平林真澄1)・加藤めぐみ1,2)・武内 歩3)・石川綾子1)・保地眞一3)
1)岡崎国立共同研究機構・生理学研究所
2)CREST
3)信州大学・繊維学部
ホノルル法によって体細胞クローンマウスを作出するとき、注入核が早期染色体凝集を起こすことが必要不可欠と言われている。本実験では、ラット卵母細胞に顕微注入した卵丘細胞核の早期染色体凝集の出現頻度に影響を及ぼす要因について検討した。まずWistar系ラット(4〜5週齢または10週齢以上)に過剰排卵処理を施し、hCG投与から14あるいは17時間目に採取した卵母細胞に卵丘細胞核を顕微注入した。その結果、4〜5週齢のラットに由来するhCG14時間目に採取した卵母細胞への核移植をラットの屠殺から45分以内に完了させた場合、注入核が早期染色体凝集を起こす頻度が有意に高くなった。次にサイクリン分解を抑制するN-アセチルロイシルロイシルノルロイシナルを採卵から顕微注入までの各培地に加えておいたところ、早期染色体凝集の出現頻度がわずかながら増加した。またラットの系統によって早期染色体凝集の出現頻度に差が認められ、WistarとLEWに由来する卵母細胞がDonryuやF344に比べてよく注入核の早期染色体凝集を支持した。このように、注入核の早期染色体凝集を支持するラット卵母細胞の能力は、卵子ドナーの週齢や系統、あるいは卵母細胞採取の時期といった要因に影響された。
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1)独立行政法人農業生物資源研究所・ゲノム研究グループ
2)東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科・動物発生工学研究室
3)独立行政法人畜産草地研究所・家畜育種繁殖部
4)岡山大学大学院自然科学研究科・生体制御学研究室
トロフィニンは、ヒトおよびマウスで子宮内膜上皮に発現する細胞接着因子として知られている。本研究は、ブタトロフィニンについて、免疫組織化学的に子宮内膜での局在を調べた。また、ヒトトロフィニンの遺伝子配列を基にプライマーを設計し、ブタトロフィニン遺伝子の部分配列をクローン化してその配列を解析した。さらにPCRを用いた半定量法を用い、正常発情周期中のブタ子宮内膜におけるトロフィニン遺伝子発現量の推移を調べた。免疫組織化学的検索における抗ヒトトロフィニン抗体に対する陽性反応は、発情周期を通して子宮内膜の内腔上皮および腺上皮に認められたが、子宮の間質や筋層にはいずれの時期にも陽性反応は認められなかった。ブタトロフィニン遺伝子の部分配列を解析した結果、ヒトおよびマウスとそれぞれ75%、70%の相同性があり、トロフィニンに特異的な繰り返し配列がみられた。このことから、得られたクローンはブタトロフィニン遺伝子の一部であると推察された。また子宮内膜におけるブタトロフィニン遺伝子は、発情周期を通して持続的に発現していたが、黄体期において、その発現量は有意に高い値を示した。これらの結果は、ブタ子宮内膜のトロフィニンは、マウスにおけるエストロゲンによる発現誘導とは異なり、ヒトにおける発現誘導に似た調節機構によってその発現が調節されていることが推察された。またブタのトロフィニンは、マウスとは異なり、寧ろヒトに近く、ヒトのモデルとなる可能性を示すものである。
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1)九州大学大学院・生物資源環境科学府
2)九州大学大学院・農学研究院
一酸化窒素(NO)を生成する酵素(NOS)には3つのアイソフォームがあり、生成されたNOは細胞調節につながるメディエ−タ−として機能することが知られている。哺乳類の卵胞では、免疫組織化学やRT-PCRなどによりNOS-2およびNOS-3の存在が明らかにされており、特に卵子に存在するNOS-3の発現調節や機能について注目されている。本研究では、ブタ卵子NOS-3の発現調節を解明する一端として、卵胞発育に伴う卵子を中心とした卵胞内のNOS-3の分布と変動を調べるとともに、卵子NOS-3によるNO生成能について検討した。小卵胞(直径<2 mm)から大卵胞(>7 mm)へと発育するに伴って、ウエスタンブロッティング上では卵子のNOS-3(130-kDa)のシグナルが増加した。免疫組織化学でも卵子の陽性反応は明らかな増加を示したことから、卵胞発育に伴って、卵子のNOS-3含量は増加するものと考えられる。その他、NOS-3の分布をみると、小卵胞の卵丘細胞および卵腔内側の顆粒層細胞に陽性反応が認められた。また、特に興味深いのは、原始卵胞の卵子にも陽性反応が認められたことで、性腺刺激ホルモンの影響を受けない卵胞の段階から卵子にはNOS-3が存在することが初めて明らかにされた。これまで卵子NOS-3のNO生成能については明らかではなかったが、中卵胞(3-6 mm)の卵子がイオノマイシン添加によりNOを生成したことから、卵子NOS-3がカルシウムの増加によって活性を示すことが確認された。
