施設紹介

京都大学霊長類研究所
人類進化モデル研究センター

鈴木樹理

JRD2001年8月号(Vol. 47, No. 4)掲載




■京都大学霊長類研究所の所在

 霊長類研究所は京都大学の附置研究所ですが、京都にはありません。名古屋から名古屋鉄道犬山線の急行に乗って40分、犬山で下車し徒歩15分、住宅街を抜けて坂道を上がりきるとくたびれたコンクリートの建物が見えると同時にかぐわしい動物飼育施設特有の匂いがしてきます。裏手には財団法人日本モンキーセンターがあり、さまざまな交流を持っています。昔、外国から来た研究者が、市の名前を犬山から猿山に変えたらと、真面目に言ったという話があるように、霊長類を研究している施設と人間が日本で最も多い所です。霊長類研究所というとチンパンジーのアイとアユム、が真っ先に思い浮かぶ方が多いと思いますが、他にも人間を含めた霊長類を対象に生態学、古生物学、心理学から神経生理学まで多様な研究が行われています。


■霊長類研究所及び人類進化モデル研究センターの概要

 霊長類研究所(以後研究所と省略)は、霊長類に関する総合的研究をおこなう目的で、全国の研究者の共同利用研究所として、昭和42年(1967年)6月1日、京都大学に附置、設立されました。国内に48ある国立大学共同利用機関の一つです。以来30年にわたって霊長類の生物学的特性の研究で多くの成果をあげてきました。

 研究所が創設されて1年後、人類進化モデル研究センター(以後センターと省略)の前身である附属サル類保健飼育管理施設(以後サル施設と省略)が設立され、研究所で飼育、実験されているサル類の健康管理と供給および飼育・繁殖や疾病・成長等に関する研究を担う事になりました。以来、教官3(助教授1、助手2)名、教務職員1名、技官6名、非常勤職員3名および併任の施設長によって、野生個体に依存しない自家繁殖体制による実験用サルの生産と供給、健康管理を行ってきました。そのためにキャンパス内に3つの放飼場や育成舎、屋外グループケージおよび屋内の飼育室を持ち、21種約800頭を飼育し実験研究のサポートをしています。サル施設時代の主な研究成果には、日本で初めてチンパンジーの人工授精に成功し3頭の子供を得たことなどがあげられます。

 1994年にはチンパンジーの居室・実験室と実験使用中のサル類の居室をメインに、その上にヒトの居室が乗っかった、類人猿行動研究実験棟が完成し、本棟地下に飼育されていたサル達を明るい新ケージ室へ移動することができました。研究所では、善し悪しは別として、全ての建物で下にサルが住み上にヒトが住むようになっています。冷暖房などは、サル達が優先され、ヒトは肩身の狭い思いをしながら研究をしています。

 1999年から創出育成研究領域、健康統御研究領域、生命倫理研究領域および行動形成研究領域からなる人類進化モデル研究センターに改組され、教官が7(教授2、助教授3、助手1、客員教授1)名となり組織が充実するとともに、従来の業務と研究に「新たな研究用サル類を作り出す」という大きな宿題が加わりました。センターの名前は、人類進化のモデルとなる新たな研究用サルを創出するという目標に由来します。


■センターの研究

 新たな研究用サル類とは何でしょうか?現在、サル類はヒトと近縁であることから、医学分野を中心に実験動物として様々な研究に用いられています。しかし、今までの研究成果からみると、未だに野生動物としての性質を色濃く残しており、家畜やネズミやウサギなどの実験動物とは質の違う、実験用動物であるのが実情です。これを少しでも「実験動物」に近づけようとするための研究が始まりました。また、現在、世界的に動物に対する福祉の充実が提唱されていますが、この問題にも積極的に取り組んでいます。私自身は、本紙に掲載された論文のような成長に関する形態・内分泌学的研究の他に、研究所のサル類が飼育・実験環境下で受けるストレスに注目して、これらのストレスの把握及びその軽減手段の研究をしています。更にストレス反応を利用した神経・内分泌・免疫系の関連を、特に心理的ストレスに焦点を当てて、所内外の研究者と共同で研究しています。


■終わりに

 ご紹介したように、私の所属するセンターは、霊長類の研究に特化した実験動物施設です。センターの研究活動の詳細については、研究所のホームページ(http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/index-j.html)をご覧下さい。また霊長類研究所は国立大学共同利用機関であり、所外の研究者を共同利用研究員として受け入れる制度が整っています。我々と一緒に、または独自にサルの研究をしてみたい方がおられましたら、是非共同利用研究員にご応募下さい。詳しくはこれも研究所のホームページを参照下さい。

 サルの研究をしているとどういう訳か顔がそれに似てきます。最後に我々スタッフの代わりにサルの写真を載せます。似ているでしょうか?

  
創出育成研究領域 健康統御研究領域
  
生命倫理研究領域 行動形成研究領域



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