSO区より胚盤胞への発生率が高く、LAA添加は無添加に比べて凍結融解後の胚盤胞への発生率を向上させた。また、2細胞期で遠心処理した16細胞期胚では脂肪大部分除去区の凍結融解後の胚盤胞への発生率は無遠心凍結区より高く、無遠心新鮮区の胚盤胞の細胞数と差はみられなかった。次に、体外受精後2細胞期から胚盤胞期までの胚について、ゲル・ローディング・チップ(GL-Tip)を用いた超急速ガラス化法を検討した結果、すべての発育日齢で50%を越える高い胚盤胞への発生率が得られ、発生率および胚盤胞の細胞数、細胞構成において、それぞれの日齢の新鮮胚対照区と差はみられなかった。また、体外受精7日目胚盤胞のGL-Tipガラス化法は緩慢凍結法より生存率が高かった。体内回収胚の発生速度の速い胚盤胞や形態の良好な高品質胚に雄が多いが、この関係は交配種雄牛毎に異なることを明らかにした。また、個体毎に区別した体外受精由来胚では、胚の発生速度あるいは胚盤胞生産率と性別とに関係がみられないことや、切断2分離胚後、雄胚が高品質胚へ早く形態回復することを明らかにした。性判別した体内回収胚にGL-Tipガラス化法を応用した結果、対照の新鮮胚移植と変わらない受胎率が得られた。体外受精由来3、4日目胚から1〜2割球をサンプリングし、サンプルをPEP-PCR、DNA産物を精製し、性判定PCRに供した。同時に、サンプリング胚を7日目まで培養し、発生した胚盤胞をGL-Tipガラス化した。その結果、性別が高率に判定でき、ガラス化した胚盤胞は新鮮胚と変わらない高い生存率が得られ、しかも、ガラス化胚が子牛への発生能を持つことを明らかにした。

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日本繁殖生物学会賞・奨励賞

卵巣機能調節機構における腫瘍壊死因子の生理的役割(J. Reprod. Dev. 50: 39-46, 2004)

作本亮介1)・奥田 潔2)

1)独立行政法人農業生物資源研究所・生体機能研究グループ
2)岡山大学大学院・自然科学研究科

 腫瘍壊死因子(TNFα)はマクロファージ等の炎症系細胞から分泌されるサイトカインの1つとして知られ、生体防御機構といった種々の生理機能調節に関与すると考えられている。近年、TNFαが多くの種において卵巣の機能調節に関与する可能性について報告されている。卵胞ならびに黄体にTNFαとその受容体の存在すること、さらにTNFαが卵胞を構成する細胞(顆粒層細胞あるいは卵胞膜内膜細胞)のみならず、黄体を構成する細胞(小型黄体細胞、大型黄体細胞さらには血管内皮細胞)の内分泌機能にも影響を与えることが報告されている。本論文では、発情周期ならびに妊娠期を通じての卵巣機能調節機構におけるTNFαの生理的役割についてウシを中心に考察する。

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日本繁殖生物学会賞・優秀発表賞

MAPキナーゼおよびプロテインチロシンホスファターゼの顆粒膜細胞における役割(J. Reprod. Dev. 50: 47-55, 2004)

田村真理子1)・中川 嘉1)・清水英寿1)・山田律彰1)・宮野 隆2)・宮崎 均1)

1)筑波大学遺伝子実験センター
2)神戸大学農学部応用動物

 性周期において多くの卵胞は、発育・成熟途中で顆粒膜細胞のアポトーシスを起こし閉鎖に陥り退縮する。従って、顆粒膜細胞の生存・死の制御は、卵胞の発育・閉鎖の仕組みを知る上で非常に重要といえる。現在までに、卵胞刺激ホルモン、増殖因子、サイトカインをはじめ様々な因子が、卵胞の発育・閉鎖、あるいは顆粒膜細胞の生存・死に関わることが知られている。しかし、これら因子の顆粒膜細胞における細胞内シグナル経路の研究は極めて遅れているのが現状である。本総説では、顆粒膜細胞の生存・死の制御におけるMitogen-activated protein(MAP)キナーゼおよびプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)の役割について、著者等の最近の知見をもとに解説する。MAPキナーゼは、一般に生存、増殖、死などの細胞の基本応答に密接に関わる。またPTPは、この細胞の生存に深く関与するプロテインチロシンキナーゼの逆反応を司る酵素として、卵胞発育にとって重要な細胞内制御分子と考えられる。従って、顆粒膜細胞におけるMAPキナーゼやPTPの研究は、卵胞の運命決定の分子メカニズムを理解する上で、重要な知見を提供する。

