施設紹介

岐阜大学農学部 生物資源生産学科 動物生産学講座

岩澤 淳

【JRD2003年4月号(Vol. 49, No. 2)掲載】



■はじめに


図1  緑豊かな岐阜大学のキャンパス

 このコーナーでは公的な研究機関、先端的な研究センターや特色ある民間の研究所などが紹介されることが多いようですが、私たちの施設はいたって普通の地方大学の研究室です。岐阜大学の農学部は前身の岐阜高等農林学校の時代から数えて今年(平成15年)で80周年を迎える長い歴史をもっており、数多くの農業技術者や研究者を世に送り出してきました。また、獣医学科をもつ数少ない農学部のひとつとしても知られており、野生動物医学への貢献が評価されて、文部科学省の平成14〜18年度21世紀COEプログラムにも採択されています。
 
 さて、私たちの動物生産学講座は、かつて家禽畜産学科と称していました。昭和30年代、我が国の養鶏産業はめざましい発展を遂げつつありました。しかしながら、養鶏の専門技術者と研究者を育てる教育機関がないので、すでに養鶏専門の学科をもち、品種改良などに優れた実績のあるアメリカなどに比べて日本の養鶏産業が立ち後れてしまうと、当時養鶏の一大中心地であった岐阜県の養鶏業界は危惧していました。養鶏専門の学科を新設してほしいと文部省をはじめ各方面に働きかけ、また多大な寄付金によって、昭和38年に日本で唯一の「家禽畜産学科」が岐阜大学に設立されたのです。最盛期の学科は家禽育種学、家禽管理学、家畜飼養学、畜産化学、畜産製造学、畜産経営学の6講座、教官18名からなる充実したものでした。キャンパスには種卵の採取から孵卵、育成、採卵までの過程が一貫して実習できる養鶏施設が設置されました。文字どおり日本の各地から優秀な学生が集まり、当時の卒業生は現在、教育・研究職や行政職で、あるいは養鶏業界で指導的な活躍をされています。しかし、時代の推移とともに農学部の変革が求められるようになり、平成5年3月、学部改組によって家禽畜産学科は30年の歴史を閉じました。私たち動物生産学講座はこのようなやや特殊な沿革をもった家禽畜産学科の解消によって生じた大講座で、現在、動物栄養学、動物繁殖学、動物生理化学の3分野からなり、スタッフは5名という小規模なものです。


■所在と施設の概要


図2 ニワトリの産卵管理実習


図3 鶏卵の品質検査実習(卵殻強度の測定)


図4 美濃加茂農場での宿泊実習


図5 出産直後の子ヤギの体重測定


図6 学生が調理したおいしいローストチキン


図7 教授を囲んでの楽しいパーティ(後方奥に筆者)

 岐阜大学のキャンパスは濃尾平野の北端、岐阜市の北のはずれに位置しており、田園と低山に囲まれたのどかな場所にあります(図1)。現在の農学部は典型的な地域依存型で、これは平成14年度の入学者の出身県(愛知52%、岐阜20%、三重6%、その他22%)が端的に物語っています。同じ濃尾平野でも愛知と岐阜とでは気候も言葉もやや異なっているため、新入生の過半数を占める愛知県出身者はプチカルチャーショックを受けることとなります。
 
  大学のキャンパスはおよそ63 haですが、そのうち約10 haを農学部の附属農場が占めています。また、近郊の美濃加茂市には飛騨牛などの和牛を専門に扱う美濃加茂農場(約10 ha)があります。農場の施設ではやはり養鶏関係の設備が充実しています。郊外型大学の利点を活かして、種鶏舎、育雛舎、開放鶏舎、無窓鶏舎などを合わせて2,000羽以上のニワトリが飼育でき、これは国立大学では有数の規模といえます。大半は白色レグホーン系のコマーシャル産卵鶏ですが、横斑プリマスロックやロードアイランドレッド種のニワトリも少数ながら飼育されています。



