「畜産学および家畜臨床繁殖学領域の体系」

畜産学および家畜臨床繁殖学領域の問題点

　畜産学の役割は消費者に安全な畜産物を供給し、他方、家畜臨床繁殖学では甚大な被害を被る家畜の疾病を防除し、生産性を高めることである。畜産学は、狭義の畜産学領域と、獣医学における家畜臨床学領域に大別される。就中、狭義の畜産学は家畜を合理的に飼育、改良して、生産部門、利用加工部門、畜産の経営・経済部門を体系づけるものである。【1】生産部門は、動物学を基盤として［形態学、生理学、内分泌学、分子生物学、遺伝子操作学、家畜育種学、家畜衛生学、家畜管理学］等に区分され、また動物の化学を基盤として［家畜栄養学、家畜飼育学］等に区分され、さらに植物学を基盤として［飼料生産学、草地学］等に区分される。その他の部門には【2】利用加工部門、【3】畜産の経営・経済部門等がある¹⁾。

　他方、家畜臨床繁殖学は、近年、著しく理論的・技術的に進歩した部門で、【1】生殖器の構造及び生殖子に関する学問、【2】生殖機能の内分泌学に関する学問【3】性成熟期及び発情周期に関する学問、【4】人工授精に関する学問、【5】繁殖の人為的支配に関する学問、【6】胚の移植に関する学問、【7】受精・着床・妊娠・分娩に関する学問、【8】繁殖衛生学に関する学問、【9】妊娠期の異常および難産・死産に関する学問、【10】分娩後の異常に関する学問、【11】泌乳器疾患の異常に関する学問等がある²⁾。

　畜産学および家畜臨床繁殖学を基礎とする学問の中で、両者の間の大きな差異は、後者には各種疾病に関する技術・学問が存在することである。なかでも牛に関する生殖器疾患、妊娠期、分娩期、産後の疾患、新生子疾患、泌乳器疾患等の繁殖衛生上の問題がある。また、前者には最近、体細胞によるクローン胚の作成、また、これに関わる流産、死産、難産、胎盤の異常等の家畜の疾病に関わる問題がある。わが国では畜産学と家畜臨床繁殖学は、長期間にわたり独立して存在してきた学問であるが、そのためか家畜臨床繁殖学（獣医学）では飼料面、経営面で失格視され、また畜産学では疾病面で大きな損失があるとされている。両者を現状のままで維持されるべきか否かは、今後、熟慮すべき時機にあると考えられる。

乳牛、和牛の飼育頭数の変化³⁾

　わが国における乳牛および和牛の飼育頭数は飼育戸数と関連して、近年、著しく変化している。戦後の昭和24年度には、乳牛の飼養戸数は134.7（×1,000）戸で、飼養頭数は177.7（×1,000）頭（※1.3頭：※は飼養戸数1,000戸に対する飼養頭数1,000頭の割合、以下同じ）となり飼養頭数は著しく減少している。これに対して、昭和31～32年度には飼養戸数は急激に増加して283.2～336.5戸となり、これに伴い飼養頭数は497.4～586.8頭（※1.8～1.7頭）に増加している。昭和38～39年度には飼養戸数、飼養頭数ともに増加して、飼養戸数の417.6～402.5戸に対して飼養頭数は1,145.4～1,238.3 頭（※2.7～3.0頭）を示している。また、昭和47～48年度には飼養戸数の242.9～212.3戸に対して、飼養頭数は1,819～1,780頭（※7.5～8.4頭）と増加し、昭和57～58年度には飼養戸数が98.9～92.6戸と減少して、これに対して飼養頭数は2,103～2,098頭（※21.3～22.7頭）と増加している。

　わが国では昭和50年前後から多頭羽飼育が急激に増加し、飼育戸数は漸次減少している。これに伴い諸外国から小麦、大麦、玉蜀黍、ライ麦、高梁、その他グレーンソルガム等の濃厚飼料が豊富に輸入され、国内における飼料の運搬速度は急激に延び、昭和61～63年度の乳牛における飼養戸数は78.5～70.6戸、飼養頭数は2,031～2,017頭で、1戸当たりの平均飼養頭数は※26.8～28.6頭に増加している。また、平成10～13年度の飼養戸数は37.4～32.2戸、飼養頭数は1,860～1,726頭で、1戸当たりの平均飼養頭数は※49.7～53.6頭に増加している。しかし、この飼養頭数の大幅増加は、単に飼養戸数が減少したからであり、絶対的なものとはいえない。肉牛についても同様なことがいえる。