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日本繁殖生物学会賞・優秀発表賞

ウシ卵管におけるTNFαシステム:胚輸送メカニズムの可能性(J. Reprod. Dev. 50: 57-62, 2004)

Missaka P.B. Wijayagunawardane1)・Christoph Gabler2)・Gary Killian2)・Akio Miyamoto1)

1)帯広畜産大学・畜産科学科畜産生命科学講座
2)JO Almquist Research Center, The Pennsylvania State University

 TNFαは細胞間伝達の重要な生理学的仲介因子である。最近の研究では、TNFαが生殖機能のコントロールに深く関わっていることが示唆されている。そこで本実験では、ウシ卵管において重要な収縮作用関連物質であるPGE2とPGF2αの産生・分泌の調節にTNFαが関わる可能性に焦点を当てた。PG分泌におけるTNFαの役割を調べるためにin vitro microdialysis system(MDS)を用いた。このシステムでは、細胞間接着と細胞間伝達を維持することができ、異なる物質の局所放出像をリアルタイムで観察することができる。ウシ胚とウシ卵管上皮細胞(OEC)の共培養系を用いて、OECのPG産生に及ぼすTNFαと胚の効果を調べた。さらに、TNF α mRNAとTNF-R mRNA発現を調べた。長さ10 cmの卵管断片腔にMDSを埋め込み、組織培養器で培養した。16時間の培養中の4-8時間にTNFαを潅流した。OECは卵胞期の非妊娠ホルスタイン種から採取し、単層での基礎培養条件下でM199を用いて培養した。初代継代細胞にTNFαを0.1, 1または10 ng/ml添加し、24時間培養した。卵管でのPG産生における胚の効果を決定するために、体外成熟・受精させた40個の胚を、OEC単層とともに4時間または24時間培養した。PGレベルはEIA法により測定した。TNFα潅流により、卵胞期と排卵直後の期間で卵管におけるPG分泌が刺激されたが、黄体期では刺激されなかった。TNFα添加により、OECのPGE2とPGF2α両方の産生・分泌が大きく増加した。胚の存在により、培養後4時間と24時間両方でOECのPGE2分泌が2倍に増加した。さらに、TNFα、TNF-RIそしてTNF-RIIそれぞれのmRNA発現は、黄体期よりも卵胞期と排卵直後の期間で高かった。本実験では、TNFαにより排卵前後の期間の卵管上皮細胞のPG分泌が大きく刺激されたこと、そしてこの時期の卵管においてTNFαとそのレセプター発現が高いことを初めて直接的に示した。卵管でのTNFαの起源はわからないが、おそらく卵管に存在する免疫細胞由来であるだろう。これら免疫細胞の周期的変化はすでに報告されており、これが観察されたTNFα mRNA発現におけるステージごとの差を説明するだろう。さらに本実験では、発育中の胚がOECにおけるPGE2産生を刺激する可能性を直接的に示した。卵管内にいるべき初期ステージの胚が微量のTNFαを産生し、それが卵管におけるPG産生増加を局所的に引き起こし、胚の周りの微環境における卵管収縮を活性させるかも知れない。卵管内で精巧に調節された局所TNFαシステムがPG放出を効果的に刺激し、それにより最適なタイミングで子宮内への胚の輸送に役立っているのだろう。

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非繁殖季節のめん羊における異なる3種の発情・排卵誘起法の比較(J. Reprod. Dev. 50: 63-69, 2004)

飯田憲司1)・小林 直1)・河野博英2)・宮本明夫1)・福井 豊1)

