施設紹介

理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンター
(理研 BRC)遺伝工学基盤技術室

小倉淳郎

【JRD2003年6月号(Vol. 49, No. 3)掲載】


■理研BRCとは
 理化学研究所(理研)は、その名前の通り、物理学および化学の我が国最初の総合研究所として設立されました。現在は全国に5つの研究所が9つのキャンパスに分かれて、物理学、化学、工学そして生物学の幅広い学問研究が行われています。理研BRC(森脇和郎センター長)は筑波研究所内に平成13年度に設立された、日本のバイオリソースの収集保存事業のための施設です。事業の本体(リソース基盤開発部)は細胞、遺伝子、実験動物(マウス)、実験植物(シロイヌナズナなど)、情報の5つの部門に分かれています。

■研究内容とメンバー紹介
 私たちの遺伝工学基盤技術室は、その事業本体の脇にくっつけられたような独立室で、バンク事業をサポートするために設立された技術開発部門です。現在は、胚・精子凍結、顕微授精、核移植クローン、幹細胞樹立が業務の4本柱です。職員は4人で、すべて昨年2月に国立感染症研究所(感染研)から移ってきました。学生の三木さんも感染研で一緒に仕事をしてくれていましたので、研究室のメンバーはもうおたがいに長いつきあいです。以下、研究内容の説明を兼ねて、研究室のメンバーを以下に紹介します。
 ・胚・精子凍結:バンク事業の心臓部である日常のリソース保存業務を支えています。凍結のプロである持田慶司が、昨年に理研BRC のマウス胚・精子凍結のシステムを一から立ち上げ、現在約50系統/月のペースで凍結保存を続けています。彼は高知大の葛西孫三郎先生や熊本大の中潟直己先生とも常に情報交換をして技術開発にも力を注ぎ、スナネズミおよびマストミス(アフリカ産小型齧歯類)の胚凍結保存にも初めて成功しています。
 ・顕微授精:マウスの顕微授精は、既に技術的に確立されており、現在はその応用の段階に入っています。これまでに所外より10件以上の実験依頼(凍結あるいは新鮮、精子細胞あるいは精子)を受け、すべて産子を得ています。一発勝負の実験では、越後貫成美、井上貴美子、三木洋美、そして小倉の4人で実験して胚移植数をかせぎます。他に、越後貫を中心にウサギのICSIも進めています。彼女は、大学生時代から精子注入を始め、顕微授精に用いた動物種数ではおそらく世界一だと思います。精子よりも精子細胞の注入に闘志を燃やす研究室唯一の貴重なサウスポーです。感染研の霊長類センター(山海直先生)勤務の経験もあり、サル類にも詳しいのが強みです。また、明治大学大学院(長嶋比呂志先生)修士課程1年生の三木は、胎仔および新生仔雄性生殖細胞からの胎仔・産子の作出を進めており、17日齢由来精子細胞からの産子作出に初めて成功しています。彼女は、初の学会発表(昨年の繁殖生物学会)で大会長賞に選ばれ、初の国際学会(今年1月ニュージーランドの IETS)では口演に選ばれた実力派です。
 ・核移植クローン:感染研時代に引き続き、理研BRC でも技術開発を進めています。本家の理研CDB若山先生(隣のぺージ)とは時々情報交換をさせてもらっていますが、未だ必ず成功する技術ではありません。当研究室では、井上貴美子が特にその安定化に力を注いでおり、そのおかげで理研でも5種類の細胞から産子あるいは正常胎仔を得ることができました。彼女は、胚・配偶子の顕微操作と生化学の各種技術をマスターしている貴重な人材であり、感染研(筑波大大学院生)在籍中に初のミトコンドリア病マウス作出に成功しています。
 事務その他雑務全般は、中村可奈子が担当しています。彼女は、保母さんの免許も有り、当研究室にうってつけの人材と言われています。さらにこの4月からは、生化学担当の本多 新、胚操作担当の大川美佳の2人を加えてスタートしています。

■今後の予定
 動物実験の本格的な開始は昨秋と遅れたため、現在ようやく各種の胚操作技術が安定してきたところです。当面の目標はこれらの技術の更なる改良と応用です。一方、BRCのマウスバンク業務は昨年夏から順調に進んでおり、現在系統IDは900番台に入っています。これは日本中の皆さんからのご協力の賜物であり、目標(2000系統以上)達成のため、今後もより一層のマウス系統の寄託をお願いする次第です。凍結保存をご希望のマウスをお持ちでしたら、是非、持田(jmochida@rtc.riken.go.jp)あるいは私(上記)までご一報下さい(理研BRCの寄託および分与に関するホームページ:http://www.brc.riken.go.jp/lab/animal/index.html)。また、今年秋には、現在横浜で活躍している理研ゲノム科学総合研究センターの城石グループ(マウスのENU mutagenesis プロジェクト)も筑波研究所に加わりますので、わが国のマウス遺伝学の拠点としての層の厚みが増すことが期待されます。理研はこの10月から独立行政法人化される予定です。現在我々は、目先の課題をこなすだけで手一杯のその日暮らしの実験生活ですが、今後はこれらの既定路線の先にある、すなわち次の時代を予測した中長期的計画をどう進めるかを策定しようとしているところです。

理研BRCで初のクローンマウス(左)と感染研で生まれた卵丘細胞クローンマウス由来の尾細胞クローンマウス(右)。
理研BRCで初のクローンマウス(左)と感染研で生まれた卵丘細胞クローンマウス由来の尾細胞クローンマウス(右)。

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