　肉牛については、戦後の昭和24年度は飼養戸数は1,853戸、飼養頭数は2,092頭（※1.1頭）で、飼養頭数は急激に減少している。その後、昭和30～31年度には飼養戸数は2,280～2,319戸に若干増加し、飼養頭数も2,636～2,719頭（※1.2頭）と僅かに増加している。その後、昭和44年前後には多頭羽飼育の影響で飼養戸数は988.5戸と減少し、飼養頭数は増加して1,795頭（※1.8頭）に達している。昭和54年度には、飼養戸数は380.8戸と低下したが、飼養頭数は2,083頭（※5.5頭）と著しく増加している。平成元年度には、飼養戸数は246.1戸と低下し、飼養頭数は2,651頭（※10.8頭）と前年度の2倍に増加している。平成13年度には、飼養戸数110.2戸と大きく減少し、これに対して飼養頭数は2,804頭（※25.4頭）と大幅に増加している。

畜産学領域における研究環境

　従来より、わが国における乳牛および和牛の飼育環境は、一部は農家の実務者が関与しているが、大部分は畜産学の研究者によるものであった。就中、わが国の飼育環境は牛の飼料給与、サイレイージの調整、調達を始め子牛の生産、哺育、育成、さらに分娩、乾乳、泌乳等の繁殖管理、飼養施設、糞尿処理等の多岐にわたっている。なかでも最近注目を浴びている問題には、人工授精、精液の凍結保存、繁殖の人為的支配、胚の凍結保存、胚の移植、クローン牛の作成等があり、これらの問題は胚や精子の遺伝子操作に関わる発生工学的研究として重視されている。

1）繁殖の人為的支配：

Fig. Regression of corpus luteum and the follicular development occurring after interrupting successive intrauterine injections with iodine solution in the cow.

^*1 Treatment cycle length, ^*2 Days between the last treatment and ovulation, ^*3 Days after ovulation.

�Intrauterine injection with iodine solution, * Interruption of treatment, ↓Ovulation, �.....� Corpus luteum, ○─○Follicle.