1)帯広畜産大学・畜産科学科・家畜増殖学研究室
2)独立行政法人 家畜改良センター・十勝牧場

 本研究は非繁殖季節のめん羊において異なる3種の発情誘起法を比較検討することを目的とした。計42頭の雌羊を任意にA)CIDR(controlled internal drug releasing dispenser)、B)自家製プロジェステロン含有スポンジ、C)MAP(medroxyprogesterone acetate)クリームスポンジの3群に分け各々の膣内挿入具を12日間挿入した。さらに、雄の効果を調査するため全グループを雄導入(R)および非導入の2群に分けた。全ての雌羊から採血し血漿中プロジェステロン(P4)、エストラジオール17-β(E2)および黄体形成ホルモン(LH)濃度をEIA法によって測定した。雄導入後の発情発見の結果はR群の全頭が挿入具除去後0から3日目に発情を示し、その平均発情開始時間はAR、BRおよびCR群において各々23.0、33.0および21.0時間であった。膣内挿入具除去後5日目の腹腔内視鏡を用いた卵巣観察の結果、排卵率(および排卵頭数)はA、BおよびC群において各々1.45(11/11頭)、1.25(12/14頭)および1.21(14/14頭)であった。C群では挿入具除去後からLHサージまでの時間が32.4時間とA群(27.0時間)およびB群(25.5時間)に比べ有意(P<0.05)に遅くなった。また、R群において雄非導入群に比べ0時間から36時間の血漿中E2濃度が有意に(P<0.05)低かった。以上の結果から自家製プロジェステロン含有スポンジおよびMAP膣内クリームスポンジはCIDRと同様に季節外繁殖に使用できること、および雄の導入は必ずしも必要でないことが示唆された。

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発生培地へのグルコース添加時期の最適化による豚胚盤胞期胚生産率の向上(J. Reprod. Dev. 50: 71-76, 2004)

Sergey MEDVEDEV1)・大西 彰1)・淵本大一郎1)・岩元正樹1,2)・永井 卓1)

1)農業生物資源研究所
2)プライムテック株式会社

 豚体外成熟卵子を用いて、電気刺激(EA)および体外受精(IVF)処理後の胚盤胞期胚への発生率に及ぼす発生培地へのグルコース添加時期の影響について調べた。EAおよびIVF処理によって得られた胚を、ピルビン酸ナトリウムおよび乳酸ナトリウムを含むNCSU-37培養液(IVC-PyrLac)で、処理後46時間あるいは58時間培養後に、グルコースを含むNCSU-37培養液(IVC-Glu)に移し、Day 6(処理日をDay 0とする)まで培養した。その結果、EAおよびIVF両処理区とも58時間後にIVC-PurLac からIVC-Gluに移した方が、46時間の場合と比較して有意に高い胚盤胞期胚への発生率が得られた(EA:それぞれ、78.7%および41.2%、IVF:それぞれ、60.3%および23.5%)。Day 6の胚盤胞期胚の品質(細胞数)には、46時間と58時間の間に有意差は認められなかった。以上のことから、体外成熟後にEAおよびIVF処理によって得られた豚体外生産胚は、処理後58時間でグルコースを効果的に利用できるようになり、その結果、胚盤胞期胚への発生率が高くなることが推察された。

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カルシウム・イオノフォア(CaA)で処理された豚卵子の活性化と体外受精(J. Reprod. Dev. 50: 77-85, 2004)

浅野敦之1)・丹羽晧二1,2)

