JRD Vol. 47, No. 4 (2001)

非繁殖季節において発情誘起、人工授精された雌羊の受胎率におよぼすヒト絨毛性性腺刺激ホルモン（hCG）処置の効果（J. Reprod. Dev. 47: 189-195, 2001）

福井　豊・板垣涼子・石田直久・岡田みどり

帯広畜産大学・家畜育種増殖学講座

　本研究は、非繁殖季節（6～7月）に発情誘起および人工授精された雌羊の黄体形成期にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン（hCG）を300IU×1回または100IU×3回筋肉内注射し、受胎率(妊娠率、分娩率)および産子率に及ぼす影響を検討した。供試雌羊はサフォーク種68頭、およびサウス・ダウン種20頭、計88頭で、事前に0.3 gプロジェステロン含有膣内挿入具（Controlled Internal Drug Release Dispenser : CIDR タイプG）を12日間膣内に挿入し、除去1日前に500 IUウマ絨毛性性腺刺激ホルモン（eCG）で発情同期化を行った。供試雌羊は以下の3群に分けた。すなわち、1) 100IU hCGを授精後3、4、5日に筋肉内注射（1群：31頭）2) 300 IU hCGを授精後4日目に1回筋肉内注射（2群：29頭）3) 0.6％生理食塩水を授精後4日目に1回筋肉内注射（3群28頭、対照区）である。全雌羊において、人工授精時（Day 0）、4、8、12、16、20日目に採血し、血漿中プロジェステロン（P₄）濃度を酵素免疫法で測定した。その結果、hCG投与区（1、2群）の雌羊における8日目の平均P₄値は対照区よりも有意に（P<0.01）高く、さらに12および16日目において2群の平均P₄値は対照区よりも有意に（P<0.05）高かった。しかし、妊娠率（20および58日目）、分娩率（1群：37.9％、2群：55.2％、3群：54.2％）、および産子率（136％、175％、162％）に有意差は認められなかった。以上のことから、今回投与したhCG処置は黄体を刺激し、血流中P₄濃度を上昇させたが、授精後の受胎率を改善させるには至らなかった。

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ブタ精子におけるリラキシンの特異的結合部位の存在と運動特性に対する作用（J. Reprod. Dev. 47: 197-204, 2001）

高坂哲也1)・佐々田比呂志2)・高原英成3)・佐藤英明2)・番場公雄1)・O. David Sherwood4)

1)静岡大学・農学部
2)東北大学大学院・農学研究科
3)茨城大学・農学部
4)イリノイ大学・分子総合生理学科

　リラキシンは妊娠ホルモンの一つとして知られているが、ブタの精漿からも検出される。しかし、精漿リラキシンの役割についてはよくわかっていない。本研究は、ブタの精巣上体尾部より採取した精子を用い、ブタ精子にリラキシンの特異的な結合部位が存在するか調べると共に、精子の運動特性にどのような作用を発現するか検討した。リラキシンの結合部位を同定するため、洗浄したブタ精巣上体尾部精子をスライドガラスに塗布し、ビオチン化リラキシンと金標識抗ビオチン抗体を順次反応させた後、銀染色によるシグナル増幅を行って可視化した。その結果、リラキシンはブタ精子の中片部と尾部に特異的に結合することが判明した。さらに、結合は先体や頸部にも認められた。一方、ブタ精子の運動特性に対するリラキシンの作用を調べるために、洗浄したブタ精巣上体尾部精子を修正KRBで希釈し、37℃で30分間プレインキュベートした後、ブタリラキシンを添加し（リラキシンと精子濃度は、それぞれ100 ng/mlと5×10⁶ cells/ml）、CO₂インキュベーター内で37℃で120分間インキュベーションを行い、30分毎に精子の運動をVTRに記録し運動精子率、前進運動能および運動速度を解析した。その結果、リラキシンは運動精子率には有意な変化をもたらさなかったが、前進運動能を増大させ、かつ、リラキシン添加後90分では、BSAコントロールに比べて運動速度を1.4倍も有意に上昇させることが判明した。これらの結果から、ブタ精子にはリラキシンの特異的な受容体が存在し、その作用は受容体を介して精子の運動能を刺激することが示唆された。

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ヒミズ（Urotrichus talpoides）の精巣組織におけるレクチン反応性の検討（J. Reprod. Dev. 47: 205-210, 2001）

水上拓郎1)・桑原佐知2)・大村昌子2)・飯沼康子2)・泉久保樹音2)・萩原未央2)・九郎丸正道1)・林　良博1)・西田隆雄2)