■教育と研究の概要

現在の動物生産学講座の規模では畜産学の統合的な教育は望むべくもありませんが、恵まれた農場施設を活かして各種の実習が行われています。養鶏施設管理の実習(図2、3)や美濃加茂農場に宿泊しての牧場実習(図4)などは、かつての家禽畜産学科時代からの流れを汲み、単なる「体験実習」を越えた、内容の濃いものです。また、家畜の出産や死亡に立ち会うことも多いので(図5)、学生は「動物を飼う」ということ、さらには「生きる」ということについて、深く考える機会をもつことになります。
 
  必修の卒業研究は指導教官のテーマに沿った実験を行い、1年間かけて論文にまとめます。研究対象は主に家禽・家畜ですので、何か試薬などを投与していない限り、それは食材でもあります。ニワトリが毎日産む卵は目玉焼き、オムレツなどの形でしばしば学生の食卓に上りますが、「おいしく食べてあげてこそ家畜は幸せ」との考えから、試験研究に協力してくれたニワトリに感謝をこめて、おいしくいただくこともあります(図6)。この場合、当然のことながら、はじめから鶏肉があるわけではなく、屠殺をしてこその食肉なのですが、スーパーから肉を買って調理していると忘れがちなこのことについて、卒業研究をきっかけに思いをいたすこともしばしばです。ある学生は将来の夢として、青少年を対象に、家畜を世話し、屠殺し、調理して食べるまでを一貫してできる体験農場をやってみたいと語ってくれました。子供に体験させるのは残酷なように思えますが、「食」が「いのち」と結びついていることを知ることは子供の教育にとって大きな意義があるというこの学生の思いには率直に感動を覚えた次第です。
 
  講座スタッフ5名の研究内容は、家畜・家禽の生産性向上のための飼育管理方法の策定、中山間地域の夏山冬里方式における肉用繁殖牛の栄養管理といった家畜飼養の現場に即したものから、鶏胚発生中の卵黄血管系をモデルとした血管新生因子の解析といった基礎的なものまで、多岐に渡っています。繁殖生物学に関連したものでは、希少鳥類の保護を目的とした胚操作と卵殻外培養法の開発、ゾウ、チーター、ウミガメなどの希少動物の繁殖生理と人工繁殖の研究、鳥類の生活史における下垂体前葉ホルモンの役割の解明などが行われており、その成果の一部は本誌にもこれまでに何編か掲載していただきました。私自身は最近、鳥類の血糖値調節に興味を持っています。鳥類の血糖値はたとえば産卵鶏の場合で250 mg/dl程度という高いものです。鳥がこのような高い血糖値をもつことの生物学的意義、高血糖値の維持機構、さらには高血糖にはつきものの微小血管障害などの不都合が起こらないしくみなどの解明をめざしています。

おわりに

 私たちの講座では、博士課程(信州・静岡・岐阜大学からなる連合農学研究科)への進学者も少なく、同業者(大学等の研究者)をめざす学生は、皆無ではありませんがごく限られています。このような中にあって、いかに良質の研究を進めていくかは講座スタッフの大きな課題ではありますが、講座の学生ひとりひとりは素直で、感受性が鋭く、好奇心が旺盛で、何よりも動物好きです。動物に直接接して家畜という存在に深く思いを巡らすことができ、これが人格形成の機会にもなるという点で、私たちの講座は物質系の諸分野にはない教育上の特色をもっています。和気あいあいとした研究室(図7)で一緒に学んでくださる修士課程・博士課程の学生さんをお待ちしている次第です。また、スタッフの専門に関連した、家禽・家畜の飼養管理、遺伝子・タンパク質化学実験、ホルモン等の生理活性物質の定量などについての技術相談にも随時対応できます。岐阜大学農学部ホームページ(http://www.gifu-u.ac.jp/‾agri/index.html)もご覧ください。
 
  なお、来る平成15年9月25〜26日を中心に、岐阜大学で第102回の日本畜産学会大会と、関連するいくつかの学会・集会が開催される予定です。のんびりとした環境のキャンパスでの熱い討論に、どうぞお越しください。



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