1)岡山大学大学院自然科学研究科
2)岡山大学農学部・総合農業科学科・家畜繁殖学研究室

 種々の濃度のCaA処理が体外成熟豚卵子の活性化、単為発生および体外受精におよぼす影響について調べた。無処理卵子の活性化と単為発生は困難であったが、6.25μM CaAで2分間処理した卵子は高率に活性化後に分割し、20%の卵子が胚盤胞にまで発生した。しかし、これらの割合いはCaA濃度の増加に伴って低下した。1×106個/mlの精子濃度で体外受精した結果、6.25μM CaA処理卵子では無処理卵子と同等の侵入率が得られたが、12.5および50μM CaA処理卵子では侵入率が有意に低下した。また、単精子侵入率は、12.5および50μM CaA処理卵子では無処理卵子と比較して差はなかったが、6.25μM CaA処理卵子では無処理卵子よりも有意に高かった。無処理卵子と6.25μM CaA処理卵子を種々の精子濃度(0.5-10×106個/ml)で体外受精した結果、無処理卵子では1×106精子/mlで最も高い侵入率が得られ、処理卵子においてもほぼ同じ傾向が認められた。単精子侵入率は、0.5、5および10×106精子/mlでは無処理卵子と処理卵子との間で差はなかったが、1×106精子/mlでは無処理卵子よりも処理卵子において有意に高かった。以上の結果から、豚卵子を適当な濃度のCaA(6.25μM)で前処理後、1×106個/mlの精子濃度で体外受精することにより多精受精の頻度を抑制しうることが示唆された。

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マウス乳腺上皮細胞(EpH4/K6)の増殖能に及ぼす乳清酸性タンパク質の抑制作用(J. Reprod. Dev. 50: 87-96, 2004)

池田佳代子・生見尚子・岩森督子・大澤恵美・内藤邦彦・東條英昭

東京大学・大学院農学生命科学研究科・応用遺伝学研究室

 乳清酸性タンパク質(WAP)遺伝子を安定的に発現するマウス乳腺上皮細胞、EpH4/K6(WAP-EpH4)株を用いて、WAPの細胞増殖能に及ぼす影響を調べた。対照には、ベクターのみを導入したEpH4細胞株ならびにWAP安定発現NIH3T3細胞株を用いた。WAP-EpH4細胞株では、対照細胞株に比べ、以下の事実が認められた。細胞増殖能が有意に低下し、アポトーシスは促進されていなかったが、BrdUの取り込み量が低下していた。サイクリンD群(D1、D2、D3)の発現を調べた結果、サイクリンD1の発現が有意に減少していた。また、WAP-EpH4細胞株の培養液でEpH4細胞を培養すると細胞増殖が低下した。さらに、WAP-EpH4細胞株を細胞外基質(ECM)上で培養した実験から、ECMの存在によりWAPの細胞増殖抑制作用が有意に促進された。以上の結果から、WAPは、パラクライン的にサイクリンD1発現の抑制を介し、ECMの存在下で乳腺上皮細胞の増殖を制御していることが認められた。

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マウス卵母細胞の成熟、受精および初期胚発生におけるγチューブリンの局在(J. Reprod. Dev. 50: 97-105, 2004)

Xiao-Qian Meng1,2)・Heng-Yu Fan1)・Zhi-Sheng Zhong1)・Gang Zhang1,2)・Yun-Long Li2)・Da-Yuan Chen1)・Qing-Yuan Sun1)

1)State Key Laboratory of Reproductive Biology, Institute of Zoology, The Chinese Academy of Sciences, China
2)Key Laboratory of Animal Resistance, School of Life Science, Shangdong Normal Univerisity, China

 チューブリンファミリーの一つであるγチューブリンは、中心小体周辺を構成しており、微小管の集合に必須であると考えられている。マウス卵母細胞の成熟、受精および受精卵の初期分割におけるγチューブリンの動き、ならびに第一減数分裂の紡錘糸形成におけるγチューブリンおよびαチューブリンの相互局在について共焦点顕微鏡を用いて調べた。γ チューブリンは卵核胞(GV)期の卵母細胞中に均一に分散していることが判明した。卵核胞崩壊(GVBD)後、γ チューブリンは細胞質内および凝縮した染色体の領域の両方に局在し、ついで前第一減数分裂中期および第一減数分裂中期の減数分裂紡錘糸の両極に並ぶようになる。第一減数分裂後期および終期では、γチューブリンは分離した染色体の間に観察されるが、中心体には観察されなかった。γチューブリンは、第二減数分裂中期に再び紡錘糸の両極に蓄積するようになる。αチューブリンもγチューブリンと同様の細胞質内における分布パターンを示し、減数分裂紡錘糸の形成時に染色体に近いγチューブリンの焦点から放射状に伸びる。受精後、γチューブリンは紡錘糸の両極から、前核中に分散する分離した染色分体の中心へと移動する。中間期の間に、γチューブリンは幾つかの点に凝集するが、初期胚では有糸分裂紡錘糸の極上に分布する。以上の結果より、γチューブリンは、マウス卵母細胞の減数分裂、受精および胚の初期分割における微小管の集合および紡錘糸形成に必須であることが示唆された。

