Volume 48, Number 3 (2002)


ラット卵子の自発的第一卵割に及ぼすCa2+/Mg2+不含培養液の影響(J. Reprod. Dev. 48: 243-248, 2002)

武内 歩1)・加藤めぐみ1,2)・伊藤和美2,#)・木村 建1)・花田 章1)・平林真澄2,##)・保地眞一1)

1)信州大学繊維学部・資源生物学講座
2)(株)ワイエスニューテクノロジー研究所
#現所属:三共株式会社・安全性研究所
##現所属:岡崎国立共同研究機構・生理学研究所

 ラットの排卵卵子は体外では自発的に活性化し始めるが、その過程は不完全で前核形成や第一卵割までには至らない。一方、加齢マウス卵子や体外成熟ウシ卵子はCa2+とMg2+の両イオンを含まない培養液にさらすと活性化誘起されてくる。本研究では、Ca2+/Mg2+不含培養液処理がラット卵子に自発的な第一卵割を誘起するか、卵子の加齢の程度がこの第一卵割誘起率と関係するか、Ca2+/Mg2+の不含環境はSr2+による活性化誘起率を増強するか、の3点について調べた。まずWistar系雌ラットをPMSG-hCGによって過排卵誘起し、0.1%ヒアルロニダーゼで裸化した卵子を5 μg/mlサイトカラシンBを含むm-KRBで6時間処理した。このうち最初の1.5時間におけるCa2+/Mg2+有無の組合せを4通りに設定し、hCG投与17時間目の卵子を処理した。その結果、処理開始から34時間目の時点で、Ca2+/Mg2+不含、Ca2+不含、Mg2+不含、Ca2+/Mg2+含有の培養液処理によってそれぞれ、23、8、2、1%の卵子に卵割が起こっていた。次にhCG投与から採卵開始までの時間を12、17、22時間としてCa2+/Mg2+不含培養液で処理したところ、それぞれ4、17、22%の卵子が卵割した。最後に1.25 mM Sr2+処理(6時間)をCa2+/Mg2+不含またはCa2+不含の培養液処理(1.5時間)と併用したところ、第一卵割率はいずれも49%で差は認められなかった。以上、Ca2+/Mg2+不含培養液処理は加齢の度合に依存してラット卵子を第一分割に導くが、この環境はSr2+のもつ活性化誘起作用には影響しなかった。

英文要旨&PDF


ウシ卵子における卵核胞崩壊に対するブチロラクトン−Iの影響とその後の卵子成熟、受精および発生能(J. Reprod. Dev. 48: 249-255, 2002)

今井 敬1)・小林修司2)・金山佳奈子3)・小島敏之3)・永井 卓1)

1)独立行政法人 農業生物資源研究所
2)独立行政法人 家畜改良センター新冠牧場
3)独立行政法人 家畜改良センター

 cdc-2キナーゼのインヒビターであるブチロラクトン−I(BL-I)を用い、卵核胞崩壊(GVBD)を阻害することによって減数分裂を休止したウシ卵子の成熟、受精および発生能について検討した。GVBD阻害およびその後の減数分裂再開に対するBL-Iの至適濃度を検討するために、BL-Iを25-100 μM添加したM199で24時間培養した。さらに、100 μM BL-Iを添加したM199を用いて、卵子のGVBD阻害時間(24または48時間)が、その後成熟、受精および発生に与える影響について検討した。100 μM BL-Iで培養した卵子は高いGVBD阻害率(86%)を示し、その率はBL-Iの濃度に依存して有意に減少した(72-4%、p<0.05)。また、それらの卵子は成熟培養後、阻害しなかった卵子と同様のMII率を示した(90% vs 83%)。100 μM BL-I添加培地で48時間培養した卵子は、24時間培養した卵子と同様に高いGVBD阻害率(95% vs 94%)を示し、成熟培養後のMII率(84%)も対照区(85%)と同様であったが、体外受精後の正常受精率(27%)、卵割率(27%)および胚盤胞発生率(6%)は、24時間区(66、69、42%)および対照区(65、75、42%)に比べて有意に低い率を示した(p<0.05)。これらのことより、100 μM BL-Iで卵子のGVBDを阻害するとき、24時間ではその後の成熟、受精および胚盤胞への発生に影響を与えないこと、48時間では受精および胚盤胞への発生率が低下することが明らかとなった。

英文要旨&PDF


マウス1細胞期胚におけるmRNA前駆体スプライシング因子p100prp1/zer1/prp6の核内移行(J. Reprod. Dev. 48: 257-263, 2002)

