vol. 48 (2002)

透明帯除去ハムスター卵子を用いた凍結融解ウマ精子の卵子侵入能の評価（J. Reprod. Dev. 48: 539-544, 2002）

松川和嗣1)・高橋政義2)#・花田　章1)

1)信州大学・繊維学部・資源生物学講座
2)農林水産省・畜産試験場・繁殖部
#現所属：独立行政法人・東北農業研究センター

　日本では、ウマ卵子の入手が難しいために、体外受精系の改善が困難である。そこで、体外受精系の模擬試験として透明帯除去ハムスター卵子への精子侵入能を評価するハムスターテストが有効であると考え、以下の実験を行った。はじめに、IA処理（1.0 μM 60秒間）の際に培地内に添加するカフェイン濃度（0-10 mM）を検討した結果、1mM区で49.0％の精子侵入卵率がえられた。次に、カフェイン1 mMを添加した培地中でのIAの処理条件（0-1.0 μM, 0-180 秒間）を検討した結果、52.2%（0.1 μM 120秒間）および40.9%（1.0 μM 60秒間）の精子侵入卵率がえられた。0.1 μMで120秒間のIA処理をしたウマ精子の精子侵入卵率を経時的に検査したところ、処理後2時間から4時間および6時間から8時間にかけて有意に精子侵入卵率が上昇した。以上の結果、凍結融解後のウマ精子はカフェイン1 mMの存在下で、0.1 μMで120秒間のIAによる前処理を行うことで透明帯除去ハムスター卵子への侵入能が促進され、IA処理後6時間から8時間までに先体反応を完了することが推測された。

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春機発動前の雌ウシにおけるGnRH投与後の末梢血中黄体形成ホルモンおよび卵胞刺激ホルモン濃度の変化（J. Reprod. Dev. 48: 545-551, 2002）

中田　健1)・石川行一1)・中尾敏彦1)#・澤向　豊1)

1)酪農学園大学・獣医学部・獣医学科・獣医臨床繁殖学教室
#現所属：広島大学大学院・国際協力研究科・生物資源開発技術学研究室

　雌ウシの春機発動時には初回の排卵が観察される。成牛において卵巣で十分に発育した卵胞を排卵させるためには、末梢血中の黄体形成ホルモン（LH）の一過性の上昇が必要不可欠である。出生から春機発動を迎えるまでに、視床下部で産生された性腺刺激ホルモン放出ホルモン（GnRH）の一過性の大量放出に対して、下垂体からLHのサージ状分泌を引き起こすことができるようになる必要がある。本実験では、春機発動前の雌ウシにおいて、GnRHの血中の一過性上昇に対する性腺刺激ホルモン放出の変化を明らかにすることを目的とし、春機発動前の雌ウシ50頭を、1、2、4、6および8ヶ月齢に体重1 kgあたり1 μgのGnRHを静脈内投与し、投与30分前、投与直前（0）および投与後360分まで血液の採取を行い、末梢血中LHおよび卵胞刺激ホルモン（FSH）濃度の測定を行った。GnRH投与後30分に、全ての月齢で、投与前のLHおよびFSH濃度に対して有意な増加が確認された(P＜0.05)。GnRH投与後、末梢血中LHおよびFSHの上昇が同時期に観察され、月齢が進むとともにGnRH投与から、LHおよびFSH上昇のピークまでの時間が延長することが明らかとなった。LH上昇のピーク濃度は月齢とともに増加し、一方、FSH上昇のピーク濃度は月齢とともに減少する傾向が観察された。本実験の結果から、春機発動前の雌ウシにおいて、GnRHに対する下垂体のLHおよびFSH分泌反応性は1カ月齢ですでに存在しており、月齢とともにGnRHに対する下垂体のLH放出は高まることが明らかとなった。これらのことは、雌牛において、春機発動までに一過性のGnRH 濃度の増加に対する下垂体のLH放出能が高まることが、初回排卵の時期を決定する一つの要因であることを示唆するものである。