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化学限定培地で個別培養されたウシ卵母細胞の体外成熟における酸素濃度と培養液への添加剤(J. Reprod. Dev. 50: 107-117, 2004)

小山田隆博・福井 豊

帯広畜産大学・畜産科学科・家畜増殖学研究室

 ウシ卵母細胞の体外受精における個別培養法を改善するため、卵子内の酸化還元環境に注目し、低酸素濃度(5%)下での体外成熟におけるシステアミン、上皮成長因子(EGF)およびグルコースの影響を調べた。個別培養法の基礎培地にはmSOFaa+PVAを用いた。実験1:10 ng/ml EGFおよび100μMシステアミンをそれぞれ、または両方を成熟培地に加え、20%および5%酸素下で体外成熟を行った。5%酸素区ではEGFおよびシステアミンは胚発生率を改善しなかった。20%酸素区では、システアミン区 (胚盤胞率;10.6%)、EGF+システアミン区(胚盤胞率;13.8%)が無添加区(胚盤胞率;6.0%)より有意に(P<0.05)高い胚発生率を示した。実験2:通常のmSOFaaより高いグルコース濃度の低酸素−体外成熟における影響を調べた。5%酸素区の成熟培地中のグルコース濃度を0, 1.5, 5.5, 10, 20 mMとし、20%酸素区(グルコース濃度:1.5 mM)と共に体外成熟を行った。5.5 mM(66.7%)および10 mM(65.5%)区が他の5%酸素区(40.0-44.9%)より有意 (P<0.05)に高い核成熟率を示したが、20%酸素区(68.6%)とは差異はなかった。実験3:5%酸素−体外成熟(グルコース濃度; 0, 5.5 mM)におけるシステアミンおよびEGFの影響を調べた。核成熟率はEGFおよびシステアミンの添加に関係なく、グルコース濃度を5.5 mMとした区(66.7-71.3%)がグルコース無添加区(43.3%)より有意に(P<0.05)高かった。5%酸素区での10 ng/ml EGFおよび100μMシステアミン添加は体外受精後の精子侵入率、胚発生率および成熟後の細胞内グルタチオン(GSH)濃度を有意に(P<0.05)向上させた。実験4:個別培養および集団培養由来の胚盤胞のガラス化・加温後の生存性を調べた。集団培養法の体外成熟、体外受精及び体外発生の各培地には血清または血清アルブミンを添加した。個別培養では、20%酸素区(56.3%)およびシステアミンを添加した5%酸素区(62.5%)において加温後72時間目の透明帯脱出率が集団培養(44.4%)よりも有意に(P<0.05)高かった。また、個別培養において、システアミンを添加した5%酸素区の透明帯脱出率が20%酸素区より有意に(P<0.05)高かった。これらの結果より、5%酸素濃度下における体外成熟培地への5.5または10 mM グルコース添加は核成熟を促進し、EGFおよびシステアミン添加は体外成熟後の細胞内GSH濃度の上昇、その後の受精率、胚発生率および胚盤胞の耐凍性を改善することが示された。また、個別培養由来の胚盤胞は集団培養由来の胚盤胞よりも高い耐凍性を有することも明らかになった。

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ウシ子宮頸におけるガストリン放出ペプチド(GRP)の発現と局在(J. Reprod. Dev. 50: 119-129, 2004)

ブディピトジョ T.1,2)・佐々木基樹1,2)・松崎重範3)・クルザナ M.B.C.1,2)・岩永敏彦4)・北村延夫1,2)・山田純三1,2)

