Volume 47, Number 1 (2001)


ホルボルエステルで刺激したブタ卵巣顆粒膜細胞における一酸化窒素の産生(J. Reprod. Dev. 47: 1-6, 2001)

武末克久1)・西田徳親1)・服部眞彰2)・加藤幸雄3)・藤原 昇2)

1)九州大学大学院生物資源環境科学府・動物資源科学専攻・家畜繁殖生理学分野
2)九州大学大学院農学研究院・動物資源科学部門・家畜繁殖生理学分野
3)群馬大学生体調節研究所・生理活性物質センター
(現所属:明治大学農学部・遺伝情報制御学研究室)

 プロティンキナーゼCおよびアデニル酸シクラーゼの賦活剤が、ブタ卵巣の顆粒膜細胞における一酸化窒素(NO)産生に及ぼす影響を検討した。顆粒膜細胞は、直径3〜6 mmの健常卵胞から注射針により吸引採取し、無血清培地中で24時間の前培養を行った後、48時間のovine FSH刺激により細胞の成熟を促した。NOの代謝物(NO2-)の測定、および細胞から放出されるNOの連続的検出には、NO微量検出装置であるISO-NO(World Precision Instrument)を用いた。ovine FSHを添加した細胞では、培地中のNO2-濃度が高いこと、および血管内皮細胞型NO合成酵素のmRNAがRT-PCR法で検出されたことから、細胞の成熟中にNOが発生していることが明らかになった。この成熟した細胞を0.1〜1 μMの12-Ο-tetradecanoylphorbol 13-acetate(TPA)で1時間の処理を行うと、培地中のNO2-レベルが有意に増加したが、TPAの誘導体(4α-phorbol,4β-phorbol 13-monoacetate)あるいはホルスコリンの添加では、その増加は認められなかった。さらに、NO合成酵素の基質であるL-アルギニンの存在下で浮遊した成熟細胞にTPAを添加すると、約50分にわたってNO産生を示すシグナル(5〜15 pA)が発生し、その濃度はおよそ5.5〜11 nMレベルを推移した。しかし、TPAの誘導体あるいはD-アルギニンの存在下では、このシグナルの発生は認められなかった。以上の結果から、ブタ卵巣顆粒膜細胞では少なくとも一部はプロティンキナーゼCの活性化を介して、NOの合成が刺激されるものと考えられる。

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メリノ種ヒツジにおける5α-androstane-3α,17β-diol 能動免疫による排卵率の向上(J. Reprod. Dev. 47: 7-15, 2001)

手塚雅文1) ・コリン D. ナンカロウ2)

1)ニューサウスウェールズ大学・羊毛畜産学科
2)連邦科学産業研究庁・家畜生産部

 ヒツジにおいて、エストロジェンの基質となるアンドロジェン、アンドロステンジオンに対する免疫が、卵胞閉鎖を抑制する事によって排卵率を向上させることが知られている。本研究では芳香化されない5α-水酸化アンドロジェン、5α-androstane-3α,17β-diol(3α-diol)に対する能動免疫がメリノ種ヒツジの排卵率におよぼす影響を調べた。発情周期中のヒツジに、3週間ごとに3回、3α-diolに対する能動免疫を行った。2回目の免疫後、数週間にわたり毎日血液サンプルを採取し、プロジェステロン(P)の動向を調べた。免疫開始から10週間目にPGによる発情同期化を行い、黄体期および卵胞期におけるFSHおよびLHの動態を調べた。各免疫後およびPG処置後の排卵率を腹腔内視鏡によって調べた。3α-diol免疫による排卵率の向上が二回目免疫以降認められた。しかし3α-diol免疫は同時に無排卵ヒツジの割合も増加させた。3α-diol免疫によるP値の上昇、および黄体期におけるFSHレベルとLHパルスの増加が認められた。黄体期のFSHレベルとその後の排卵数の間に有意な相関関係が認められた。以上のことから3α-diol免疫によるヒツジの排卵率の向上が可能である事、そして免疫によるFSHレベルの増加が排卵率の向上に関与している事が示唆された。

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乳牛における子宮角超音波画像の解析(J. Reprod. Dev. 47: 17-25, 2001)

齋藤康倫1,3)・加茂前秀夫1)・田中知己1)・町田 登2)・金田義宏1)