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ウシ胎子卵巣における前胞状卵胞の発育と血中ホルモン濃度の動態（J. Reprod. Dev. 48: 553-560, 2002）

村西由紀1)・Tomas J Acosta1)・宮本明夫1)・福井　豊1)

1)帯広畜産大学・家畜育種増殖学講座

　本研究は、妊娠日齢90から150日の間における原始卵胞数および一次卵胞数の変化、卵巣重量の変化、そして胎子心臓の血清中ホルモン濃度変化の関係を検討した。胎子は25頭の妊娠雌牛から得た。卵巣組織切片で前胞状卵胞数を調べ、卵胞は形態的特徴に基づいて原始卵胞と一次卵胞に分類した。胎子心臓血中ホルモン濃度は、enzyme immunoassay (EIA)法により測定した。卵巣重量の変化は、胎齢に伴った増加が見られた。妊娠90から150日の原始卵胞数に変化は見られなかった。一次卵胞は妊娠90日齢の卵巣組織中で観察され、90から120日にかけて増加し、130日には有意に（p＜0.05）増加した。また2種のステロイドホルモン（E₂, A）濃度は、妊娠120日目に有意に（p＜0.05）増加した。しかし、FSHとLH濃度は90から150日の間で一定であり、一次卵胞数との関係は明らかではなかった。以上の結果、妊娠130日目における一次卵胞数の増加は胎子血清中E₂および A濃度の上昇と関連していると思われた。また、原始卵胞から一次卵胞への卵胞発育は、FSHやLHに必ずしも依存していないと考えられた。

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異所的に移植された子宮組織におけるマウス子宮NK細胞の分化（J. Reprod. Dev. 48: 561-566, 2002）

中村織江1)・本道栄一1)・國分啓司1)・木曾康郎1)

1)山口大学農学部・家畜解剖学講座

　プロゲステロンが子宮NK細胞の分化に対して重要な役割を持つかどうかを調べるために、我々は異なる発達段階の子宮片を異所性に移植した。メスマウスをrecipientとして用いた時、成熟（8週齢）あるいは未成熟（4週齢）donorからの移植片では子宮内膜の脱落膜化と子宮NK細胞の分化が観察されたが、新生子（生後10日）donorからの移植片では何の変化も観察されなかった。recipientとして未成熟のマウスを用いた時、プロゲステロンを投与しているにも関わらずrecipient自身の子宮は脱落膜化を起こさず、子宮NK細胞も観察されなかった。これらの結果から、子宮NK細胞の分化にはrecipientの性成熟は関係せず、またプロゲステロンは子宮NK細胞の分化に必須であるが、その作用は子宮NK細胞に対して直接的ではないことが示唆された。去勢オスを用いた時のみプロゲステロン存在下で移植片の脱落膜化と子宮NK細胞の分化が観察され、通常の成熟オスではプロゲステロンが存在しても変化が見られなかったことから、子宮NK細胞はテストステロン存在下では十分に分化できないことが示唆された。

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ブタ卵胞顆粒層細胞膜上の抗原を認識するモノクローナル抗体（J. Reprod. Dev. 48: 567-572, 2002）

田島智恵美1)・眞鍋　昇1)・井上直子1)・松井俊勝1)・香川則子1)・本道栄一2)・宮野　隆3)・Jozsef RATKY4)・宮本　元1)

1)京都大学農学研究科・応用生物科学専攻生体機構学
2)山口大学農学部・獣医学科家畜解剖学
3)神戸大学農学部・応用動物科学科発生工学
4)ハンガリー国立家畜繁殖飼養研究所生殖生物部

　ブタ卵胞顆粒層細胞に対するIgMモノクローナル抗体（PAG-1抗体）を作製した。PAG-1抗体は、健常卵胞の顆粒層細胞膜上の２種のタンパク（分子量38および42kD）ならびに初期および後期退行卵胞の顆粒層細胞膜上の２種のタンパク（分子量38および64kD）を認識した。いずれの抗原とも顆粒層細胞にのみ局在する。卵胞退行開始時に42-kDタンパクが消失し、逆に64-kDタンパクが出現した。この64-kDタンパクは退行の進行にともなって増加した。PAG-1抗体を用いた免疫組織化学的染色性は退行の進行にともなって強まった。グリコシダーゼ処理によって64-kDタンパクは42kDに移動した。退行にともなって42-kDタンパクに糖鎖が付加され、これが隣接顆粒層細胞による食細胞活動の引金として働くと推察された。

