家畜繁殖研究会誌の誕生

 本学会誌が家畜繁殖研究会誌として産声を上げて約半世紀、21世紀を迎えた節目に際し、「家畜繁殖研究会誌」第1巻第1号に掲載された、「発刊の辞」および「本会のあゆみ」を振り返ります。

JRD2001年2月号(Vol. 47, No. 1)掲載


(注)表記は原文のままとしました。


家畜繁殖誌1巻1号(1955.3月発行)


発刊の辞


会 長   島 村 虎 猪


 本研究会の発足以来熱望されていた機関誌が、このたび各方面からの多大な援助によって刊行されるに至ったことは誠に喜びにたえない。


 獣医・畜産両学会があるにも拘らず、本会がつくられたのは目標を同じく「家畜繁殖」におく研究者が相寄り、忌憚なき意見の交換・討論を十分に行い、研究の進展とその成果の普及を図るために他ならない。


 凡そ研究は個々の用意周到な実験・観察と正確な記載に始まり、その集積を検討吟味し、その結果に基き新たな実験・観察を反復且つ吟味して後初めて学術的成果或は優れた術式が得られるものである。従って正確な観察・記載であれば、少数例の実験成績或は一治療例と雖も貴重な研究報告であって、かかる報告の掲載こそ本誌刊行の第一の目的というべきであろう。


 会員諸君の奮闘と協力とにより本誌が号を重ねる毎に発展することを念願してやまない。


 いささか所感を述べて発刊の言葉とする。


本会のあゆみ


理事長   斎 藤 弘 義


 私達の会が昭和23年に発足してから8年目の今日に至りようやく機関誌第1号を発刊する運びとなりましたことは御同慶に堪えません。


 今度誕生しました私達の機関誌は決して、戦後の流行のようにさえ見える雑誌発行の波に乗ってできたものでもありませんし、又資金的に余裕があるから雑誌でも作ってはというので出来たものでもありません。本会はじまって以来の会員各位の念願が結晶して、相当苦しいやりくりを経て現われたものです。


 このような点から見ましても、今後この会誌がどういう育ち方をするかはわかりませんが、関係者としてはこれが無事すこやかに成長して本会の使命を立派に果す大きな原動力となることを祈る次第です。


 この機会に本会の誕生から現在迄の経過を記して、この会誌発行の動機を明らかにし、又同時にこの間御協力御援助を賜わった方々に感謝の意を表明したいと存じます。


 終戦後の混乱時代、あのごたごたの中をどうにかこうにか同士手をとりあってきりぬけ今日の基礎をきずいたと思うと感慨無量であります。家畜繁殖の分野は他の既成の学問のように長い歴史やいわゆる老舗的な背景がなかったので、新しい時代に適応した外国に負けないような線まで出ようとするのには大変な苦労があった訳です。外国文献も入手困難、研究費もなかなかとれない、すべての点で壁にぶつかってしまうというこのような時に各関係者がお互に協力し助けあってその道の発展を少しでもはかりたいというのがこの会のはじまった動機でした。


 丁度畜産局衛生課がこの方面の現場的な仕事を一部持っておりました関係から、その連絡及び世話役を引き受けることになり、昭和22年12月24日次のような趣意書が各関係者に出されました。


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 家畜の急速なる増殖は我が国今後の再建上きわめて緊要なる事項にして過般畜産審議会において家畜増殖の目標及びその実施計画などについて協議せられましたが、これが目的達成には畜産技術の滲透及び繁殖技術の高度応用によって家畜の繁殖率を向上することがもっとも実行容易にして効果あるものと思料せらるる次第です。


 従って多年家畜の反所に関して御研究中の各位に対しては種々御教示を賜りたく又今後の御研究に対して期待するところが極めて大なるものがあります。


 しかして更に家畜繁殖に関する学理及び技術の進歩並びにその普及を図るため各研究機関及び研究者相互の連絡を目的として……打合せ会……を計画いたしましたので御繁忙中のこととは存じますが何卒御出席の上家畜繁殖に関する研究業績及び計画などについての御高説、御教示をうけ賜りたく願い上げます。

