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希少鳥類の人工繁殖と野生復帰に向けた取り組み

坪田敏男(岐阜大学農学部獣医学科)




 先の3月7・8日の両日、岐阜大学において“ワークショップ:野生動物医学の最前線”が開催された。その後の2日間、オプショナル・ツアーとしてコウノトリの郷公園を実地見学させていただいた。参加者は、学生を中心に全国から約100名に上った。今回のワークショップの開催は、主に岐阜大学内の教育研究改革・改善経費によって賄われ、日本野生動物医学会、(財)岐阜コンベンション・ビューロー、サル類の疾病と病理のための研究会ならびに岐山毒性病理研究会の後援が得られた。その開催目的は、平成13年度より本学で始まった「野生動物医学」の講義内容をより深く理解してもらうため、野生動物医学の最前線で活躍している研究者の生の声を聞いてもらうことと、今後さらに岐阜大学における野生動物医学研究を発展させるための礎を築くことであった。幸い、講師の方々の熱心な講演のおかげで当初の目的を果たせたのではないかと自己評価している。大学での仕事しか知らない学生にとって、まさに現場の生の声は魅力溢れるものだったのではないかと思う。


 ここでは、繁殖学に関わる部分だけを抜粋してご紹介したいと思う。2日目の第2部では、“希少鳥類の人工繁殖と野生復帰に向けた取り組み”が取り上げられた。現在、日本ではトキとコウノトリがその問題の急先鋒として位置している。すなわち、1970〜80年代にその個体数は激減し、トキについては雌のキンが1羽残されただけであるし、コウノトリに関しては1971年に日本固有のものは完全に消滅するに至った。両種とも人里近くの田園を生息地とすることもあって、狩猟の対象になったり、農薬など化学物質汚染の被害を受けたりして、その数を減らしたとされている。その結果、外国産の個体を日本に導入して、飼育下で増殖を図っているのもまた共通する点である。現在、トキは18羽、コウノトリに至っては153羽にまで数を増やし、彼らは主にトキ保護センター(新潟県佐渡島)およびコウノトリの郷公園(兵庫県豊岡市)で飼育されている。各々、関係者のご努力により、長い年月をかけて暗中模索の中で増殖法が確立されてきた経緯がある。また、この分野では先進国といわれるアメリカ合衆国において、世界的に絶滅危惧種に指定されている種が多いツル類の人工繁殖と野生復帰が、国際ツル財団(ウィスコンシン州)を中心にして実践されている。今回、講演をいただいたDr. Julia Langenberg(Dr. Joshua Deinが代理発表)によると、人工孵化は勿論のこと初期胚での性判別や精液の凍結保存なども行われている。また、人間に対して‘刷り込み’が起こらないようにするためのハンド・パペッティングや渡りの飛行ルートを教えるための軽飛行機による誘導など、新しい試みを取り入れながら野生復帰計画が実行に移されている。


 おそらく日本におけるトキやコウノトリについても、これからが第2段階ともいうべき野生復帰の実行であり、そのための環境整備や意見集約が図られているところである。今回のワークショップとオプショナル・ツアーの中で何度も強調されていた点は、野生動物の野生復帰計画では、単に自然科学的発想だけで事が進められるのではなく、社会科学的、人文科学的あるいは科学以外の地域活動などが一体となった時はじめて事業が成功するのだということである。地元の方々の野生動物に対する愛情や地道な活動などがこの事業を支えていることを痛感させられた。トキやコウノトリが再び大空を舞う姿を見られるのもそう遠くない日のことのように思えてきた。



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