錦見昭彦1,#)・向井二郎1)・池田俊太郎1)・山田雅保1)

1)京都大学農学研究科・応用生物科学専攻・動物生殖生理学分野
#現所属:長寿医療研究センター・老化機構研究部

 マウス1細胞期後期に開始する胚性ゲノム活性化に伴い、転写、RNA合成、あるいはRNAプロセシングに関わる多くのタンパクが、核と細胞質の間を輸送されることが知られている。今回、分裂酵母および出芽酵母においてmRNAスプライシングに不可欠な因子(それぞれPrp1p/Zer1pおよびPrp6p)のホモログとして我々がクローニングしたmRNA前駆体スプライシング因子p100prp1/zer1/prp6(U5-102 kDa protein)の着床前胚における細胞内局在について検討した。その結果、p100prp1/zer1/prp6はマウス1細胞期胚の発生に伴い細胞質から核へと徐々に移行していくことを見いだした。また、このp100prp1/zer1/prp6の核移行はアフィジコリン存在下で阻害されず、細胞周期に非依存的であることが示された。同様の核移行はRNAポリメラーゼIIやHMG1でも報告されており、p100prp1/zer1/prp6がこれらのタンパクと同様にマウス1細胞期後期における胚性ゲノム活性化に何らかの役割を果たしていることが示唆された。

英文要旨&PDF


雌ウマの分娩前後における血中インヒビン濃度測定の有用性(J. Reprod. Dev. 48: 265-270, 2002)

南保泰雄1)・田中弓子2,3)・永田俊一4)・佐藤文夫1)・長谷川晃久1)・中井理恵4)・沖 博憲1)・渡辺 元2)・田谷一善2)

1)日本中央競馬会・競走馬総合研究所・生命科学研究室
2)東京農工大学農学部・獣医学科・家畜生理学研究室
3)岐阜大学連合大学院・連合獣医学研究課
4)競走馬理化学研究所・研究部遺伝子分析開発課

 雌ウマの分娩前6日から分娩後12日における血漿中immunoreactive (ir-) inhibin、FSH、LH、estradiolおよびprogesterone濃度を測定するとともに、分娩後の卵胞発育を検索した。血漿中ir-inhibin濃度は、分娩前は比較的低値で推移するものの、分娩後に有意な上昇を示し、胎子胎盤系から分泌されるestradiolおよびprogesteroneの血中濃度の変化とは異なっていた。また、分娩後の血漿中ir-inhibin濃度は、直径30 mmを越える大型卵胞よりも、10-30mmの小型〜中型卵胞数の消長と類似した変化を示した。以上の結果から、分娩前後の血漿中ir-inhibin濃度を測定することは、卵巣の触診検査が不可能な時期にある妊娠中の母ウマの卵胞発育の指標として有用であることが示唆された。

英文要旨&PDF


電気的活性化後のブタ体外成熟卵の発生能力(J. Reprod. Dev. 48: 271-279, 2002)

栗原 隆1)・黒目麻由子2)・若生直浩2)・落合 崇2)・水野賢一2)・藤村達也3)・高萩陽一3)・村上 博)・加野浩一郎4)・宮川周士1)・白倉良太1)・長嶋比呂志2)

1)大阪大学大学院・医学系研究科・未来医療開発専攻・組織再生医学講座・臓器置換分野
2)明治大学農学部・生命科学科・生殖工学研究室
3)(株)日本動物工学研究所
4)日本大学・生物資源科学部・動物生体機構学研究室

 ブタ卵胞卵の体外受精にTCM199培地およびNCSU23培地を基本とする系(TCM199-based IVM systemおよびNCSU23-based IVM system)を用い、得られた体外成熟卵の電気的活性化後の単為発生能力を比較した。前者の方法に用いた顆粒層卵丘卵子複合体(GCOCs)と後者の方法に用いた卵丘卵子複合体(COCs)の体外成熟培養前の核相を観察したところ、GCOCsの多く(68.6%)が十分に成長した網状期(dictyate arrest)の卵に見られる核相を持っていたが、COCsではそれ以外の異なった核相を持つ卵が約6割を占めた。両方法から得られた体外成熟卵の成熟率(93.2%、82/88 vs 91.3%、63/69)、活性化後の正常分割率(70.7%、58/82 vs 65.1%、41/63)、胚盤胞形成率(37.8%、31/82 vs 34.9%、22/63)は同等であったが、胚盤胞の細胞数はNCSU23-based IVM system由来のもののほうが高い傾向があった(22.6±2.0 vs 35.6±4.5、P<0.01)。 NCSU23-based IVM system由来の単為発生卵を移植したところ、体節期胎仔まで高率に発生した(26.9%、45/167)。以上の結果から、この方法による体外成熟卵が優れた単為発生能力を持つことが証明され、それらがブタ発生工学研究への利用に耐える素材であることが示された。