1)東京大学大学院・農学生命科学研究科・獣医解剖学教室
2)日本大学・生物資源科学部・動物生体機構学研究室

　ヒミズ（Urotrichus talpoides）の精巣組織における20種のレクチンの反応性について光学顕微鏡で検討した。WGA、LEL、 STL、 Jacalin、PSA、 LCA、 PSA、 BPA、 Con-A、 WGAおよびPHA-Eの11種のレクチンは、生殖細胞およびSertoli細胞の細胞質に反応を示した。LEL、BSL-I、DSA、 sWGA、 BSL-IIおよびPHA-LはLeydig細胞の細胞質に強い陽性反応を示した。精子細胞先体系のレクチンの結合性は3タイプに区分できた。LEL、ECLおよびSTLは、ゴルジ期から頭帽期の精子細胞に反応が認められ、先体期、成熟期にはその反応が消失した。SBA、VVL、 ECLおよびDSLはゴルジ期から先体期の精子細胞においてその反応が認められた。成熟期の先体には反応が確認されなかった。DBAやJacalinは先体においては反応が全く認められなかったが、成熟期の精子細胞の細胞質に強い反応を示した。sWGA、BPAおよびLELはステ－ジXとXIのザイゴテン期精母細胞の細胞膜に強い反応を示した。BSL-IIはステージVIIIとIXの精祖細胞の細胞質に強い反応を示した。

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内因性副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (CRH) の免疫中和は副腎摘出および拘束ストレスによる黄体形成ホルモン (LH) 分泌の抑制を阻害する（J. Reprod. Dev. 47: 211-216, 2001）

藤平篤志1,2)・苫米地多恵子1)・儘田雅行1)・赤井　誠1)・渡辺　元1)・田谷一善1)

1)東京農工大学・家畜生理学教室
2)獨協医科大学・実験動物センター

　副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン（CRH）が黄体形成ホルモン放出ホルモン（LH-RH）分泌を調節することは認知されており、その作用部位は視索前野であると考えられている。しかしながら内因性のCRHが正中隆起部でLH-RHの放出に影響を与えるか否かについては不明である。そこで本研究ではCRH分泌が亢進している動物モデル（副腎摘出および拘束ストレス）を用いて、抗CRH血清の静脈内投与が黄体形成ホルモン（LH）分泌に与える影響について検討した。副腎摘出後2週間が経過した成熟雄ラットでは血中副腎皮質刺激ホルモン（ACTH）濃度は上昇し、血中LH濃度は減少した。副腎摘出動物に抗CRH血清を静脈内投与すると血中ACTH濃度は低下し、血中LH濃度は上昇した。また、拘束ストレス負荷実験ではストレスに反応して血中ACTHおよびプロラクチン（PRL）濃度が上昇し、血中LH濃度は減少した。抗CRH血清を静脈内投与するとストレスに反応したLH分泌の抑制は阻害されたが、PRL分泌は影響を受けなかった。これらの結果から、抗CRH血清の静脈内投与により内因性のCRHを正中隆起部で免疫中和するとLH分泌が上昇することが示された。その機序はおそらくLH-RHを介したものであり、視索前野に加えて正中隆起部もCRHのLH-RH分泌に対する作用部位の一つであることが示唆された。

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ウシ妊娠期の大型黄体細胞における暗調顆粒の超微形態学的特性とリラキシン免疫局在（J. Reprod. Dev. 47: 217-225, 2001）

高坂哲也1)・佐々田比呂志2)・佐藤英明2)・番場公雄1)・橋爪一善3)