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 かくして第1回の打合せ会が翌23年1月15日畜産試験場(現農技研、千葉)で開かれ、次のことが決定されました。

  1. 本打合せ会は今後家畜繁殖研究会の名のもとに永続させる。
  2. 本会は家畜繁殖の実際面からの要求に応じた問題を中心として相互連絡の上研究を推進、これによって得た成果を迅速に応用面に反映する。
  3. 現在家畜の繁殖に関する行政及び研究に従事するものによって組織する。
  4. 事業内容

    イ.一定研究題目の綜合研究
    ロ.家畜繁殖に関する研究の相互連絡会議の開催
    ハ.参考文献の蒐集及び交換
    ニ.技術の滲透

又当面の重要研究項目として次の事項があげられ、それぞれの研究担当者を決めこれらの研究に対してこの会から出来るだけの援助をすることが決りました。

  1. 人工排卵
  2. 人工授精
  3. 卵巣嚢腫
  4. 子宮内膜炎

そして1月22日家畜繁殖研究会の結成を畜産関係団体、学校、官庁に通報いたしたのです。当時の会員は33名で全く少人数のグループに過ぎませんでした。なお本会の正式な設立総会は昭和23年4月20日東京大学農学部教官会議室で第1回の研究発表会開催の機会に行われたのです。その時、役員や会則を一応決めましたが、当時は会則などにあまりこだわることなく、和気あいあいのうちに会を進めようではないかということで、会は運営されて来ました。当時の役員(理事)は

  加藤 浩、星冬四郎、吉田信行、川島秀雄、三浦道雄、星 修三(常務)、斎藤弘義(長)


 このようにして始めは同好者の懇談会みたいなものから次第にどうやら会らしい姿に発展して、毎年獣医学会や畜産学会など、会員が東京へ集る時を利用し、学会で発表した項目を討議したり、研究途上にある事項を発表しあい、今後の研究方法などについて会員相互でその研究に関し建設的意見を述べ合って研究の促進をはかってきました。


 又外国文献が入手困難であったので文献集や購読雑誌の目録を印刷して配布したり、海外視察に行った会員を囲んで談話会を催したりして、家畜繁殖に関する海外の研究事情を知ることに努めると共に、わが国の繁殖に関する研究業績を海外に紹介することにも努めました。


 又繁殖技術の滲透のためには、日本獣医師会主催の家畜繁殖に関する講習会に、本会から講師を推せんして協力し又「家畜人工授精のテキスト」の出版や前後5回にわたる会員の研究報告抄録の印刷配布を行いました。


 これらの事業については、各方面からの御助力があり、ことに武田薬品工業株式会社からは特別な御援助を頂きました。ここに深く感謝する次第です。


 このように本会が逐次活溌な活動をするに及んでその存在も獣医、畜産関係者の中に知れわたり、会員の数も増加するようになりました。そうなると今迄のような申し合せ的な会ではいけないような気運となり、昭和28年4月7日の通常総会で本会の性格などについて討議が行われ、次のようなことが決ったのです。

  1. 会の性格に学会的なものを多少もたせる。
  2. 会誌の発行を考える。
  3. 会費を徴収する。
  4. 以上の仕事をするに都合のよいように会則を改める。
  5. 会員の増加をはかる。


 以上のようないきさつで現在の会則が出来たのです。


 本会誕生の初めから多年熱望されてきました会誌の発行もようやく機が熟して今日その第一号が発刊される運びとなりました。これは友田製薬株式会社の理解ある御援助によるもので、その御厚意を深く感謝いたします。


 会誌発刊にあたりまして次のことについて会員各位の一層の御協力をお願する次第です。それは、たとえ現在はこの雑誌が頁数も少い小さなものでありましても、将来その内容において又その目標において少くともわが国の家畜繁殖についての有力な指導雑誌にまで育て上げることと、その運営を一日も早く自力で十分に果たせるようになることとであります。


 なおこの際特につけ加えたいことは本会の運営活動について創立当時から常包、深田、宇南山、大塚の諸氏が並々ならぬ献身的な蔭の努力を尽して来られたことであって、会員一同と共に厚く御礼を申し上げる次第です。


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