英文要旨&PDF


リポソーム・ペプチド・DNA複合体は精子ベクター法による遺伝子導入効率を向上する(J. Reprod. Dev. 48: 281-286, 2002)

米澤智洋1)・降籏泰史1,#)・平林啓司1)・鈴木正寿1)・山内啓太郎1)・西原真杉1)

1)東京大学大学院・農学生命科学研究科・獣医生理学教室
#現所属:味の素株式会社

 新たな遺伝子改変動物の作出方法として、精子にDNAを結合して受精させる、精子ベクター法(SMGT)が試みられてきたが、その効率は安定性が低い。一方、合成ペプチドを併せて結合させたリポソーム複合体(LPD複合体)を用いると、遺伝子導入時の安定性が高まることが報告された。本研究は、LPD複合体によりSMGTの遺伝子改変動物作出効率を高めることができるか検討した。ヒトヒストンH1、プロタミン1のアミノ酸配列を由来とした合成ペプチド(Hs、Pr)をCMV/EGFPと凝縮させ、リポソームを付加してLPD複合体を形成し、これを精子と結合させ、人工授精により仔を作出した。その結果、初期胚ではPrを用いた場合75%で導入遺伝子の発現がみられたが、Hsでは50%とペプチドを用いない場合と差はなかった。生後一ヶ月齢では、導入遺伝子が検出されたのはPrを用いた場合の1匹のみであった。以上より、Prを用いてSMGTを行うことで、初期胚への遺伝子導入や遺伝子治療へのさらなる安定性が示唆された。

英文要旨&PDF


TCM199にピルビン酸、乳酸およびFCS添加培養液を用いた卵管細胞との共培養でのスナネズミ1細胞期胚から胚盤胞への発生(J. Reprod. Dev. 48: 287-292, 2002)

辻井弘忠1)・猿渡 豪1)・濱野光市1)

1)信州大学農学部

 スナネズミの1および2細胞期胚を卵管細胞との共培養で、胚盤胞へ発育させることを目的に実験を行った。2細胞期胚はピルビン酸、乳酸および10%FCSを添加したmTCM199を用いて、スナネズミまたはマウス卵管細胞と共培養した。また、1細胞期胚をスナネズミ卵管細胞と共培養またはmTCM199のみで培養した。mTCM199を用いてスナネズミ卵管細胞と共培養した結果、1細胞期および2細胞期胚の25.0および22.9%が胚盤胞期へ発生した。2細胞期胚をマウス卵管細胞と共培養した場合も同様に胚盤胞への発生がみられた。体外培養で得られた胚盤胞の形態と細胞数は体内で発生した胚盤胞と同等であり、mTCMを用いた共培養系はスナネズミ胚の体外培養に有効であると思われた。

英文要旨&PDF


加齢ならびに電気刺激または精子により活性化されたブタ卵母細胞の細胞骨格構造(J. Reprod. Dev. 48: 293-301, 2002)

鈴木裕之1)・高嶋陽子1)・豊川好司1)

1)弘前大学・農学生命科学部

 卵の成熟と活性化には微小管とマイクロフィラメントの働きや相互作用が重要であるが、これまでのところ十分解明されていない。そこで本研究では、卵の加齢ならびに父性と母性の影響と関連付けながら、電気刺激または精子による活性化ブタ卵の細胞骨格構造の変化を検討した。電気的活性化の際には、第一極体と卵の融合を試み、極体由来の(母性)染色質によって引き起こされる細胞骨格の変化を侵入精子(父性)によるものと比較検討した。50または60時間培養された加齢卵では、44時間培養した若齢卵に比べ紡錘体が伸張しており、マイクロフィラメントの分布密度が低下していた。卵母細胞は加齢の程度に関わらず、2連続の電気刺激によって効率よく活性化された(93-100%)。第一極体の融合は卵の加齢に伴い低下した(52%から22%へ)。融合が起こった場合には、第一極体由来の染色質は卵細胞質の微小管網に組み込まれ、“余分な”1個の核様体に変化していた。活性化された若齢卵では、微小管が豊富な一つの領域に前核が含まれていた。しかし、加齢卵では表層と細胞質のマイクロフィラメントの分布密度が低下し、しばしば卵の細分化が見られた。接合子では、雄性前核と雌性前核が別々の微小管領域に含まれており、マイクロフィラメントがそれらを保定していた。本研究の結果から、卵の加齢が細胞骨格構造に変化を及ぼし、卵の細分化が増加すること、また前核形成と移動期の細胞骨格構造に対する父性または母性因子の影響が異なることが示唆された。