家畜（牛）におけるジェスタージェン投与法
　卵胞の発育、成熟を一時的に抑制する技術である。一群の雌畜にジェスタージェンを投与して、発育がほぼ同時期に揃った時点でこれの抑制を解き、発情、排卵の集中化を図る方法である。
牛の黄体機能の調節による方法
　牛において排卵後1～3日の黄体の新生期に子宮内に異物（ゴム管）を挿入すると、その際の性周期は10.7±1.9日と著しく短縮する。また排卵後7～8日に処置を施すと、性周期は16.6±1.3日となり、異物挿入前の性周期と比較して明らかに短縮した⁴⁾。その後、子宮内に異物の代わりにある種の液状粘性物質を注入してその影響を調べると、黄体初期注入例では性周期は短縮し、黄体後期注入例では延長するが、その他の時期の注入例では変化しないことを認めた⁵⁾。この際、液状粘性物質の子宮内注入後、本物質が子宮内に貯留している期間は比較的短く、かつ注入後子宮粘膜に一過性の炎症性変化が生ずることが認められた。このことから、性周期に変化を惹起する刺激物の本体は単に子宮腔の拡張という物理的刺激によるものではなく、粘膜に対して炎症性変化を与える化学的物質が関与することが示唆された⁶⁾。次に液状粘性物質の代わりに炎症性物質の一つとしてヨード溶液（Lugol氏液）を子宮粘膜内に注入したところ、液状粘性物質を注入した場合とほぼ同様の性周期の変化が得られた⁷⁾。そこで、炎症性刺激物質であるヨード溶液を排卵日および黄体期の2～7日（黄体初期）、9～15日（黄体中期）、16～17日（黄体後期）に子宮内に注入すると、発情前期と発情後期の牛の排卵日を除き、全ての牛はこの処置により発情同期化が可能であることが示唆された⁸⁾。次に総頭数282頭の黒毛和種において、ヨード溶液を子宮内に注入して、発情同期化の有無を検討した結果、216頭（76.6％）において、排卵後6～12日の正常性周期牛（198頭）、および1性周期遅れた排卵後25～32日の鈍性発情牛（18頭）において正常発情が得られた⁹⁾。著者らは牛の子宮内にヨード溶液を注入して子宮粘膜に炎症を誘起すると黄体の寿命は処置の時期が黄体初期であれば短縮し、黄体後期であれば逆に延長することを立証して、この現象は子宮粘膜における黄体退行因子の産生が促進あるいは抑制される可能性を推測した¹⁰⁾。牛においてヨード溶液子宮内注入後の末梢血中progesterone（P）値の消長は、排卵後3日の黄体初期の処置例では、処置後の性周期は9～12日に短縮し、排卵後17日および18日の黄体後期の処置例ではそれぞれ29日および27日に延長した。しかし、黄体開花期（排卵後11日目）に処置した1例のＰ値には変化が見られなかった¹¹⁾。著者らは子宮内にヨード溶液を注入すると黄体の寿命は処置の時期によって短縮あるいは延長されることを認め、この現象は子宮粘膜における黄体退行因子の産生が促進あるいは抑制されることを示唆し、またこの黄体退行因子は子宮から卵巣に直接伝達されることが認められた¹²⁾。当時、Pharriss, B.B.¹³⁾がProstaglandin（PGF_2α）には黄体を退行させる作用があることを報告して以来、繁殖領域における本物質の生理的役割を追求しようとする関心が急激に高まってきた。
　著者らは放牧牛52頭において、蒸留水0.75 mlに溶解したPGF_2α4 mgあるいは6 mgを、黄体期に黄体の存在する卵巣と同側の子宮角に注入した結果、45頭が発情し、残りの7頭は処置後9日ないし16日の間に発情が発現した。これらのことからPGF_2αによる発情同期化法に成功した¹⁴⁾。また牛においてPGF_2α溶液注入後の末梢血中progesterone値（P値）の消長は、排卵後2～4日の黄体初期の処置例では、8頭中4頭では性周期の12～17日に短縮しP値も縮小したが、他の4頭には顕著な変化は認められなかった。しかし排卵後4日および5日に連続処置した2頭の末梢血中P値は処置後8日に短縮した。黄体開花期の処置例では、排卵後9～11日に処置した3頭はいずれも処置後4日目に排卵して、未梢血P値は排卵後13～15日に短縮した¹⁵⁾。昭和52年前後に、中原は共同研究者の百目鬼と共にヨード溶液とPGFとの関係を追求するために、前任地で豊富に入手した凍結保存の子宮組織を活用したが、この計画は見事に失敗に終わった。それはSwedenの農業大学獣医学部門のH. Kindahl博士らがヨード溶液に関する著者らの文献を引用して、PGFに関する論文の作成に成功したからである¹⁶⁾。