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1)Research Institute of Animal Production, Slovakia
2)Universitats-Frauenklinik, Germany
3)Institute of Animal Production and Food Research, Poland
4)INRA/ENSAR, France
私たちは本研究で、(1)培養ブタ卵胞においてインスリン様成長因子-I(IGF-I)が、卵胞サイズ、オキシトシン、プロゲステロン、エストラジオール、IFG結合タンパク-3(IGFBP-3)、インヒビンA、インヒビンBおよびcAMPの分泌、および分裂細胞核抗原(PCNA)、ERK関連性細胞分裂活性化タンパクキナーゼ(MAPK/ERK1,2)およびタンパクキナーゼA(PKA)の発現に及ぼす影響を調べた。ついで(2)オキシトシンがIGF-Iやこれらに及ぼす影響を調べた。最後に(3)オキシトシンがIGF-Iの影響を左右するかどうか調べた。その結果、オキシトシンはブタ卵胞に及ぼすIGF-Iの影響を左右することが分かった。すなわち、IGF-Iはブタ卵胞サイズと卵胞細胞の分裂を亢進し、プロゲステロン、エストラジオール、IGFBP-3、インヒビンAとインヒビンBの分泌およびPCNAとMAPK/ERK1,2を介した細胞内機構に影響するが、オキシトシンはこれを左右する。
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1)名古屋大学大学院・生命農学研究科
2-deoxy-D-glucose(2DG)を用いたグルコース利用性低下による黄体形成ホルモン(LH)のパルス状分泌抑制はエストロジェンにより促進される。本研究では、グルコース利用阻害により活性化される神経系の検索と同活性化に対するエストロジェンの効果を確かめるため、2DG(400 mg/kg, iv)を投与した卵巣除去又は卵巣除去エストラジオール(E2)処置ラットの視床下部と延髄においてFos免疫陽性細胞数を定量した。E2処置群では、2DG投与により室傍核および孤束核のFos免疫陽性細胞数がxylose投与群に比べ有意に増加したが、卵巣除去群の2DG投与群とxylose投与群との間に有意差はなかった。E2処置群において、室傍核と孤束核のFos免疫陽性細胞の殆どがMAP2免疫陽性を示し、孤束核のFos免疫陽性細胞の8.3%がtyrosine hydroxylase免疫陽性であった。不確縫線核と淡蒼縫線核では、E2処置の有無に関わらず、2DG投与群およびxylose投与群のFos免疫陽性細胞数の間に有意な差はなかった。本実験の結果、グルコース利用性低下は室傍核と孤束核のニューロンをエストロジェン依存的に活性化すること、孤束核において活性化されたニューロンの一部はカテコールアミン作動性神経であることが示唆され、これらの神経がグルコース利用性低下に伴う性腺軸の活動低下に関与すると考えられた。
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1)(独法)農業技術研究機構・東北農業研究センター・畜産草地部
2)東京農業大学
3)Northeast Institute of Geography and Agricultural Ecology, Chinese Academy
of Sciences, China
4)Swedish University of Agricultural Sciences (SLU), Sweden
5)(独法)農業生物資源研究所・発生分化研究グループ