英文要旨&PDF


ブタ卵母細胞の成熟に伴うヒドロキシステロイド脱水素酵素活性の変化(J. Reprod. Dev. 48: 303-308, 2002)

高野裕子1)・新村末雄2)

1)新潟大学大学院・自然科学研究科
2)新潟大学農学部

 培養したブタ卵母細胞について、各種ヒドロキシステロイド脱水素酵素(HSD)の活性を組織化学的に検出し、卵母細胞の成熟に伴うステロイド代謝能の変化および核の成熟と細胞質でのステロイド代謝能の変化との関係を検討した。採取直後の卵母細胞において、91ないし97%でΔ5-3β-HSD、17β-HSD、20α-HSDおよび20β-HSDの活性が検出された。一方、Δ5-3β-HSD(基質としてDHAを使用)、17β-HSD(testosterone)および20β-HSD(20β-hydroxyprogesterone)の活性を示す卵母細胞の割合は、培養時間の経過に伴う変化を示さなかったが、Δ5-3β-HSD(pregnenoloneおよび17α-hydroxypregnenolone)、17β-HSD(estradiol-17β)、20α-HSD(20α-hydroxyprogesterone)および20β-HSD(17β-hydroxyprogesterone)の活性を示す卵母細胞の割合は、培養時間の経過に伴って低下し、培養44時間後ではそれぞれ4、0、0、2および0%になった。また、22時間オロモウシン処置した卵母細胞において、核はすべて卵核胞期にあるとともに、Δ5-3β-HSD(pregnenoloneおよび17α-hydroxypregnenolone)、 17β-HSD(estradiol-17β)、 20α-HSD(20α-hydroxyprogesterone)および20β-HSD(17α-hydroxyprogesterone)の活性を示すものの割合は、それぞれ57、64、65、61および66%であり、オロモウシン処置していない対照の卵母細胞の10、2、10、7および2%に比べていずれも有意に高かった。以上の結果から、ブタ卵母細胞の成熟とプロゲステロン、17αヒドロキシプロゲステロン、20αヒドロキシプロゲステロン、17α, 20βジヒドロキシプロゲステロンおよびエストラジオール17βの代謝能とは密接な関係があり、これらの代謝能の消失は、卵母細胞の成熟分裂再開の指標となり得ることが示唆された。

英文要旨&PDF


ガラス化保存しためん羊胚の直接移植後の生存性(J. Reprod. Dev. 48: 309-312, 2002)

岡田亜紀1)・和知祥子1)・飯田憲司1)・丞々幸生1)・外川守彦1)・浅田正嗣1)・福井 豊1)

1)帯広畜産大学・家畜育種増殖学講座

 近年、高価な機器を必要とせず短時間で行えるガラス化保存法が注目されてきている。また、ウシを中心に行われているダイレクト移植(d-ET)法は野外に適した移植法である。本実験では、ガラス化保存しためん羊胚をd-ETに供してその生存性を確認することを目的とした。ガラス化保存容器には0.25 mlストローを加熱後、外径が半分になるまで引き延ばして作製したストロー(heat-pulled straw; HPS)を用いた。生体内由来めん羊胚(桑実胚〜胚盤胞)を段階的にガラス化溶液(VS; 25% glycerol+25% ethylene glycol)に移し、あらかじめ0.5 M sucrose(Suc)溶液(15 μl、30 μl)を吸引しておいたHPS内に3 μlのVSとともに吸引し、30秒以内にLN2中に投入した。加温後、融解時にVS層と0.5 M Suc溶液層が混和しているのを確認してから移植まで垂直にして保温(35〜37℃)した。38個のガラス化胚を19頭の受胚羊に移植し(2胚移植)、54〜59日後の受胎率、分娩成績を記録した。受胎率、着床率、分娩率、胚生存率はそれぞれ、15.8%(3/19)、10.5%(4/38)、15.8%(3/19)、7.9%(3/38)であった。本実験より、ガラス化めん羊胚のダイレクト移植により正常な産子を得られることが示された。

英文要旨&PDF


This site has been maintained by the JSAR Public Affairs Committee.
Copyright 1999-2002 by the Japanese Society of Animal Reproduction