1)静岡大学・農学部
2)東北大学大学院・農学研究科
3)農林水産省畜産試験場

　妊娠後期のウシ黄体はリラキシンの分泌源として報告されている。しかし、それを裏付ける超微形態学的証拠はない。本研究は、妊娠4ヶ月目から分娩間近に至るまでのウシ黄体について、細胞内に存在する一層の限界膜で包まれた暗い顆粒、すなわち暗調顆粒に着目し、その超微形態学的特性を調べ、リラキシンの免疫局在について検討した。妊娠黄体は、28頭のホルスタイン種乳牛から採取し、ブアン液または0.3％グルタルアルデヒドを含む4％パラホルムアルデヒドで固定した。リラキシンの免疫細胞化学的検出は、ブタリラキシンに対するポリクローナル抗体を用い、PAP法とプロテインAゴールド法で行った。ウシ黄体におけるリラキシン分泌細胞を光学顕微鏡レベルで同定した結果、リラキシンは大型黄体細胞でのみ検出され、小型黄体細胞には検出されないことが分かった。リラキシンを含有する大型黄体細胞は、妊娠4ヶ月目ではわずかしか見られなかったが、妊娠経過に伴いリラキシンを有する大型細胞の割合やその含有量は漸増した。一方、電子顕微鏡による解析から、大型黄体細胞には2種類の暗調顆粒、すなわち直径100-300 nmの小型顆粒と直径500-1800 nmの大型顆粒が存在し、妊娠に伴って変動することが明らかとなった。小型顆粒は、妊娠7ヶ月まで多数観察された後減少し、分娩間近に消失するという動態を示し、小型顆粒の開口分泌像も妊娠4-6ヶ月目で観察された。これに対して、大型顆粒は、妊娠4ヶ月目では散見される程度であったが、妊娠経過に伴って増加し、分娩間近には最大となることが判明した。しかし、大型顆粒の開口分泌像は見出せなかった。さらに、電子顕微鏡レベルでリラキシンの同定を行った結果、リラキシンは大型顆粒にのみ局在し、小型顆粒には存在しないことが証明できた。以上の結果から、妊娠期のウシにおいて大型黄体細胞がリラキシンの分泌細胞で、細胞内の大型暗調顆粒にリラキシンが貯留されていることが示された。

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ハムスター2細胞期胚の割球の電気融合と細胞骨格の動態（J. Reprod. Dev. 47: 227-235, 2001）

鈴木裕之1)・小笠原郁子1)・高橋寛子1)・今田安信2)・豊川好司1)

1)弘前大学・農学生命
2)ユニークメディカル・イマダ

　動物発生工学において、細胞融合法は重要な技術である。本研究では、ハムスター2細胞期胚割球の最適電気融合条件を確立し、細胞融合中の細胞骨格の動的変化を蛍光染色法により観察した。種々の電圧（70-2000 V/mm）ならびに通電時間（50-1000 μsec）をそれぞれ検討した。電圧が300 V/mm以上または通電時間が200 μsec以上では割球が破損した。割球融合は70-170 V/mm、100 μsecで見られ、最良の融合率（91％）が150 V/mm、100 μsecの単一パルスで得られたが、融合胚は発生しなかった。蛍光染色した対照区の2細胞期胚では、核を支持する微小管の緻密なネットワークと割球接着部位に多量のマイクロフィラメントがみられた。電気刺激後、微小管ネットワークの分布密度が低下した。融合した胚では微小管とマイクロフィラメントの豊富な領域が核周辺に集中していた。しかし融合が起こらなかった胚では、割球接着部に層状の微小管と肥厚したマイクロフィラメントの境界が認められた。本研究の結果から、割球の融合には細胞骨格の再編成が伴うこと、また融合した胚と融合しなかった胚では細胞骨格の再分布が異なった様式で起こることが示された。

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黒毛和種種雄牛精子の子宮頚管粘液への侵入およびカルシウムイオノホアによる先体反応誘起と受胎性との関連（J. Reprod. Dev. 47: 237-243, 2001）

村瀬哲磨1)・向島幸司2)・坂口慎一2)・大谷　健2)・坪田敏男1)�喜多　功1)

1)岐阜大学農学部・獣医学科・家畜臨床繁殖学講座
2)岐阜県畜産研究所飛騨牛研究部

　種雄牛の精液を検査する新しい方法を開発する目的で、ウシ発情期子宮頚管粘液への精子の侵入距離を測定する粘液侵入試験を行い、またカルシウムおよびカルシウムイオノホアA23187により先体反応が誘起される能力を調べる試験（A23187負荷試験とする）を試みた。受胎率が正常である2頭の黒毛和種種雄牛および低下した他の2頭の個体の凍結-融解精液を、精子濃度、運動性、生存性および形態を含む一般精液性状検査、粘液侵入試験およびA23187負荷試験により検査し、受胎成績との関連を調べた。一般精液性状検査および粘液侵入試験では、4頭間で差は認められず、受胎成績との関連は示されなかった。しかし、3 mMカルシウムおよび 1 μM A23187と共に精子を培養した結果、すべての個体で時間に依存して先体反応が誘起されたが、受胎率の低下した2頭の個体から得られた精子における先体反応の誘起は正常な個体と比較して遅く、低かった。以上のことから、一般精液性状検査あるいは粘液侵入試験によって受胎率の低い種雄牛の精子の異常が発見できない場合A23187負荷試験が有効であることが示唆された。

［英文要旨＆PDF］

Volume 47, Number 4 (2001)