2）胚の凍結保存：

急速凍結法
　【凍結保護剤の使用】一般に受精卵の凍結保存に使用される緩衝液には20～25％の牛胎仔血清（FCS）を含むPBSが用いられる。凍結保護剤にはグリセロール、DMSO、エチレングリコール、PVP、ショ糖液等が用いられる。
　【凍結保護剤の添加】受精卵を25℃で5分間置換し、DMSOの濃度をそれぞれ0.25M、0.5M、0.75M、1.0M、1.25Mの各段階に添加する。さらに同温度で30分から60分間平衡後、冷却を開始する。
　【植氷温度】牛の受精卵移植は、-1.0℃/分で植氷温度-4～-7℃付近まで低下し、さらに-0.3℃/分で-35℃まで下降させる。-36℃までは-0.1℃で下降した後に、-100℃あるいは-196℃に投入する。
　【融解】37℃前後の微温湯で急速融解し、良好な成績が得られる。発情後7日に採取した受精牛を凍結融解すると、胚盤胞の受精率は初期盤胞あるいは後期桑実胚の受胎率に比べて有意に高いという¹⁷⁾。
一段階ストロー法
　【凍結保護剤の添加】鈴木ら（1985）は20%の牛血清を含むPBSに0.25M、0.5M、1.0Mの順序でグリセリンを添加し、10分間隔で浸漬し、最後に15分間保持する¹⁸⁾。
　【ストローへの添加】長さ133mm、液量0.25mlのストローに、順次長さ10mmの10%ショ糖液層、7mmの空気層、60～70mmの10%ショ糖液層、5mmの空気層、9～10mmの受精卵を含むグリセリン液層、5mmの空気層、9～10mmのショ糖液層になるように封入する。
　【凍結方法】室温から、-1℃/分で、-7℃まで冷却し植氷後10分間保持する。次に-0.3℃/分で、-30℃まで冷却し10分間保持した後、液体窒素中へ浸漬する。
　【融解】ストローを38℃の微温湯に直接浸漬すると、グリセリン液層とショ糖液層が接触する。綿栓部を下にして垂直にウオーターバス内に立て、10分間静置する。比重の軽いグリセリン液層が上部に停留するので、その部分をストローカッターで切除して、移植器に装着する。
直接移植法
　一段階凍結法はストローの作製法およびストロー内での希釈法等がやや複雑であるが、直接移植法はこれらの点を簡易化した方法である。さらに直接移植法には、浸透圧に対して緩衝作用の強いショ糖等の細胞膜非透過性耐凍剤、あるいは細胞膜透過性の高いエチレングリコール、あるいはプロパンデイオールのような耐凍剤が使用される。すべての凍結操作は急速凍結法に準じるが、特に異なる点は、室温で保持した凍結溶液に胚を一段階で移植し、直ちにストローに吸引して、10～15分間保持して平衡させ、その後、凍結操作に移ることである。融解後は、耐凍剤の除去を行わずに直ちに移植する。この方法は基本液に対する耐凍剤の添加、除去を簡易化しうる利点がある。

3）胚の生産法：
　胚移植に使用する胚の生産には3つの方法がある。

過剰排卵誘起法：
　優れた遺伝資質をもつ供胚牛に、ホルモン剤を筋肉内投与して過剰排卵を誘起し、これに人工授精を施して得られた体内受精胚を回収して使用する¹⁹⁾。
体外受精法：
　種々の遺伝形質を有する牛の卵巣から未成熟の卵母細胞を採取して、体外培養により成熟させる。これに、予め受精能を誘起した精子を用いて培養液中で受精させこの体外受精胚を生産する技術である²⁰⁾。
核移植法：
　核移植卵とは発生の進んだ1個の胚から多数の割球（ドナー核）を採取して、これを1個ずつ除核未受精卵（レシピエント細胞質）に移植して、同一遺伝子を有する胚を多数作出する技術である。除核した未受精卵にドナー核を移植すると、核移植卵は受精直後の卵子と同様に分裂を開始する。英国のWilladsenら（1986）は予め染色体を除去してある、めん羊の未受精卵の卵細胞質に8～16細胞期胚の割球を、電気融合法により融合させた。この核移植卵を寒天で二重包埋して、めん羊の卵管内へ移植して、5～7日間生体内培養して得られた桑実胚－胚盤胞期胚から子羊を得ている。この実験が家畜の核移植の最初の成功例である。この技術は各種家畜において核が発生のどの時期まで全能性（totipotency）を維持できるかを知る上でも重要である²¹⁾。

4）クローン牛の作成：

体細胞クローン羊の形成
　英国ロスリン研究所のI.Wilmut博士が1997年2月23日に、6歳の羊に由来する培養乳腺細胞をドナー核とした、体細胞クローン羊「ドリー」の誕生を、世界で初めて報告した。Wilmut博士らは細胞を培養する際、培養に必要な牛血清濃度を通常の20分の1程度に抑える培養法（牛血清飢餓培養）を使用し、細胞周期を静止期に移すという操作を加えている。彼らは同じ条件で移植した277個の体細胞のうち、1個から正常な個体を得ている²²⁾。
体細胞クローン牛の形成
　1998年7月5日に石川県畜産総合センターでは、近畿大学農学部畜産学研究室（角田幸雄教授）との共同研究で、牛の卵管を採取して、その核を別の雌の未受精卵に移植し、元の牛と遺伝子が同一の雌の双子の誕生に成功している。細胞を栄養の少ない状態（牛血清飢餓培養）に培養し、受精卵の核に『全能性』を持たせ、初期化を可能にしている。牛における成体体細胞クローンの生産は、この研究が世界で最初であるという²³⁾。
　日本では、牛における体細胞クローン研究が急速に進歩しているが、これはクローン牛と同等の良質な産子の生産を得ることを目的にしたものである。しかし、このような『体細胞クローン』牛には、死産、生存直後の死亡、心臓肥大、胎盤の異常等が多発し、計画通りに産子が得られないことが問題視されている。英国ロスリン研究所では「ドリー」を遺伝子組み換え羊に用い、企業との共同研究を行っている。さらに最近では、ヒトの臓器移植に用いることを目的に、体細胞クローン豚の研究も盛んに行われている。

