施設紹介

北海道立畜産試験場

南橋 昭(受精卵移植科長)

JRD2002年6月号(Vol. 48, No. 3)掲載




■概 要

 北海道には道立の農業・畜産試験場が10場あり、それぞれ異なる地域と研究分野を担当しています。そのうち3つが畜産分野担当の試験場です。天北農業試験場は道北地域で飼料作物、草地土壌など、根釧農業試験場は釧路根室地域で酪農、牧草、酪農施設などを担当しています。北海道立畜産試験場(道立畜試)は、担当地域は全道で、肉用牛、中小家畜、畜産バイテク、家畜衛生などを担当しています。当初は、大家畜担当の新得畜産試験場と中小家畜担当の滝川畜産試験場の2場がありましたが、再編により統合し、北海道内畜産の拠点的な研究施設として2000年4月に新たなスタートを切りました。

 道立畜試は、十勝の北西の端に位置する新得町の市街地から3kmほど離れた日高山脈オダッシュ山の麓にあります。総面積は1,600haで、肉用牛660頭をはじめ、乳牛、豚、めん羊、鶏、馬など多種の試験用家畜家禽を保有しています。職員は約160名で、そのうち約60名が研究職員です。


■組織と研究内容

 道立畜試は、総務部、家畜生産部、畜産工学部、環境草地部および技術普及部の5部編成です。家畜生産部は、黒毛和種の改良や系統豚の造成、家禽の資源保存技術、高品質の牛肉、SPF豚肉、ラム肉の低コスト生産等に関する研究を担当しています。畜産工学部は、ウシの生産病、感染病、泌乳生理、クローン等の胚操作、DNA等の遺伝子関連などの研究を行なっています。環境草地部は、草地飼料作物の栽培技術、飼料評価法、糞尿の環境負荷低減や堆肥化技術等の研究を担当しています。技術普及部は、普及と研究との連携、研究成果の体系的な普及、地域関係者との連携強化を図るための新しい組織で、普及指導と地域プロジェクト研究を進めています。


■胚移植関連研究

 道立畜試における胚移植関連研究は、1982年に始まりました。当時は、この分野の研究を行う専門の部署は無く、いろいろな部署からの混成チームが、北海道獣医師会金川会長をはじめ、北大獣医高橋教授や北海道農業開発公社大樹育成牧場山科副場長らにご指導いただき、ウシの胚移植に取り組みました。その後、生物工学科が新設され、ウシの凍結胚移植、体外受精、性判別、核移植など、また、ドサンコ(北海道和種馬)を用いた胚移植にも取り組んできました。再編でバイテク分野が強化されて受精卵移植科と遺伝子工学科の2科体制となり、現在では、遺伝子関連研究にも取り組んでいます。

 受精卵移植科は、名前の通り胚の採取、凍結保存、移植を日常業務として体外受精、核移植などに取り組んでいます。1年間に延べ150〜200頭の牛から1,500〜2,000個の胚を採取しています。1994年に初めて胚クローン牛作出に成功して以来、これまでに71頭が誕生しています。胚盤胞への発生率は30〜50%程度と体外受精胚の発生率にほぼ近い成績が得られるようになり、2002年5月には1胚から8頭のクローン産子を得ることにも成功しています。体細胞クローン牛は1999年に最初の産子を得て以来、これまでに4頭が誕生しています。本技術はトランスジェニック家畜の生産に不可欠な技術であり、引き続き様々な検討を進めています。今年度からはウシES様細胞をクローン胚生産に利用する課題に着手する予定です。また、応用面では、胚移植技術や核移植技術の黒毛和種産肉能力検定への利用があります。これは、胚移植により生産した全兄弟牛のうち1頭を候補牛とし、残りの全兄弟牛を肥育してその肉質で候補牛の産肉能力を判定しようというものです。この方法により、2000年度に黒毛和種種雄牛「深晴波号」を造成しました。さらに、全兄弟牛の代わりに胚クローン牛を用いた産肉能力検定法を検討しています。

 遺伝子工学科は、PCR法やLAMP法など分子生物学的な手法を用いた技術開発に取り組んでいます。2002年1月に1つの胚から採取した少数の細胞を用いて、遺伝性疾患(バンド3欠損症)の診断および性判別を同時に行う方法を開発し発表しました。また、DNA/RNAキメラプラストを用いて数塩基の塩基配列を入れ換えることができる遺伝子修復技術により遺伝性疾患を克服する技術の開発を行っています。さらに、短時間に定温で大量に遺伝子を増幅することができる新しい遺伝子増幅法であるLAMP法と当場で特許を取得したウシ雄特異的DNA配列を組み合わせ、簡易、迅速で低価格な性判別キットの開発を行っており、2002年3月から試験販売を開始しました。


■おわりに

 時代と共に組織体制はいろいろ変化しますが、今後も胚移植や体外受精をベースにしながら、核移植技術と分子生物学的手法などをうまく組み合わせて、北海道畜産の発展に少しでも貢献できるよう日夜努力を続けて行きます。


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