学会参加記
第38回フィリッピン畜産学会年次学会に参加して

中尾 敏彦
(広島大学大学院国際協力研究科 開発技術講座)

JRD2002年6月号(Vol. 48, No. 3)掲載




 昨年の10月18、19日の二日間、フィリッピン畜産学会(PSAS)の第38回年次学会が、マニラで開催された。筆者は、PSAS会長の招きにより、日本繁殖生物学会からの派遣という形で、学会への参加の機会を得た。そこで、PSASの活動と今回の学会の概要を紹介してみたい。

 PSASは、獣医学と畜産学の研究者によって1963年に設立され、第1回の学会は、1964年に、マニラで開催された。以後、現在まで、毎年、年次学会が開催され、会員数は1000名を越すまでになっており、国内に4つの有力な支部を持っている。この学会の特徴は、畜産学と獣医学の関係者が調和よく融合していることである。

 学会の主な活動は、(1)年数回の特別講演会(Lecture Series)、(2)農家、学生、技術者などへの普及活動(Outreach Program)、(3)機関紙の発行(学会誌とニューズレター)、および(4)年次学会の開催である。2001年度を例にとってみると、Lecture Seriesでは、「21世紀におけるフィリッピンの養鶏産業」のテーマの下で、二人の講師を擁して、国内各地で3回講演会を開催している。Outreach Programでは、遠隔地において、農家を対象とした家畜の生産と衛生に関するセミナーを開催するとともに、各戸訪問による狂犬病ワクチン接種を実施した。学会誌(Philippine Journal of Veterinary and Animal Sciences)は、年2回発行されており、他に、The PASA Dispatch というニューズレターを年3回発行している。年次学会は、その年の学会活動の総決算ともいえるもので、例年10月頃にマニラで開催され、毎回、全国から400名以上の参加がある。ただ、2002年度の年次学会は、フィリッピン南部の会員からの強い要望により、セブ島で開催の予定である。

 筆者が参加した、2001年度年次学会は、「バイオテクノロジー、その家畜と家禽への有効利用」の全体テーマの下で、マニラ市内の高級ホテルで、約350名の参加者を集めて開催された。

 第1日目の午前の開会式における記念講演は、フィリッピン農業省次官による「持続可能な農業へのバイオテクノロジーの応用」で、より生産性が高く、しかも抗病性に優れた家畜を、早くしかも効率的に生産するためには、バイオテクノロジーの応用が不可欠であることが強調された。引き続いて、Plenary Sessionでは、筆者の「家畜の繁殖成績の向上と生産性向上のためのリプロダクテイブバイオテクノロジーの応用」についての講演と、フィリッピン大学医学研究所のバイテク部門の研究員による「Post Genomic Eraにおける新薬の発見」という講演が、それぞれ、1時間ずつ行なわれた。

 PSAS会長からは、当初、「日本におけるリプロダクテイブバイオテクノロジーの進歩とその家畜改良への応用」というテーマでの講演の要請があった。筆者としては、このテーマでの講演を引き受けることは困難であり、他に適任者がいる旨回答したところ、テーマは変えてもよいから、引き受けて欲しいとの再度の要請があった。そこで、結局、牛の繁殖上の問題点とその対策としてのバイオテクノロジーの応用を中心に述べ、日本におけるクローン技術等の応用の現状を紹介するということに落ち着いた次第である。なお、クローン技術の応用の現状については、農業生物資源研究所居在家義昭先生から貴重な資料の提供を受けることができた。記して謝意を表したい。

 1日目午後からは、2日間にわたって、6つの分科会に分かれて、59題の一般講演(ポスター発表5題を含む)が行なわれた。分科会名は、解剖と生理、繁殖と育種、栄養と飼養、Waste Management、動物の健康と福祉、農業副産物の処理と利用である。発表は、大学の教官によるものが大部分で、教授達の顔見世興行的なところもないではなかったが、院生や学部学生のものもあった。内容的には、必ずしも、国際的評価に耐えうるものではなかったが、英語でのプレゼンテーションそのものは、日本の学会での発表者よりも格段に優れており、この点は見習わなければならないであろう。発表の8割以上は、Power pointを利用していた。

 今回の発表演題の中から、JRDに投稿できそうなものを発掘できないかと考えていたが、残念ながら、推薦できるようなものは見当たらなかった。学会における研究活動は、まだ発展途上にあるといえるかもしれない。

 フィリッピンでは、財政的な事情で、国内で費用のかかる研究を行なうことが困難で、多くの研究者は、外国で大学院教育を受けている。こうした若手の研究者たちが中心となって、国内での研究を活性化させることが重要と思われるが、その意味でも、この学会の果たしている役割は大きいといえる。今後の発展を大いに期待したい。

 最後に、PSAS年次学会への参加の機会を与えられた日本繁殖生物学会に深謝する。


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