豚未成熟卵子を36、42および48時間体外で成熟培養した。ついで、第一極体の放出が確認された成熟卵子に電気刺激(1500 V/cm, 100 μsec)を与え、ブチロラクトンI(BL I, 150 μM)およびサイトカラシンB(CB)を添加した培養液中(複合刺激区:対照区はBL I無添加)で培養して固定・染色後に核相を調べた。また、成熟培養後の卵子の核相も調べた。その結果、培養時間による卵子の第二減数分裂中期への成熟率には差がなかった。しかし、36時間培養区では、電気刺激のみでBL I処理を行わなかった場合に、他の全ての区と比較して活性化率が有意に低く、かつ、2前核1極体を有する正常な活性化卵子の割合も低かった。さらに、正常な活性化卵子が得られる48時間培養卵子に複合刺激を与えた後に7日間培養を行い、培養液(mNCSU37およびWhitten's培養液)ならびに培養器内の酸素濃度(5%および20%)の違いが単為発生胚の発生に及ぼす影響を調べた。その結果、mNCSU37培養液(44.7%)においてWhitten's培養液(20.7%)と比較して有意に高い胚盤胞期胚への発生率が得られた。しかし、酸素濃度の影響はなかった。以上の結果より、体外成熟豚卵子に電気刺激およびブチロラクトンIによって複合刺激を与えると、適切な培養条件下で、高い胚盤胞期胚への発生率が得られることが判明した。
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1)Human Clinical Reproductive Medicine Center, Department of Obstetrics
& Gynecology, The First Affiliated Hospital of Nanjing Medical University,
P. R. China
2)Jiangsu Academy of Agricultural Sciences, P. R. China
3)College of Animal Science and Veterinary Medicine, Yangzhou University,
P. R. China
4)Jiangsu Province Key Lab. of Reproductive Medicine, Nanjing Medical University,
P. R. China
本研究は、ブタ卵丘細胞-卵母細胞複合体(COCs)の体外成熟/受精後の発生と卵丘細胞膨化面積の関係を調べることを目的とした。COCsを小、中および大卵胞由来の卵胞液15あるいは5%を添加した培地で48時間培養した結果、卵丘膨化の程度は卵胞の大きさに関係なく、無添加区より小さかった。最初の24時間培養を卵胞液添加培地で行い、続いて24時間培養を無添加培地で行った結果、卵丘膨化が48時間添加培養したものよりも顕著に認められたが、極体を持った成熟卵子の割合は、対照区と実験区で差がなかった。体外受精した結果、最初の24時間培養を5 mm以上の卵胞由来の卵胞液15あるいは5%を添加した培地で行い、続いて24時間培養を卵胞液無添加で行った区で桑実期および胚盤胞期胚が得られたが、他の区では同ステージへの発生が認められなかった。COCsでの卵丘細胞の膨化面積は、その後の胚発生と有意に正の相関を示した。結論として、卵胞液は卵丘膨化を抑制する効果を持ち、その強さは起源とする卵胞の大きさが増大するにつれて弱くなり、さらに培養時間に影響を受けることが示された。これらの結果から、卵丘細胞膨化面積はブタ卵母細胞の体外成熟/受精後の発生を予測するうえでパラメーターになりうることが示唆された。
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1)鈴鹿医療科学大学大学院 保健衛生学研究科
我々はPfaffia paniculata の根を化学的に成分分析し、その根を粉末状にしたものを飲料水に混ぜて30日間マウスに自由摂取させ、雌のマウスでは血漿中のestradiol-17βとprogesterone、雄のマウスでは血漿中のtestosteroneの濃度変化を測定した。その結果、P. paniculataの根には2種類の植物性ステロイド、β-sitosterolと stigmasterolが含まれ、その他にもpfaffic acid、allantoin、saponins、β-sitosteryl-β-D-glucoside、stigmasteryl-β-D-glucosideが確認された。血漿中のホルモン濃度の変化においては、estradiol-17β、progesterone、testosteroneの3種類の性ホルモンともにコントロール群と比較して明らかな上昇がみられた。P. paniculataの根の粉末は飼料や飲料水に容易に添加でき30日間の経口摂取においてマウスに何ら副作用的な症状が確認されていないことから長期にわたっての経口摂取も可能と思われる。
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