1)東京農工大学農学部・家畜臨床繁殖学研究室
2)同・家畜病理学研究室
3)千葉県農業共済組合連合会・中央家畜診療所

 牛子宮の超音波画像を解析する基準を明らかにするため、食肉センターで採取したホルスタイン種乳牛16頭の摘出子宮を水中に浮遊させて子宮角の超音波画像検査を行うとともに、同部位の組織切片を作製し、両者の所見を比較した。さらに、子宮角の一部を切除して同様に超音波画像検査を行い、同部位の組織切片と比較検討した。加えて、肉眼的に識別できる子宮角横断面の各層に21-G注射針を刺入して超音波画像検査を行うとともに、その部位に墨汁を注入し、針先の位置を組織学的に確認した。その結果、水浸法による超音波画像検査で描出される子宮角横断画像において、子宮内腔側から輝度の高い層、輝度の低いリング状の層、中間の輝度の高い層、輝度の低いアーチ状の層および最外側の輝度の高い層の5層が識別された。さらに、実施した全ての実験において、水浸法による子宮角超音波画像検査で明確に描出される子宮壁中央部に位置する輝度の低いリング状の層とその外側に認められる輝度の低いアーチ状の層はそれぞれ輪筋層と縦筋層に相当することが確認された。これらのことから超音波画像で識別される5層は、子宮内腔側からそれぞれ1)子宮内膜、2)輪筋層、3)血管層、4)縦筋層および5)子宮外膜の5層に対応することが明らかになった。

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ウシおよびブタ卵巣における卵胞退行に伴うI、IIIおよびIV型コラーゲンおよびこれらのmRNA局在の変化(J. Reprod. Dev. 47: 27-36, 2001)

中山瑞穂・眞鍋 昇・山田-内尾こずえ・宮本 元

京都大学大学院農学研究科・生体機構学研究室

 卵巣内では性周期毎に卵胞の発育と退行が繰返され、それに伴って著しく卵胞構造が変化する。細胞外マトリックス(ECM)はこのような卵胞構造の変化に関与しており、その局在変化を明らかにすることは卵胞発達、退行の制御機構を知る上で重要である。以前我々は卵胞退行に伴う顆粒層と卵胞膜におけるアポトーシス発生開始部位がウシとブタ間で異なることを示した。本研究ではECM(I、IIIおよびIV型コラーゲン)の局在とこれらのmRNA発現部位をウシとブタの卵巣間で比較した。両者の健常卵胞ではIIIとIV型コラーゲンは主に卵胞膜に局在していたが、これらのmRNAはブタの健常卵胞では顆粒層により多く発現していたのに対し、ウシの健常卵胞では内卵胞膜に多く発現していた。卵胞退行に伴ってブタ卵胞ではIとIV型コラーゲンが顕著に減少したが、ウシ卵胞では著明な変化を認めなかった。これらの知見はECMが卵胞の発育と退行に深く関与していることを示唆しており、ウシとブタ間でECM産生部位に差があることは卵胞退行におけるアポトーシス発生開始部位に種差があることと関連している。

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雌仔ウシおよび成熟雌ウシの末梢血中プロジェステロンとエンドセリン濃度の変化:PGF投与の影響(J. Reprod. Dev. 47: 37-43, 2001)

大谷昌之1)・沖 直子2)・谷村弥由根2)・小林修一2)・トマス J. アコスタ2)・林加奈子2)・宮本明夫2)

1)帯広畜産大学・附属農場
2)同・畜産管理学科

 黄体期中期の成熟雌ウシにプロスタグランジンF(PGF)を投与すると、血中プロジェステロン(P4)濃度が急速に減少し、黄体退行が誘起されることはよく知られている。この黄体退行現象にウシ黄体内で産生されている血管作動性ペプチドのエンドセリン-1(ET-1)が関与していることが示されている。私達は、これまでに黄体退行から排卵が起きる時期に末梢血中のET-1濃度が上昇することを見い出した。しかしながら、このET-1濃度の上昇は卵巣機能や雌仔ウシの日齢に直接関係しているかについては明らかではない。そこで本研究は、1) 発情周期を通して、血中ET-1およびP4濃度の変化を詳細に観察すること、2) 新生児、120日齢および240日齢雌仔ウシの血中ET-1およびP4濃度の変化を観察すること、3) PGFアナログ投与による血中ET-1濃度の変化を成熟雌ウシと仔ウシとで比較・検討することを目的とした。成熟雌ウシの末梢血中ET-1濃度は、黄体退行期から排卵時期にかけてパルス状に増加し、最も高値を示した。一方、黄体期初期〜後期は低値を維持した。春機発動前の雌仔ウシにおいては、どの日齢でもET-1およびP4濃度は成熟雌ウシに比べて低く、周期的な変化も見られなかった。さらに、PGFアナログ投与によっても、成熟雌ウシのようなET-1濃度の上昇は見られなかった。結論として、雌成牛の血中ET-1濃度は、自発的およびPGFによって誘起された黄体退行の開始後パルス状分泌を伴って上昇した。この現象は、春機発動前の0、120および240日齢の雌仔ウシには見られないことから、血中ET-1濃度の周期的変化は、卵巣と子宮の機能の周期的変化と直接的に関係していることが示唆された。

