TECHNICAL TIPS
テクニカルチップス

レーザーマイクロダイセクション法

櫻田陽右
代田欣二

麻布大学附置生物科学総合研究所


【JRD2004年12月号(vol.50, No.6)掲載】


1. はじめに

 Laser Microdissection (LMD)法は、顕微鏡にレーザー照射装置が接続された機器を使って、顕微鏡下で組織切片を観察しながら、切片上の標的とする細胞塊をレーザーによって切り出し、採取、回収することのできる新しい研究ツールである。この手法は、生体組織から標的細胞群を採取することができる為、生体内において特定の遺伝子が、組織を構成する様々な細胞のうち、どの細胞にどれだけ発現しているのかを正確に知ることができる。すなわち、採取した標的細胞群が、それを取り巻く生体内の微細環境によってどんな影響を受けているのかを、直接知ることが可能となるのである。
 これまでの研究では、生体組織の細胞内に発現しているmRNAの局在を可視化する手法として、in situ hybridization (ISH)法が広く用いられており、近年の技術開発によって局在性を高く保ちながら、高感度に検出することが可能となっている。しかしながら、ISH法では、遺伝子を発現している細胞の局在を特定することができる反面、それを発現量と結びつけることは困難であり、LMD法はこの弱点を補う強力な解析手法であると言える。LMD法は、病理学分野における病理発生の研究に広く用いられて来ているが、繁殖学領域における研究においても、既に精細管を精子形成のステージごとに分類して採取し、各ステージにおける、精細管に発現する遺伝子の動態について検索した報告がなされている [1]。
 LMDの装置としては、各メーカーより数機種が販売されているが、レーザーの種類、組織回収法、解像力などに相違があることから、研究者の目的に最も適したものを選択することが望ましく、実際に利用する場合は検討が必要である。しかし、装置自体の操作及び使用には特別な技術を必要としないことから、既に遺伝子及び蛋白などの解析技術を有している研究室では、導入に際して特に苦慮することはない。
 本法では組織切片からレーザーにより標的細胞塊を採取することから、作製した組織切片にカバーグラスを被せる事が出来ず、その為組織を乾燥させる必要がある。また、mRNAの発現解析には未固定組織の凍結切片を用いることが殆どであり、現状ではLMDに供与する組織切片には高い解像度を望むことが出来ない。その為、解像度を改善し、なおかつ分子生物学的ないし生化学的解析に影響を与えない固定法についての検討も行われている。固定法として、ホルマリン固定、パラフォルムアルデヒド固定、ブアン固定、エタノール固定、アセトン固定、メタカルン固定などが検討されているが、詳細は文献を参照していただきたい [2,3]。

2. LMD法の実際

 我々は、LMD法とreal-time PCR法とを複合させて、目的とする細胞塊における局所的遺伝子発現量の解析を行っている。ここでは、採取した組織から切片を作製し、real-time PCRによる遺伝子発現解析を行うまでの全工程について、フローチャートを用いて簡単に紹介したいと思う。
 LMDに供する切片は、用途により固定法、染色方法等様々であるが、今回は我々がmRNAの発現解析を行う際に選択している、新鮮凍結切片を用いた手法を紹介する。

1) 切片作製(図1)
 生体から取り出した組織を、OCTコンパウンド中に包埋して急速凍結し、凍結切片作成時まで−80℃にて保存する。新鮮凍結切片は、定法に従いクリオスタットを用いて作製し、LMD用のフィルムがスライドに貼り付けてある特殊スライドに組織を貼付する。(図1)

図1 切片作製

2) 染色(図2)
 凍結切片をのせたLMD用スライドを、以下の順で固定、染色を行う。
 (1) スライドを1分間風乾する。
 (2) −20℃の冷凍庫内で70%エタノール/DEPC処理水で15秒間浸漬して固定する。
 (3) エタノールをDEPC処理水中で10秒程度洗い流す。
 (4) 0.05%のトルイジンブルー染色液に15秒間浸漬して、簡易に染色する。
 (5), (6) 再度DEPC処理水で染色液を洗い流す。
 (7) 切片を十分に風乾させる。
 この染色は、採取する組織を顕微鏡下で選択しやすくすることが目的であるが、長時間の染色工程はRNAの保存度に影響することが考えられる為、できる限りすばやく行うことが望ましく、染色後は直ぐに実験に用いることをお勧めする。

図2 染色

3) 組織の切り抜きと回収法(図3)
 我々が使用しているLMD装置(Leica Laser Microdissection System;ライカ社)は、UVレーザーで直接組織を焼き切り、装置下部に設置されたチューブのキャップに組織を回収する形式を採用している。
 図3に示したように、切片上の組織が下になるように、スライドをひっくり返した状態で顕微鏡にセットし、パソコンのモニター上に映し出された、組織の顕微鏡画像を観察する。
 目的とする細胞塊を特定して、パソコン画面上でのマウス操作によりレーザーで切り抜く部位をトレースして、UVレーザーにより組織を切り抜く。
 あらかじめRNA抽出バッファーで満たされたキャップ内に、切り抜いた組織を回収する。キャップ内に入れるバッファーの量は、チューブの大きさにより調節するが、我々が使用している500µlのPCRチューブ(平型キャップ)であれば、50µl程度入れることができる。