家畜臨床繁殖学領域における各種疾患の発生

　家畜臨床繁殖学分野における牛の妊娠・分娩期および産後の疾患には［乳熱、習慣性流産、難産、胎子過大、胎子多胎、ミイラ変性、胎子浸漬、胎膜水腫、長期在胎、子宮捻転、子宮脱、産褥熱、胎盤停滞、産前・産後の起立不能症］等があり、泌乳器疾患としては［甚急性乳房炎（急性、慢性、潜在性、乾乳期、未経産牛乳房炎）、乳房水腫、乳房浮腫］等がある。また生殖器病には［卵巣疾患：卵胞嚢腫、黄体嚢腫、卵巣静止、卵巣萎縮、排卵遅延、無排卵、鈍性発情、発育不全黄体、嚢腫様黄体、黄体遺残］、［子宮疾患：子宮内膜症（急性カタル性、慢性化膿性、慢性肥厚性、潜在性）、子宮蓄膿症、子宮粘液症、子宮萎縮、子宮炎、膣脱］等がある。これらの疾患は年々増加しているという。

　平成11年度の家畜共済統計表の死廃事故別頭数によると、乳牛（雄）では、疾患牛の合計119,650頭のうち、泌乳器疾患が18,891頭（15.8％）、妊娠・分娩期および産後の疾患が18,256頭（15.3％）、生殖器疾患病が2,328頭（1.9％）で、合計33.0％が繁殖障害による死廃事故牛であるという。肉用牛の死廃事故頭数は合計73,628頭のうち、新生子異常が14,878頭（20.2％）、妊娠・分娩および産後の疾患が986頭（1.3％）で、合計21.5％が繁殖障害による死廃事故牛であるという²⁴⁾。

　乳牛における育成期の発育不全が、その後の子畜の発生に大きく影響を与えているという。また分娩直前から分娩後の泌乳直前には、熱量要求量が増加し、反面、乾物摂取量が低下するため、熱量は著しく不足に陥るという。このことが低熱量あるいは低蛋白質の給与をきし、繁殖衛生疾患牛の多発に繋がるという。さらに優性卵胞の成熟と排卵が抑制され、卵巣静止を引き起こし、黄体機能の低下を引き起こし、繁殖成績は低下するという。また、繁殖機能の低下は、発情微弱、発情持続時間の短縮等にも関連し、最近、乳牛の発情持続時間は、平均7時間程度といわれ、このことが鈍性発情の増加、発情発見率の低下に繋がるという。また、泌乳器疾患は、妊娠期、分娩期および産後の異常疾患とほぼ同時期に起こるという。このような牛における繁殖生理学的また栄養生理学的変化の追求が繁殖成績向上の支えになるという。

おわりに

　稿を終えるに当たり、推薦の労をお取りいただき、特に体細胞クローン牛の作成に全面的にご共力をいただき、また草稿のご校閲をいただいた、東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科・動物発生工学研究室、河野友宏教授に厚く御礼申し上げます。なお、牛の「黄体機能の調節」に関する中原の研究は、共同研究者山内亮先生（元日本獣医畜産大学教授）をはじめ百目鬼郁男（現東京農業大学農学部教授）、金田義宏（元東京農工大学農学部教授）、加茂前秀夫（現東京農工大学農学部教授）等の諸先生の多大のご援助をいただいたことに深謝申し上げます。また、中原は平成2年秋に宮崎大学農学部で開催された獣医学会において、この研究に対して越智賞受賞の栄誉に浴しましたことを会員の皆様に厚く御礼申し上げます。

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