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胚性幹(ES)細胞に導入されたMyogenic-LacZレポーター遺伝子のin vitroにおける発現(J. Reprod. Dev. 47: 45-52, 2001)

小薗井真人・伊藤和衛・高橋寿太郎

岩手大学農学部

 β-ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子に連結したマウスマイオジェニン遺伝子調節領域をネオマイシン耐性遺伝子と結合させ、電気穿孔法によってESD3胚性幹(ES)細胞に導入した。遺伝子導入細胞は増殖させた後、LacZ遺伝子をプローブとしてサザンハイブリダイゼーションに供した。遺伝子導入亜株は核型分析および胚様体形成能によって選択し、導入遺伝子の発現解析に使用した。導入遺伝子は未分化状態では発現しなかった。浮遊胚様体では、導入遺伝子は胚様体内部で部分的に発現した。幾つかの胚様体では、導入遺伝子は単純胚様体(SEBs)の縁において、また、胞状胚様体(CEBs)の内壁において斑状に発現した。分化培養システムでは、導入遺伝子は細胞レベルで発現し、LacZ遺伝子発現細胞の分極化が観察された。これらの結果は、我々の亜株がマウス筋形成の解析のための骨格筋特異的細胞マーカーとして有効であることを示唆する。

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絶食による視床下部および延髄孤束核でのc-Fosタンパクの発現について:特にカテコールアミンとテストステロンの役割(J. Reprod. Dev. 47: 53-62, 2001)

Reyes, Beverly Selda1)・ 束村博子2)・山田佐紀子1)・Estacio Maria Amelita C.1)・前多敬一郎1)

1)名古屋大学大学院生命農学研究科・動物生殖制御学
2)同・バイオモデリング

 雌のラットにおいて、48時間の絶食は黄体形成ホルモン(LH)の分泌を強く抑制する。この抑制反応は、エストロジェン依存性であり、ノルアドレナリン作働性神経によって仲介されていることが知られている。雄ラットでも同様の絶食がテストステロン依存的にLH分泌を抑制する。本実験では、絶食開始後に活性化される神経核を同定することを目的とし、絶食開始後6、24、30および48時間後に視床下部および下位脳幹におけるFosタンパクの発現とテストステロン処置の効果を検討した。絶食は13:00に開始した(暗期開始は19:00)。テストステロン処置去勢ラットでは、Fos免疫陽性細胞は絶食開始後6時間で、室傍核、孤束核A2領域、視索上核および扁桃体において有意に増加していた。しかし、24、30および48時間後では、有意な上昇はみられなかった。一方、去勢ラットでは、いかなる時間帯においてもこれらの神経核におけるFos免疫陽性細胞の増加はみられなかった。テストステロン処置ラットにおいて発現したFos免疫陽性細胞を同定するためtyrosine hydroxylaseおよびdopamine-β-hydroxylaseとの2重染色を行ったが、Fosとの共存はみられなかった。本実験の結果から、絶食は開始後最初の暗期において視床下部および脳幹の特定の神経核を活性化すること、さらにこの活性化はテストステロン依存性であることが示された。さらにFos免疫陽性細胞がカテコールアミン陽性ではなかったことから、他の神経系が48時間の絶食の初期に働いていることが示唆された。

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胎盤組織培養系におけるウシ胎盤性ラクトジェンの免疫反応性と生物活性(J. Reprod. Dev. 47: 63-67, 2001)

高橋 透・麻生 久・橋爪一善

農林水産省畜産試験場

 妊娠55、130、140、146および270日齢に採取した胎盤組織から分泌されたウシ胎盤性ラクトジェン(bPL)の免疫反応性と生物活性を検討した。胎盤小葉、子宮小丘、子宮内膜上皮、子宮間質組織を採取してその一定量(120〜130 mg)を細切し、3 mlのダルベッコ修正イーグル培地で24時間培養した。培養上清中のbPL濃度とプロラクチン(PRL)様生物活性をラジオイムノアッセイとNb2バイオアッセイで測定した。子宮小丘と胎盤小葉の培養上清中のbPL濃度は、他の組織よりも高かった。bPL濃度は、子宮小丘では妊娠中期(140日前後)まで増加し、末期(270日)まで高値が維持されたが、胎盤小葉におけるbPL分泌量は妊娠末期に増加し、子宮小丘の約3倍に達した。培養上清のPRL様生物活性は、胎盤小葉で高く、子宮小丘で低かった。またPRL様生物活性は、胎盤小葉、子宮小丘共に妊娠中期で高く、末期で低かった。培養上清中のbPLは、モノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット法によっても検出されたが、その検出パターンはラジオイムノアッセイよりもNb2バイオアッセイによる測定成績を反映するものであった。以上の成績から、胎盤組織培養系におけるbPL分泌とその生物活性は、子宮小丘と胎盤小葉で異なり、妊娠経過とともに変動することが示された。

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