装置へのスライドの設置(組織を下にする)

切り抜き
 目的とする細胞塊を特定して、パソコン画面上でのマウス操作によりレーザーで切り抜く部位をトレースして、UVレーザーにより組織を切り抜く。


細胞の回収
 あらかじめRNA抽出バッファーで満たされたキャップ内に、切り抜いた組織を回収する。キャップ内に入れるバッファーの量は、チューブの大きさにより調節するが、我々が使用している500µlのPCRチューブ(平型キャップ)であれば、50µl程度入れることが出来る。
図3 LMDによる切り抜きと回収法

図4 mRNA抽出とreal-time PCR
4) mRNA抽出とreal-time PCR(図4)
 細胞を回収したチューブのふたを閉め、スピンダウンによりキャップ内にあるバッファーを、チューブ底部に集める。回収した組織の量により、適宜バッファーを追加して、そのままRNAの抽出工程に入る。
 RNAの抽出はキアゲン社のRNeasy Mini Kitを用いており、基本的な工程については、メーカー提供のプロトコールに従い行っている。
 LMD法で最も気になることは検出感度である。DNase処理による、RNA量の減少を防ぐ為、我々はキアゲン社から提供されている、メンブレン上で行えるDNase処理法を採用している。
 この方法はシリカゲルメンブレンを用いたRNAの抽出法であることから、最後にRNAを水に溶出し、RNA溶液として回収することになる。その後の解析の都合上、できるだけ濃い状態のRNA溶液を得るために、我々はこのキットの最小溶出量である30µlのDEPC処理水で溶出させ、回収したこの溶液を再度メンブレン上に乗せて、二度同じ溶液で溶出させる方法を選択している。最近では、これより少ない量での溶出が可能なキットが開発、販売されている。
 逆転写反応によるcDNAの合成にはキアゲン社のSensiscriptを用いているが、我々は他社と比較したデータを持ち合わせていないので、抽出や酵素の感度に関しては、既報の論文を参照していただきたい [4]。
 最終的に得られたcDNAから、特定のmRNAの発現量をABI社のPRISM7700を用いて解析している。

3. LMD法の卵巣顆粒層細胞層における遺伝子発現解析への応用法
 我々の研究室では、実験腎炎モデルラットにおける腎炎病理発生機序の研究に、このLMD法を用いている [5]。この実験モデルでは、腎糸球体に障害が誘発されるので、腎臓の組織切片から腎糸球体のみをLMD法により採取し、その病態に関連すると思われる特定の蛋白質をコードするmRNAの発現動態を、real-time PCR法を用いて解析をしている。臓器全体の変化ではなく、その中の特定の組織を解析することが可能となることから新たな知見が提供されるものと期待している。
 さらに我々の研究室では、卵胞の顆粒層細胞層における特定のmRNAの発現動態解析に、このLMD法の応用を試みている(図3の写真)。しかし、卵胞を構成する細胞は、卵胞の発育段階によって発現する遺伝子とその量を変化させ、また、退行した卵胞も健常な発育卵胞とは遺伝子発現動態が異なると考えられるので、組織採取の際には目的と異なる卵胞、あるいは解析の対象ではない状態にある卵胞の混入を避ける工夫をしないと、誤った解析結果をもたらす危険性がある。したがって、LMDの卵巣組織での応用には十分な注意が必要で、我々は免疫染色などを行うことにより、それらの問題点に対処する方法を検討している。

4. おわりに
 LMD法は局所的遺伝子発現を解析する手段として、大変有用である。特に、卵巣のように、様々な発育ステージにある卵胞と黄体とが間質や結合組織の中に混在する複雑な組織において、その応用が期待される。しかし、前述のように、限られた解像度の下で目的とする組織を探し出す方法など、解決すべき問題点はまだ残されている。今後、そうした問題が解決されることにより、従来のマクロ環境からのアプローチに加えてミクロ環境からのアプローチによって様々な卵巣機能が明らかにされるものと期待される。


References
1. Sluka P, ODonnell L, Stanton PG. Stage-specific expression of genes associated with rat spermatogenesis: characterization by laser-capture microdissection and real-time polymerase chain reaction. Biol Reprod 2002; 67: 820-828.
2. Shibutani M, Uneyama C. Methacarn: a fixation tool for multipurpose genetic analysis from paraffin-embedded tissues. Methods Enzymol 2000; 80: 114-125.
3. Shibutani M, Uneyama C, Miyazaki K, Toyoda K, Hirose M. Methacarn fixation: a novel tool for analysis of gene expressions in paraffin-embedded tissue specimens. Lab Invest 2000; 80: 199-208.
4. Boylan S, Honda S, Hjelmeland LM, Handa JT. An optimized protocol for first strand cDNA synthesis from laser capture microdissected tissue. Lab Invest 2001; 81: 1167-1169.
5. Inoue K, Sakurada Y, Murakami M, Shirota M, Shirota K. Detection of gene expression of vascular endothelial growth factor and flk-1 in the renal glomeruli of the normal rat kidney using the laser microdissection system. Virchows Arch 2003; 442: 159-162.

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