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卵胞成長の最終的な時期のウシ卵胞内のアンギオテンシンおよびエンドセリン・システム要因のmRNA発現（J. Reprod. Dev. 48: 573-582, 2002）

Bajram BERISHA1)・Dieter SCHAMS1)・宮本明夫2)

1)ミュンヘン工科大学・生理学研究所
2)帯広畜産大学・畜産科学科・生殖科学研究室

　最近の知見から，血管作動性ペプチドであるアンギオテンシンII（Ang II）とエンドセリン-1（ET-1）が卵巣機能を調節していることが示唆されている。しかし、卵巣内の卵胞の成長過程におけるこの2つのペプチドシステム、すなわち、それぞれの変換酵素やレセプターの発現についての情報はほとんどない。本研究では、ウシ卵胞の成長過程での卵胞内のアンギオテンシンおよびエンドセリン・システム要因のmRNA発現について、semiquantitative RT-PCR法を用いて調べた。その結果、卵胞液中のエストラジオール17β（E）濃度が20 ng/ml以上で直径12 mm以上の成熟卵胞から、卵胞膜内層のアンギオテンシン変換酵素（ACE）および顆粒層細胞と卵胞膜内層のエンドセリン変換酵素（ECE）mRNAが、それぞれ増加した。顆粒層細胞ではACEとET-1 のmRNA発現はみられなかった。一方、アンギオテンシン・レセプター（AT1R、AT2R）およびエンドセリン・レセプター（ETR-A、ETR-B）mRNAは、直径5 mm以上の全ての発育卵胞の顆粒層細胞と卵胞膜内層で発現していた。その中で、顆粒層細胞でのETR-A mRNAだけがACEとECE mRNAと同様に、直径12 mm以上の成熟卵胞から発現が増加した。以上の結果から，ウシ卵胞内では、アンギオテンシンおよびエンドセリン・システム要因のmRNA発現がみられることが明らかとなった。特に、成長過程の最終段階（成熟卵胞）で、両ペプチド産生機構（変換酵素）が活性化されることが示唆された。このことは、Ang IIとET-1が排卵卵胞内に必要な微環境を整えるための調節因子であることを示しているのかも知れない。

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ウシ生体を用いた黄体形成期における黄体内のプロスタグランジン (PG) F_2αおよび PGE₂ 濃度の経時的変化（J. Reprod. Dev. 48: 583-590, 2002）

小林修一1)・Tomas J ACOSTA1)・林加奈子1)・Bajram BERISHA2)・小澤崇洋1)・大谷昌之1)・Dieter SCHAMS2)・宮本明夫1)

1)帯広畜産大学・畜産科学科・生殖科学研究室
2)ミュンヘン工科大学・生理学研究所

　形成期ウシ黄体内でプロスタグランジン (PG) F_2αと PGE₂が、他の時期の黄体に比べて活発に産生されていることはよく知られている。しかしながら、排卵後の成長過程にある黄体からの PG 放出に関する生体レベルの情報は今のところ存在しない。したがって、本研究は，形成期ウシ黄体内おける PGF_2αと PGE₂分泌の変化を経時的に観察することを目的とした。また、別のウシを用いて、周期黄体内のPG合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ－2 (Cox-2) mRNA 発現も調べた。6頭のウシを過剰排卵処置後、GnRH投与3日目（排卵後約1.5日目）の複数の形成期初期の黄体に微透析システムを外科的に装着した。形成期黄体内の PGF_2αおよび PGE₂の放出は、最初の24時間活発であり、その後減少した。この変動は、卵巣静脈中のPG濃度によく反映されていた。さらに、形成期黄体における Cox-2 mRNA 発現レベルは、他の時期に比べて多かった。今回の実験結果は、黄体内での PG分泌についての初めての生体レベルの情報であり、形成期黄体内でのPG産生が、排卵後3日目までという短期間において活発であることを示している。

