書評

生物化学実験法シリーズ51
DNAメチル化研究法

塩田邦郎・服部 中 編 

学会出版センター談社
A5判 250頁
定価3990円(本体価格 3800円)
ISBN 4-7622-3052-9



 エピジェネティクス。繁殖生物学も含め生命科学の研究分野に身をおくものであれば、この言葉がキーワードとなる文献がここ数年の間に飛躍的に増加していることを感じているに違いない。それでは「エピジェネティクス」とは何か?「エピジェネティクス」とは「細胞世代を超えて継承され得る、塩基配列の変化を伴わない遺伝子機能について研究する学問領域」を意味する。われわれの体を構成する約200種類の細胞は、すべて同じセットの遺伝子をもっている。にもかかわらず各細胞の機能は大きく異なり、しかも個体の生涯を通じて細胞分裂後も各細胞特有の遺伝子発現のみが許され、他の遺伝子発現は厳しく抑制されている。広く知られている転写調節因子による遺伝子発現制御機構が電球の明るさを調節するコントローラーであるとすれば、エピジェネティクスによる制御はその点灯をon/offするいわばメインスイッチのような役割を果たすものである。すなわちエピジェネティクスは、比較的安定なゲノム配列と急激に変化するRNA発現の中間に位置する制御機構を追求する生命科学の新たなパラダイムと位置づけることができる。エピジェネティクスによる遺伝子発現の制御は、DNAのメチル化、ヒストンのアセチル化やメチル化により行われる。本書は、このエピジェネティクスによる遺伝子発現制御の主役であるDNAメチル化を中心とし、さらにその周辺技術に関する実験方法についてまとめたものである。内容はゲノムワイドなDNAメチル化状況の解析法、特定の遺伝子のメチル化状況の解析法をはじめとした各種実験方法に加え、周辺技術として一般的な遺伝子工学手法、幹細胞の培養方法など広くカバーしたものである。DNAメチル化を中心とした遺伝子発現のエピジェネティクス制御は、初期胚の発生や細胞の分化などだけでなく、内分泌攪乱物質が細胞・個体に与える影響の評価、体細胞核移植によるクローン動物の正常性評価などへの応用面も含め、繁殖生物学に関わる研究者にとっては今後無視することのできない重要な研究分野になるに違いない。また本書には随所に図や写真が使われており、これからDNAメチル化の研究を始めようとする研究者にとって、その実験手法を学ぶ上で参考になることは言うまでもないが、DNAメチル化の研究に直接携わらない研究者にとっても、文献を読んだ際にその中で使われている実験手法を具体的にイメージする上でも大いに役立つものと思われる。

(東京大学大学院農学生命科学研究科・獣医生理学 山内啓太郎)


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