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施設紹介 近畿大学先端技術総合研究所 加藤博巳 |
【JRD2001年12月号(Vol. 47, No. 6)掲載】
近畿大学先端技術総合研究所は1997年に、文部省のハイテクリサーチセンター構想の一環として近畿大学に設立された非常に新しい研究所です。本研究所は、近畿大学生物理工学部の生物工学科、遺伝子工学科、電子システム情報工学科、機械制御工学科および基礎機械工学科の5学科をバックボーンとして、基本的には医学部、薬学部、農学部、農場、水産研究所などの関連学部・研究所との21世紀に向けた学際的/複合的な共同研究を考えており、広く生物工学、遺伝子操作、バイオテクノロジー全般を駆使することによって、新型の有用な遺伝資源生物の生産と効率的な増殖技術の開発を目的として、高度の基礎研究にとどまらず、実用的な産業への応用研究にも視点を注いでいくことを目指しています。
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■研究所の概要
本研究所は和歌山県海南市の海南インテリジェントパーク内に位置し、緑豊かな山に囲まれ、また、海にも近く、豊かな自然に包まれています。建物は二階建て鉄筋コンクリート作りで、一階部分が977 m2、二階部分が396 m2そして屋外に独立して設置されている閉鎖系温室が102 m2となっており、総床面積は1,475 m2となっています。その中に実験室等は動物飼育室が5室、植物培養室が3室、その他RI実験室、遺伝子移植室、DNA生化学実験室など、各種実験室11室を設置しています。
これらの実験室を含み、本研究所は主に3つのパートに分かれています。一つ目は西棟の一階および外部に別棟として存在する閉鎖系温室を含む部分であり、大動物飼育室、中小動物飼育室、資源保存室、手術室、遺伝子移植室および閉鎖系温室からなっています。このパートには人工気象器、マイクロマニュピレーターによる顕微操作システム、炭酸ガス培養器を設置し、動植物を問わず、遺伝資源生物の生産を中心に、その飼育・栽培・維持・管理を行っています。二つ目は東棟の一階の部分で、遺伝子組換動物飼育室、恒温室、細胞処理実験室、細胞機能分析室、初期胚保管室およびRI実験室からなっています。このパートではFISH画像解析装置、走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)、共焦点レーザースキャン顕微鏡、フローサイトメトリーおよびミクロトーム等を設置しており、細胞機能の解析や各組織のin situ ハイブリダイゼーションによる遺伝子発現の観察などの個体中での遺伝子の発現・機能解析を中心とした研究が行われています。三つ目は東棟の二階の部分で、DNA機能解析室、DNAシークエンス室、DNA操作室およびDNA生化学実験室からなっています。このパートではキャピラリーDNAシークエンサー、シークエンスデテクター(リアルタイムPCR装置)、タンパク質微量分析装置等を設置しており、遺伝子情報の解析および遺伝子の発現の結果としてのタンパク質の解析と分析を中心に研究が行われています。
■研究分野の構成とその内容
本研究所の研究上の組織は、専任教官3名および兼任教官11名によって構成されており、これらの研究者によって行われている研究分野は三つに大きく分けることができます。
その一つは、ほ乳動物の細胞や配偶子および初期胚を使用して、受精および発生の研究を通じて、受精現象そのものの研究や、発生の各時期における各遺伝子の発現を検討する研究、および特定の遺伝子を各種生物の組織や細胞からクローニングし、また、得られた遺伝子を外来遺伝子としてほ乳動物初期胚へ注入して、そのような遺伝子を過剰発現する形質転換動物を作出し、その遺伝子の生体内での働きを研究する、動物遺伝子工学分野です。より具体的には、ウサギ配偶子を用いた卵子細胞質内精子注入法による胚発生に必要な精子構成成分の研究や、ブタ成長ホルモン遺伝子を過剰発現する形質転換ウサギ作出の研究、ウシクローン胚における胚性遺伝子の発現開始時期の研究、遺伝子銃を用いた形質転換ウズラ作出の研究および脂肪酸不飽和化酵素を発現した形質転換ブタ作出の研究などがあり、また、体細胞クローン技術を用いたクローンウシの作出は和歌山県畜産試験場と共同研究を行っています。
二つ目は、植物を材料として、主に飼料作物においてウイルス耐性株の効率的な検出や、飼料作物の実用形質の効率的な育種のための新たな変異原の効率的な利用、また、人工的な制御下でより効率的な植物の生産を目指す植物分野があります。この分野での具体的な研究内容としては、恒温室内ではコンピューター制御による植物工場の研究が、そして人工気象器中では耐病性の検討のためにイネが栽培され、それぞれ成果をあげています。
三つ目の分野としては、各種微生物または無脊椎動物を利用して内在する遺伝子の探求と解析を行い、その利用をはかろうとすることと、他の生物からクローニングされた遺伝子を微生物内で発現を誘導し、作られたタンパク質の構造および作用機構を明らかにする、海産動物・微生物分野があります。この分野の具体的な研究内容としては、生物においてカルシウム等のミネラルが結晶化する過程(バイオミネラリゼーション)の研究の中で、アコヤ貝の真珠層形成に関与するタンパク質群の分離と同定およびそれらタンパク質をコードするcDNAの塩基配列の決定が行われており、また、グラム陽性菌であるBacillus thuringiensisが胞子形成期に形成する殺虫タンパク質の、よく保存された領域を元にしたdegenerate primerによる、この遺伝子をもつ菌の簡便なスクリーニング法の開発と、この殺虫タンパク質の活性の検討が行われています。
開所以来まだ日の浅い研究所ですが、現在までにDr. I. Wilmut、Dr. R.J. Wall、Dr. R. Yanagimachi、Dr. T. Wakayama、Dr. W. Eyestone、毛利秀雄国立基礎生物学研究所所長らの諸先生方を迎え、生物理工学研究所セミナーが9回開かれています。いささか手前味噌になりますが、セミナー後、諸先生方を案内してこの研究所を見せるとき、彼らは異口同音に「すごい設備だ!」と感嘆されていました。このように恵まれた環境・設備のもと、研究に従事する教官は日夜頑張っておりますので、近い将来にすばらしい研究成果が本研究所より次々と報告されると確信しております。最後に、会員皆様が本研究所近くへおいでの際には、ぜひお立ち寄りください。
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