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性成熟時のマウス精巣におけるトリブチルスズ化合物の影響（J. Reprod. Dev. 48: 591-597, 2002）

熊坂謙一1)・宮澤眞紀1)・藤巻照久1)・田尾博明2)・Babu Rajendran RAMASWAMY2)・中澤裕之3)・牧野恒久4)・佐藤修二1)

1)神奈川県衛生研究所・食品薬品部
2)独立行政法人産業技術総合研究所
3)星薬科大学
4)東海大学・医学部

　防汚剤として船底や魚網に広く使用されていた有機スズ化合物の一種であるトリブチルスズは、イボニシ等の巻貝に対して生殖障害を引き起こすことが知られている。また、哺乳類に対する毒性として、免疫系、胎児に対する毒性等が広範囲に報告されているが、雄性生殖に関してほとんど報告されていない。そこで、トリブチルスズ化合物の一種である酸化ビストリブチルスズ（TBTO）の精巣毒性について検討を行った。5週齢のICR系マウスに週2回4週間、0、0.4、2.0、10 mg/kgの濃度でTBTOを経口投与した後、精巣を摘出し、精巣内スパームヘッドカウント及び組織学的な検討を行った。また、精巣内の総スズ濃度をinductively coupled plasma mass spectrometry （ICP-MS）により測定した。その結果、精巣重量には影響が見られないものの、精巣内スパームヘッドカウントはTBTO 2.0、10 mg/kg投与群において30～40%程度有意に減少しており、組織化学的検討では、10 mg/kg投与群においてのみ精細管内でセルトリ細胞の空胞化等が観察されたが、頻度はそれほど高くなかった。また、この時、精巣内の総スズ濃度は投与濃度依存的に上昇していた。これらの結果より、5週齢よりTBTOをマウスに曝露させた場合、成熟後の精巣に対して抑制的に作用する可能性が示唆された。

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インヒビンα-鎖ワクチンによる初期免疫および再免疫後の牛における卵巣反応とホルモン分泌（J. Reprod. Dev. 48: 599-605, 2002）

赤木悟史1)・石　放雄2,3,4)・金子浩之5)・渡辺　元2,3)・Con G. Tsonis6)・田谷一善2,3)

1)独立行政法人農業技術研究機構畜産草地研究所・家畜育種繁殖部生殖細胞研究室
2)東京農工大学農学部・獣医学科家畜生理学教室
3)岐阜大学大学院連合獣医学研究科・基礎獣医学連合講座
4)浙江大学・動物科学学院
5)独立行政法人農業生物資源研究所・遺伝資源第二部動物保存研究チーム
6)バイオテック�オーストラリア

　牛における新しい過排卵誘起法を開発する目的で、肉用和牛にインヒビンを能動免疫し、卵巣での卵胞発育とホルモンの分泌について検討した。発情周期9日目（発情日を0日とした）に、インヒビンワクチン（リコンビナントヒツジインヒビンα-鎖乳剤125 μg/ml）を筋肉注射し、引き続き発情期ごとに2回のブースター注射を行った（初期免疫群）。その後、同一牛に初期免疫から1年後に再び同様のスケジュールで3回インヒビンワクチンを注射した（再免疫群）。その結果、初期免疫群では、インヒビンワクチンの2回目投与後に血中インヒビン抗体価の上昇が認められ、3回目投与後に5例中3例に過排卵が認められた（排卵数2.4±0.6、n=5）。一方、再免疫群では、初回のワクチン投与後に速やかに血中インヒビン抗体価が上昇し、過排卵が5例中4例に誘起された（4.4±1.1、n=5）また、再免疫群では、3回目のワクチン投与後は、全例に過排卵が誘起された（5.0±1.1、n=5）。初期免疫群では、血中インヒビン抗体価および血中FSH濃度が高い個体で排卵数が増加した。以上の結果から、牛においてインヒビンの能動免疫は、牛体内にインヒビン抗体を産生させ、これによって自己下垂体からのFSH分泌量を増加させることにより過排卵を誘起する事実が確認された。また、インヒビンを再免疫することにより速やかに血中インヒビン抗体価が上昇し、過排卵が誘起されることから、牛の過排卵誘起法として有用な方法であろうと考えられた。