1)帯広畜産大学畜産学部・獣医学科・基礎獣医学講座
2)岐阜大学大学院連合獣医学研究科・基礎獣医学講座
3)ジェネティクス北海道
4)北海道大学大学院医学研究科・組織細胞学分野

 近年、ガストリン放出ペプチド(GRP)はメス生殖管における新しい調節ペプチドであることが示唆されている。しかし、子宮頸の非神経組織におけるGRPの局在およびGRP mRNAの発現は、まだ明確にされていない。本研究の目的は、非妊娠牛(21例)、妊娠牛(20例) および雌胎子(6例)のウシ子宮頸において、免疫組織化学およびin situ hybridization法を用い、GRP免疫反応性の局在およびGRP mRNAの発現を明らかにすることである。胎子、非妊娠および妊娠牛の子宮頸においてGRPおよびGRP mRNAは子宮頸腺上皮細胞に認められた。子宮頸腺上皮細胞におけるGRPの陽性反応はCRL 37 cm胎子で最初に認められた。発情周期では、子宮頸腺上皮細胞のGRP陽性反応は黄体期より卵胞期で強かった。GRP陽性反応は、妊娠初期では卵胞期と同じように認められたが、その後は認められなかった。In situ hybridizationで、非妊娠および妊娠牛の子宮頸腺上皮細胞にGRP mRNAの発現を確認し、GRPが子宮頸腺上皮細胞で合成されているであろうことを示した。本成績は、GRPが胎子子宮頸の発生および成体での子宮頸腺上皮細胞の分泌に関与している可能性を示唆している。

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未成熟雄マウス由来first-wave円形精子細胞を用いた顕微授精(J. Reprod. Dev. 49: 131-137, 2004)

三木洋美1,2)・李 知英3,4)・井上貴美子1,4)・越後貫成美1)・野口洋子5)・持田慶司1)・幸田 尚4,6)・長嶋比呂志2)・石野史敏3,4)・小倉淳郎1,4)

1)理化学研究所(RIKEN)バイオリソースセンター
2)明治大学大学院農学研究科
3)東京医科歯科大学難治疾患研究所・エピジェネティクス分野
4)CREST, JST
5)国立感染症研究所
6)東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センター・遺伝子実験分野

 円形精子細胞は、マウスを含めたいくつかの哺乳動物において、顕微授精技術を用いることで正常産仔の作出に用いられてきた。本研究で我々は、精子形成first-waveの過程にある未成熟な精巣から得たマウス円形精子細胞が、成熟個体からの細胞と同等の能力を獲得しているかどうかを検証した。円形精子細胞の顕微授精は、あらかじめ活性化された卵子内への直接注入によって行った。雄の日齢(17-25日齢)に関係なく、72時間胚培養後には、注入に成功した卵子のうち約60-85%が桑実胚/胚盤胞へと発生した。胚移植後、最初に円形精子細胞が現れる17日齢を含め、全ての日齢区から正常胎仔が得られた。胚移植後の産子までの発生率と雄の日齢との間には高い相関(r=0.90)が見られ(P<0.01、Spearman rank correlation)、産子を得る効率は雄の日齢に依存していることが示された。20日齢の精子細胞から得た胎齢9.5日の胎児(n=12)では全て、インプリンティング遺伝子(H19, Igf2, Meg3, Igf2r)は、正常な両親性アレル(それぞれ母型、父型、母型、母型)から発現していた。これらの結果より、少なくともいくつかのfirst-waveの精細胞は、成体由来の成熟精子と同様に、正確な両親性のインプリンティングを持つ正常な半数体のゲノムを有し、妊娠末期まで胚発生を支持する能力があることが明らかになった。未成熟動物由来の雄性生殖細胞の利用によって、近交系/コンジェニック系統の作出時間の短縮や、早期発症の雄性不妊の救済手段となりうることが期待される。

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最適なラット卵子の活性化方法の確立(J. Reprod. Dev. 50: 139-146, 2004)

