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書評
アニマルテクノロジー 佐藤英明(東北大学大学院農学研究科教授) |
【JRD2004年2月号(vol.50, No.1)掲載】
ぼくは、手元に置いておく本は少ないほどいいと思っている。できれば、これ一冊あればいい、という古典があればそれで満足だ。このお気に入りを繰り返し繰り返し読む。そういうよい本は、繰り返し繰り返し読んでも飽きず、読むたびに得ることがある。と、言いながらも、食い散らかすようにあれこれ読んでしまっている。よい本になかなかめぐり合わないからだ。で、「アニマルテクノロジー」はどうだろう。
これまで多くの類書が出版されてきた。が、どれを読んでもいつも不満だった。どれもこれも「バイテクはこんなに儲かりまっせぇ」と株屋の新聞のように儲け話ばかり書いていた。「そんなことあんたに言われなくてもわかってる」とつい呟き、「でもなぁ、ほんまに儲かる話やったら他人には話さんやろぉ」とついつい思ってしまうぼくがいる。そんな本がうんざりするほど出版さてきた。ぼくがこんなに皮肉屋さんでなく、純真無垢で星目がちな学生だったころ、世には「緑の革命万歳」というたぐいの本がどっさりあった。緑の革命はいいことずくめで、人類は食糧危機から逃れられるという夢のストーリーだった。あの熱狂から30年たって振り返ってみると、一体あれは何だったんだろう。閉鎖され打ち捨てられて雑草に覆われようとする田舎のテーマパークを眺めるような、なんともやるせない気分になってしまう。
「アニマルテクノロジー」は、6章から構成されていて、第1章では過去、第2章では現在、第3章と第4章では未来(体細胞クローン、遺伝子操作などの先端テクノロジーは食料生産だけでなく、臓器移植や不妊治療などヒトの医療分野にも積極的に応用されている)について丁寧に解説されている。ぼくが最もお奨めしたいのは第5章と第6章。ここには、安全性の問題と対応策、動物倫理の視点からの考察などが正直に述べられ、歴史への深い反省と考察を基盤とした将来への展望が語られている。特に入門レベルの学生諸氏には、先端技術がもつ両面性を隠すことなく語りかけてくれる本書をお奨めする。
目 次
第1章 アニマルテクノロジーの系譜:その誕生と展開
第2章 家畜を生産する:アニマルテクノロジーの現場から
第3章 先端技術を駆使する:アニマルテクノロジーのフロンティア
第4章 応用技術を展開する:アニマルテクノロジーの広がり
第5章 安全性を考える:アニマルテクノロジーの課題
第6章 アニマルテクノロジーの未来:その挑戦と責任
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