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ニホンザル妊娠後期におけるプロスタグランジンE₂の子宮頸管成熟に及ぼす影響と血中リラキシン、黄体形成ホルモン（LH）、エストラジオール-17βおよびプロゲステロン濃度の変化（J. Reprod. Dev. 48: 607-611, 2002）

清水慶子1)・金　万洙2,3)・岸　久司4)・野口純子5)・渡辺　元2,3)・田谷一善2,3)

1)京都大学霊長類研究所・分子生理部門
2)東京農工大学農学部・獣医学科家畜生理学教室
3)岐阜大学大学院連合獣医学研究科・基礎獣医学連合講座
4)独立行政法人農業生物資源研究所・家畜ゲノム研究グループ
5)独立行政法人農業生物資源研究所・遺伝資源研究グループ

　妊娠後期のニホンザルにおけるプロスタグランジンE₂（PGE₂）の子宮頸管内投与が子宮頸管成熟に及ぼす影響について研究した。PGE₂ゲル投与後48時間以内の血中リラキシン、LH、エストラジオール-17βおよびプロジェステロン濃度を、ラジオイッムノアッセイ法によって測定した。その結果、PGE₂ゲルの投与は、分娩の誘起なしに子宮頸管の成熟を引き起こした。血中エストラジオール-17β濃度は、PGE₂ゲル投与後に増加したが、血中リラキシン、LHおよびプロジェステロン濃度には変化が認められなかった。以上の結果から、妊娠後期のニホンザルに、PGE₂ゲルを投与した場合の子宮頸管の成熟過程においては、血中エストラジオール-17β濃度のみの上昇が認められ血中リラキシン濃度の上昇は認められないことが判明した。

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ニホンジカ（Cervus nippon）成熟雄における血清LHおよびテストステロン濃度の周年変化（J. Reprod. Dev. 48: 613-617, 2002）

亀山祐一1)・宮本明夫2)・小林修一2)・桑山岳人3)・石島芳郎1)

1)東京農業大学生物産業学部・生物生産学科
2)帯広畜産大学・畜産科学科
3)東京農業大学農学部・畜産学科

　ニホンジカは日本における養鹿の対象種として有用であるが、雄の生殖内分泌に関する報告が少ない。特に同種の雄における血中LH濃度は、過去に報告の事例がない。そこで本研究は、雄ニホンジカにおける血清LHおよびテストステロンの周年変化について検討した。血液サンプルは成熟雄3頭を対象とし、毎月1回の頻度で3年間にわたって採取した。血清LH濃度は二抗体EIA法、血清テストステロン濃度は時間分解蛍光免疫測定法で測定した。LH濃度は5月から7月にかけてピークを示し、テストステロン濃度は9月または10月にピークを示した。成熟雄ニホンジカにおけるLHとテストステロンは、他の温帯域に生息するシカ類と類似した周年リズムで調節されていることが明らかとなった。

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卵細胞質内注入法を用いた牛の核移植（J. Reprod. Dev. 48: 619-626, 2002）

牛島　仁1)・石田和昭1)・長嶋比呂志2)