水谷英二1)・江 金益1,2)・水野里志1)・富岡郁夫1)・篠澤忠紘1)・小林 仁3)・佐々田比呂志1)・佐藤英明1)

1)東北大学大学院農学研究科動物生殖科学分野
2)Hormones, Growth and Development (M08, Tsang's Lab) Ottawa Health Research Institute
3)宮城県農業短期大学

 卵子の活性化は核移植技術において重要な過程であり、動物種によって最適な方法は異なる。本研究は、ラット卵子の最適な活性化条件の決定を目的とした。
 未成熟Wistar Imamichi(WI)系およびSprague Dawley(SD)系ラット卵子を電気刺激と6-dimethylaminopurine(DMAP)で活性化した結果、WI系ラットで有意に高い発生率を得た。このためWI系ラット卵子を用いて、排卵時間、体外培養時間、異なる活性化方法および活性化培地の浸透圧がラット卵子の活性化と発生に及ぼす影響を調べた。hCG投与後16-24時間で採卵した卵子を電気刺激とDMAPで活性化した結果、18、20時間で採卵した卵子は有意に高い胚盤胞への発生率を示した。卵子を採卵後0-6時間培養した後、電気刺激とDMAPで活性化し発生率を比較した結果、2-6時間培養した卵子で発生率が有意に低下した。電気刺激とDMAPおよびイオノマイシンとDMAPの異なる活性化方法間で発生率に違いは見られなかった。イオノマイシンとDMAPで培地の浸透圧を246および310 mOsMに調整し、活性化後の発生率を比較した結果、浸透圧をどちらも246 mOsMにした区で有意に高い発生率が得られた。以上より、ラット卵子の活性化には浸透圧を246 mOsMにしたイオノマイシンとDMAPの複合処理が有効であることが示された。

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凍結融解ヒツジおよびミンククジラ精子における精子性状検査器と低張膨化試験の有効性(J. Reprod. Dev. 50: 147-154, 2004)

福井 豊1)・外川守彦1)・阿部憲人1)・高野夕輝1)・浅田正嗣1)・岡田亜紀1)・飯田憲司1)・石川 創2)・大隅清治2)

1)帯広畜産大学・畜産科学科・家畜増殖学研究室
2)日本鯨類研究所

 本研究は、凍結融解ヒツジおよびミンククジラ精子における精子性状検査器(SQA)と低張膨化試験(HOST)の有効性を従来の検査法と比較検討した。供試した精子は5頭の成熟雄羊の射精精液および1999年12月の南極海鯨類調査捕鯨で捕獲された2頭の成熟雄ミンククジラの精管から採取、凍結保存されたものである。ヒツジにおいて、運動精子率(r=0.78)および精子濃度(r=0.86)は従来法とSQA法の間に有意な(P<0.01)相関が見られたが、形態的正常精子率には有意な相関はなかった。HOSTによる精子膨化率は従来法(r=0.57)およびSQA法(r=0.53)による運動精子率と有意な(P<0.05)相関が見られた。ミンククジラにおいて、従来法による精子生存指数(SVI)はSQA法による精子運動値(SMI)と有意に(r=0.81: P<0.001)高い相関があった。また、運動精子率において従来法とSQA法にも有意な(r=0.80: P<0.01)相関が見られたが、精子濃度および形態的正常精子率には有意な相関はなかった。ミンククジラ精子を用いたHOSTにおける6種の浸透圧液(10-300 mOsM)および4種の処理時間(15-60分)の結果、25、100および150 mOsMによるHOSTで処理時間に有意な変動は見られなかった。精子膨化率は100および150 mOsMで高い傾向にあり、従来法による運動精子率と有意な(r=0.94: P<0.05)相関が見られた。以上の結果から、1)SQA法とHOSTは凍結融解後のヒツジおよびミンククジラ精子の運動率検査法として使用できること、2)ヒツジにおいて、HOSTによる精子膨化率とSQA法の運動精子率に有意な相関があること、が明らかになった。しかし、SQA法によるミンククジラの精子濃度と形態的正常精子率の正確な判定は困難であった。

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