1)千葉県畜産総合研究センター
2)明治大学農学部・生命科学科発生工学研究室

　牛体細胞をドナーとした核移植の効率化を図るため、ビエゾマイクロマニピュレーターによる卵細胞質内注入法の利用を検討した。作出した核移植胚の活性化処置は、(1)核移植時に200 mMのイノシトール3燐酸を2-4 pl注入すること（IP）、(2)IP処理後、1.9 mMのジメチルアミノプリン（DM）で3.5 h培養すること（IP+DM）、または(3)5 mMのイオノマイシン(IA）にて4分間活性化後、DM処理を行うこと（IA+DM）により実施した。卵細胞質内注入法により作出された核移植胚の前核様の核形成率と体外での胚盤胞への発生能は、IPが44%（19/43）と9%（8/86）、IP+DMが58%(22/38)と29%（20/68）、およびIA+DMが61%（25/41）と27%（14/51）であった。これらのことは、IP+DM処理が対照となるIA+DMと同程度の卵の活性化能を有すること、一連の卵細胞質内注入核移植法が牛体細胞の核移植法として利用可能であることを示す。

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新規オーファン受容体GPRC5B/Raig2 mRNAはマウス胎盤で発現する（J. Reprod. Dev. 48: 627-632, 2002）

今西　哲1)・眞鍋　昇1)・田中宇子1)・岡本怜衣香1)・森田眞紀1)・杉本美紀1)・宮本　元1)

1)京都大学農学研究科応用生物科学専攻生体機構学

　胎齢14.5、16.5および18.5日のマウス胎盤におけるretinoic acid inducible gene 2 (GPRC5B/Raig2)、estrogen receptor α (ERα)、retinoid X receptor α (RXRα)、pregnane X receptor (PXR)およびgerm cell nuclear factor (GCNF)のmRNAの発現の変化をRT-PCR法で調べた。細胞の増殖分化、胎児形成に重要に関わっている新規Gタンパク結合性オーファン受容体であるGPRC5B/Raig2のmRNAが胎盤に発現していることを見いだした。他の核内受容体（ERα、RXRα、PXRおよびGCNF）のmRNAの発現も検出されたが、発現レベルの個体差が大きかった。これらの受容体は胎盤機能に重要に関わっていると考えられ、本所見は内分泌攪乱物質の胎盤機能への影響を評価するための基礎データとして有用である。

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東京大学農学生命科学研究科に保存されているニホンオオカミ（Canis lupus hodophilax Temminck）剥製標本から回収したアメロゲニン遺伝子（AMELX）エクソンDNAのクローニングとヌクレオチド配列の決定について（J. Reprod. Dev. 48: 633-638, 2002）

舘鄰1,2)・榎本友弥2)・松原　優2)・上田　愛2)・長谷川哲平2)・松山淳一2)・土屋雅人2)・太田光昭2)・田名部雄一2)・鈴木立雄2)・遠藤秀紀3)・山田　雅3)・九郎丸正道4)・林　良博4)・浅野由ミ5)・山内啓太郎4)・東條英昭4)

1)三菱化学生命科学研究所
2)麻布大学
3)国立科学博物館
4)東京大学大学院農学生命科学研究科
5)日本医科大学

　従来、ニホンオオカミ（Canis lupus hodophilax）と同定されている剥製標本は、国内では、東京大学農学生命科学研究科、国立科学博物館、和歌山大学に保存されている。われわれは、東京大学に保存されている雌ニホンオオカミ剥製標本から皮膚標品を得て、ゲノムDNAを抽出し、PCR増幅によりアメロゲニン遺伝子（AMELX）Exonの部分配列をクローニングし、ヌクレオチド配列を決定することに成功した。決定された配列には、J-型（accession no. AB080688, DDBJ に 2002年3月1日登録）およびR-型（accession no. AB080689, DDBJ に 2002年３月１日登録）の2つのallelic formが認められた。J-型、R-型の何れも、これまでに報告されているイヌ（Labrador retriever）およびモンゴル産オオカミの、相同部分とは異なっていた。今回解析を行ったAMELX配列部分には、イヌ（Canis familiaris）の品種による種内多型が有ることを示す予備的結果が得られており、今後、現存のイヌ種内多型ならびにイヌとオオカミの種間変異と、今回得られた配列との比較解析が、C. lupus hodophilaxの分類学上、系統学上位置の理解の上で不可欠である。

［英文要旨＆PDF］

Volume 48, Number 6 (2002)